MFクラウドが進めるFintech×AIによるバックオフィス業務の完全自動化-株式会社マネーフォワード

「SaaS業界レポート2016-2017」のインタビュー(全15本)の第5弾として株式会社マネーフォワードのMFクラウドシリーズやバックオフィス業務の未来について聞いてきました。 【SaaSレポートインタビュー第5弾】

MFクラウドが進めるFintech×AIによるバックオフィス業務の完全自動化-株式会社マネーフォワード

山田一也
執行役員 MFクラウドサービス開発本部 本部長
2006年に会計士試験合格後、有限責任監査法人トーマツに入所。トーマツでは、上場会社の監査をはじめ、IPO支援、内部統制構築支援、IFRS導入支援等幅広い業務に従事。4年半の勤務の後退職、株式会社パンカクに入社。株式会社パンカクの執行役員経営企画担当として、全社戦略の立案等の経営企画業務、経理・財務・総務・法務等のバックオフィス業務を統括。2013年7月 株式会社パンカクのEXITに伴い退職。その後、株式会社Bridgeの執行役員として、ベンチャー企業の管理部業務の立ち上げや、ハンズオンスタイルでの管理部運営支援、IPO支援業務に従事。現在は、株式会社マネーフォワードにて、MFクラウドシリーズのサービス開発を統括

アカウントアグリゲーション技術により個人の家計簿だけでなく会社の帳簿も自動化

―――――Fintechベンチャーとして2014年1月からビジネス向けにMFクラウドシリーズの提供を開始し、(2017年5月時点で)ユーザー数は50万を超えていると聞きました。一般的には個人向け自動家計簿・資産管理サービス家計簿アプリの方がオリエンタルラジオのお二人を起用したCMの効果もあり印象が強いと思うのですが、MFクラウドシリーズはどのようにして生まれたのですか?

弊社はもともと個人向け自動家計簿・資産管理サービス「マネーフォワード」からスタートしているので、確かにこちらの方が印象は強いかもしれません。「マネーフォワード」は金融機関の入出金明細やクレジットカードの取引履歴などをお客様のID・パスワードをお預かりすることで同期して取り込み、自動で家計簿をつけるというサービスで、こちらで活用しているコア技術がアカウントアグリゲーションというものになります。



【出所】マネーフォワード提供

「マネーフォワード」をご利用いただいているお客様の中には個人事業主で確定申告が必要な方がそれなりの数いらっしゃいまして、このアカウントアグリゲーションの技術を法人向けにも活用できないかと考えてスタートしたのがMFクラウドシリーズです。家計簿だけでなく会社の帳簿も自動でつけられるようにしようという発想で「MFクラウド会計・確定申告」からMFクラウドシリーズがスタートしました。アカウントアグリゲーション技術によって自動で帳簿をつけられるようになった点は、これまでのインストール型のソフトウェアとの大きな違いですね。

User Focusによりサービスを拡大

―――――「マネーフォワード」のコア技術を活用してビジネス向けのMFクラウドシリーズが生まれたのですね。まずは会計・確定申告からスタートしたということでしたが、請求書、給与計算、入金消込、マイナンバー、経費精算と次々にサービスを拡大されてきました。どのような考えでサービスを拡大してきたのですか?

マネーフォワードにはMission, Vision, Valueが根付いていて、3つのValueの一つとして「User Focus」を掲げています。このUser FocusというVisionのもと、ユーザーの皆さまの声に真摯に耳を傾けてきた結果としてサービスを拡大してきました。

例えば「MFクラウド請求書」は、もともと会計・確定申告サービスの中に請求書発行機能があったのですが、この機能がユーザーの皆さまに大変好評でしたのでスピンアウトさせる形で一つのサービスとしてスタートしました。また「MFクラウド給与」も会計・確定申告、請求書サービスを提供している中で、ユーザーの皆さまから給与計算に関してもわかりやすくて使いやすいサービスに対する強いご要望を頂戴したことがきっかけでした。

特にニーズの大きなサービスから使い始めてMFクラウドシリーズの良さを知ってもらう

―――――MFクラウドシリーズは個人事業主で確定申告が必要な方の声から生まれたということですが、やはり個人事業主や小規模企業のユーザーが多いのでしょうか?

確定申告は個人事業主、会計や請求書は小規模から中規模が中心です。会計ではまだまだ小規模ユーザーの皆さまのご要望に応えきれていない部分があるので、大規模ユーザー向けの機能の開発はせず、引き続き小規模ユーザー向けの機能の磨き込みを進めていく予定です。

一方で給与計算は規模によって業務に違いがあるわけではないので、小規模から大規模まで幅広くご利用いただけています。また、経費精算は実は中規模から大規模が中心です。もともと小規模ユーザー向けにスタートしたのですが、経費精算のニーズは従業員の数が多ければ多いほど大きいので、こちらは大規模ユーザー向けに磨き込みを進めています。

―――――規模によってニーズに違いがあるとすると、その違いにあわせてマーケティング活動を工夫する必要がありそうですね。

そうですね、こういった特徴を踏まえて個人事業主や中小企業向けには会計、大企業向けには経費精算のサービスから利用していただけるようにマーケティング活動を行っています。それぞれの規模で特にニーズの大きなサービスから利用していただき、まずはMFクラウドシリーズの良さを知ってもらうことを心がけています。

地銀や地方自治体との連携により地方にもFintechが浸透

――――たしかに、一つのサービスを利用してみて気に入れば他のサービスも利用してみようという気持ちになりますね。地域、つまり都心なのか地方なのかでもユーザーの特徴に違いがありそうですがいかがでしょうか?

ニーズの面では都心でも地方でも変わりはありませんね。ただインターネットバンキングの普及率が都心の方が高いので、都心の方がサービスの良さを理解していただきやすいです。一方地方ではインターネットバンキングの普及率が低いのでマーケティング活動を工夫する必要があります。

―――――クラウドサービス全体として地方はまだまだ普及率が低いと聞きますね。貴社ではどのような工夫をしていますか?

例えば地銀との連携です。マネーフォワードは静岡銀行や山口フィナンシャルグループなど複数の地銀から出資も受けており、セミナーの共同開催、お客様のご紹介などをしていただいています。また、地域における中小企業の生産性向上や創業企業の増加による雇用創出を目的として、地方自治体や商工会議所と共同で「MFクラウド地方創生プロジェクト」を立ち上げました。

こういった地道なマーケティング活動によって、地方においてもユーザー数が順調に拡大しています。MFクラウドシリーズを利用するためにインターネットバンキングを始めたという声も頂けるようになってきました。

ユーザー満足度を最優先しAPI連携を加速

―――――地銀との連携の一つとしてAPIの連携があります。貴社では地銀以外にも都市銀行やネット銀行など、銀行とのAPI連携「Open Bank API」を進めています。なぜ銀行とのAPI連携にここまで力を入れているのですか?

APIをオープンにするということは弊社のアカウントアグリゲーション技術の優位性を壊していくことにも繋がってしまうのですが、そもそも同期しているサイトの構造が変わるとスクレイピングが止まって同期できなくなってしまうので、ユーザーの皆さまにご迷惑をかけてしまいます。すぐに直すことはできますがそれでも数時間は止まってしまいますので、このようなことがないように連携を進めています。また、法人分野ですと電子証明書が必要な口座が多く、弊社でも電子証明書には対応しているものの手順が難しく容易に同期できないといったことがあります。

ですので、弊社の技術優位性を壊してでもAPIをオープンにし、ユーザーの皆さまの満足度を高めていくという方針で2年ほど前から「Open Bank API」として銀行とのAPI連携を積極的に推進してきました。また、アベノミクスの新成長戦略にFintechが入り国策としてもFintechが推し進められていく中で、金融機関によるAPIのオープン化が進み、その波にも乗らせていただく形になりましたね。「Open Bank API」のような取り組みは海外でもまだ事例が少なく、世界的にみても先進的な取り組みだと思います。

―――――貴社ではこれまで参照系API(金融機関の残高や入出金履歴などを外部サービス内で閲覧できるAPI)の連携を中心に進めてきていましたが、2017年3月にはBtoB向けサービスでは国内初となる更新系API(外部サービス内から振込などの更新を可能とするAPI)の連携をスタートしました。更新系APIの連携にあたってはどのような難しさがありましたか?

参照系APIの連携では金融機関側のデータをマネーフォワード側で表示するだけなので比較的ハードルが低いのですが、更新系APIになるとマネーフォワード側からデータを投げ込み、金融機関側のデータベースを動かすことになりますのでハードルが高くなります。

セキュリティリスクや不正送金などの問題を背景としてユーザーをどのように保護していくか、弊社のようなFintech企業と金融機関が一体となって対応していくことが必要でした。2016年の夏ぐらいから協議がスタートしたので、参照系API連携の実現には半年以上の時間を要しましたね。



【出所】マネーフォワード提供

同じ方向を向くことが大企業・ベンチャー企業連携の鍵

―――――ベンチャー企業と大企業の連携についてはオープンイノベーションなどの文脈で、価値観やスピード感の違いから失敗する事例をよく耳にします。伝統的な銀行とのセキュリティリスクもある連携を行うとなるととても進むようには思えませんが、この度連携を実現されました。貴社のようにベンチャー企業と大企業の連携を実現するための秘訣は何でしょうか?

ベンチャー企業と大企業が同じ方向を向くことがとても大切だと考えています。今回の参照系APIの連携が実現した背景には、インターネットバンキングではユーザーの皆さまのニーズに応えきれていない部分があるということを金融機関側が感じ取っていたということがあります。

金融機関のシステムの改修には長い時間と大きな労力がかかりますので、スピード感のある改修を進めていくことは難しい状況です。そのような中でユーザーの皆さまのご要望にどう応えていくか。その一つの方法として、金融機関がAPIを公開し、サービスの部分をFintechベンチャーが担当することでスピード感を持って対応していくということがありました。つまり、ユーザー満足度を高めていくという同じ方向を向くことができていたのです。

―――――ベンチャー企業と大企業で同じ方向を向きつつ、上手に役割分担することが重要ということですね。セキュリティ面はいかがですか?クラウドサービス普及のボトルネックとしてセキュリティがよくあがりますが、Fintechは特にセキュリティの堅牢性が求められる領域です。

守りの部分としてセキュリティの面で金融機関との信頼関係を構築することが大変重要でした。弊社のインフラ部門では金融機関のセキュリティに知見のある金融機関出身者を採用しており、また2015年10月には情報セキュリティに関する国際規格ISO 27001、2017年1月にはプライバシーマーク(Pマーク)も取得しています。このようにユーザーの皆さまに安心していただけるような体制を整え、金融機関からのヒアリングに対しても真摯に回答させていただいたことで信頼関係を構築することができたと思います。

サービスが容易に繋がれることこそSaaSの良さ

―――――銀行をはじめとして、クレジットカードや決済サービスなど金融機関とのAPI連携を中心に進めているかと思いますが、銀行以外にもAPI連携をしていますか?

例えばココペリインキュベートの中小企業向け専門家相談プラットフォーム「SHARES」とMFクラウド請求書がAPI連携しています。中小企業が抱える課題の第1位は不良債権の回収で気付いていても相談先がなくそのまま放置されているケースも多いのですが、MFクラウド請求書とSHARESのAPI連携によって未回収になっている請求書をいちはやく検知し、弁護士などの専門家にスムーズに相談できるようなサービスを提供しています。

―――――会計や給与計算の領域は、販売管理、生産管理、在庫管理、人事管理など、いわゆるERPの周辺領域との相性が良さそうですが、こちらはAPI連携よりも自社開発を進めていくことを予定していますか?

SaaSの良さはWEBベースであり他社のサービスと容易に繋がれることです。もちろん何でも自社で開発するということもできなくはないですがリソースにも限りがありますので、弊社としては得意な領域に注力し、他社に良いサービスがあればSaaSの良さを活かして連携するという考え方をしています。

ERPについても従来は一つのブランドで固めるケースが多かったのですが、SaaSでは得意なブランド同士が繋がって形成されていく特徴がありますので、例えば人事管理の領域では自社開発ではなく勤怠管理システムのジョブカン、キングオブタイムなどとのAPI連携を進めており、シームレスにデータを取り込んでいく仕組みを構築しています。

機械学習によりバックオフィス業務の完全自動化を目指す

―――――SaaS業界に限らず、あらゆる業界において人工知能、機械学習の活用がトレンドになっています。貴社ではどのように人工知能、機械学習を活用していますか?

2016年8月からMFクラウド会計・確定申告において、勘定科目の提案機能として機械学習を活用し始めました。従来の勘定科目の提案機能では、自動取得した銀行口座やクレジットカード明細などのそれぞれの取引内容に応じて自動仕訳ルールを設定することでルールに基づいた勘定科目の提案を行っていましたが、初めての利用、年間を通じて利用頻度が少ないなどの理由から自動仕訳ルールの設定をしていないユーザーの場合は、取引ごとに勘定科目を手動で選ぶ必要がありました。機械学習を取り入れたことでこのような場合でもほぼ全ての取引に対してより精度の高い勘定科目の提案が可能になりました。

―――――会計・確定申告の領域における勘定科目の提案機能と機械学習の組み合わせはとても相性が良さそうですね。他にも機械学習の活用を予定している領域はありますか?

今後は与信判断や融資の領域での活用も検討しています。マネーフォワードのMissionは、サービスを通してお金の課題を解決することですが、企業のお金の課題と言えば資金繰りです。そこを解決できる与信判断や融資の領域には、2016年から提供している「MFクラウドファイナンス」の提供を通じて精力的に取り組んでいきたいと考えています。これまではGMOイプシロンのトランザクションレンディングとの提携のみでしたが、2017年3月には住信SBIネット銀行のレンディング・ワンとも新規に提携いたしました。

―――――GMOイプシロンや住信SBIネット銀行との提携では、貴社で与信判断まで行っているのですか?

これらの提携においては、マネーフォワードは必要なデータの提供までを行っています。与信判断は提携先に委ねており、今後もまずは与信判断能力のある企業との提携を進めていきたいと考えています。

―――――人工知能、機械学習の活用・研究などを通じて、どのような世界を実現していきたいと考えているのでしょうか?

バックオフィス業務をやらなくても済むような世界の実現を目指しています。先進国の中で日本の中小企業の生産性は最低のレベルです。例えばログインをした瞬間に決済情報ができあがっているなど、ボタン一つでバックオフィス業務が完了するようなレベルまで効率化することができたら、中小企業の生産性が圧倒的に高まると考えています。

また、バックオフィス業務の効率化の過程で蓄積されるデータを活かして、資金繰りの課題の解決や経営判断の精度の向上、コスト削減の提案などにより、企業が抱えるお金の課題や経営課題の解決を目指していきます。

SaaS業界レポート著者の視点

SaaS業界ではAPI連携によってユーザーにとっての価値を最大化しようとする動きが活発化しています。マネーフォワードのアカウントアグリゲーション技術のようにAPIをオープンにすることで技術面での優位性を壊してしまう負の側面もありますが、ユーザー満足度を第一に考え、満足度を高め続けるからこそユーザーを増やし続けられるという意味で、やはりAPIをオープンにしていくべきです。

ただし、API連携は自社サービスのコアバリューの選択とパートナーとの役割分担の明確化が必要となりますので簡単に進められるものではありません。誰とどう連携するかといった意思決定を正しく行うためには、まず中長期的な成長戦略を描くことから始めましょう。

マネーフォワードはOpen Bank APIとして銀行とのAPI連携を積極的に進めていますが、メガバンクをはじめとした銀行との連携を実現した背景にはWin-Winな状況を創出できたことがあります。SaaS業界に関わらず大企業とベンチャー企業の連携の必要性が叫ばれていますが、このように大企業にとってもベンチャー企業にとっても大きな成長の原動力になる連携でなければ進みません。とりあえず連携ではなく、成長のために絶対に連携というスタンスで臨むべきです。

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著者紹介:阿部 慎平 (あべしんぺい)新卒でデロイトトーマツコンサルティングに入社後、大手企業の事業ポートフォリオ戦略、成長戦略、新規事業戦略、海外事業戦略、ベンチャー企業買収戦略など戦略プロジェクトに従事。 より主体的に事業に取り組みたいという思いから2017年3月にスマートキャンプに参画。現在はSaaS業界レポートや事業企画・営業、新規事業立ち上げを推進。