ウォンテッドリーが提唱する100年ライフ時代の働き方「人脈や評判を資産に変える」

ウォンテッドリーは、「Wantedly」や「Wantedly Visit」や「Wantedly Chat」など、さまざまなサービスを提供しています。この背景には「100年ライフ時代の働き方を実現する」という大きなビジョンがありました。

ウォンテッドリーが提唱する100年ライフ時代の働き方「人脈や評判を資産に変える」

相川 直視(左)
Wantedlyのエンジニア。自然言語処理、検索・推薦技術に関心を持つ。早稲田大学の検索など大規模並列処理を専門に扱う研究室に所属し、Microsoft Researchでのインターンを経てGoogleに入社。検索システムの開発に従事。2012年に転職し、Wantedlyの開発に参画。入社後はランキングロジックや課金システム、インフラ基盤などバックエンドを中心に開発。2016年8月よりWantedly Peopleアプリの開発リーダー。

丹治 信(右)
東京大学大学院で進化計算・機械学習と音楽情報処理の研究を行う。大学院修了後、東京大学知の構造化センターで研究員としてシラバスの可視化や自然言語処理の研究に携わる。2015年からWantedlyにエンジニアとして入社、2016年からWantedly Peopleの立ち上げに参加し機械学習の導入とグロース施策を行う。

100年ライフ時代の働き方を実現する名刺管理アプリ

――貴社には代表的なサービスとして企業訪問サービス「Wantedly Visit」やチャットサービス「Wantedly Chat」があります。そして2016年11月には、それまでとは全く異なるカテゴリーである名刺管理アプリ「Wantedly People」をリリースし、約4か月で登録名刺枚数が1000万枚を超えたと伺いました。この「Wantedly People」リリースはどのような背景でしょうか?

ウォンテッドリーのサービスは書籍として発刊され、世の中の大きなトレンドとなっている「ワーク・シフト」と「ライフ・シフト」の考え方に大きく影響を受けています。

まず以前から提供している「Wantedly Visit」と「Wantedly Chat」は、特に「ワーク・シフト」の考え方に影響を受けています。テクノロジーの進化を背景として、私たちは会社の中だけでなく個人として、また個人のつながりから生まれる小さくて多様なチームとして働くようになってきています。

この新しい時代の働き方では外部資産も含めた個人のつながりがとても重要で、このつながりを提供したいという思いで「Wantedly Visit」と「Wantedly Chat」を展開してきました。

それに対して、名刺管理アプリ「Wantedly People」は「ライフ・シフト」の考え方から生まれています。医療技術の進歩を背景として「100歳まで生きて、80歳まで働く」という新しいライフスタイルの時代へと突入しています。

こうした「100年ライフ時代」では、1つの組織で一生勤め上げるような働き方から、個人の持つ無形資産である「人脈」や「評判」を充実させ、さまざまな組織を渡り歩くような働き方が主流になっていきます。その「人脈」や「評判」を持ち歩くためのツールとして2016年11月に名刺管理アプリ「Wantedly People」の提供をスタートしました。

――人脈や評判といえば、FacebookやLinkedInなどのSNSが想起されます。「Wantedly Visit」と「Wantedly Chat」というSNSの基盤もサービスラインナップとして保有している中で、あえて名刺管理領域に着目された背景はいかがでしょうか?

弊社では名刺も一つのソーシャルアカウントとして捉えています。特に日本の場合は米国をはじめとした海外とは異なりLinkedInのようなビジネスSNSがあまり普及しておらず、依然として名刺交換の文化が根強く残っています。そのためこの名刺文化に着目し、人脈や評判を持ち歩くツールとして一番近いものとして名刺を捉え「Wantedly People」の提供に踏み切りました。

個人のユーザーが「楽しい」と感じるUX

――個人としての人脈や評判を持ち歩くためのツールとのことですが、たとえば社内での名刺情報の共有など、法人向けの展開も考えていますか?

基本的には名刺情報は個人の資産であると考えているので、ユーザーが増加していく中で法人向けにも展開する可能性はありますが、現時点では個人向けにフォーカスして開発を行っています。

法人を意識した機能としてはオンライン上での名刺の貸し借りがあります。LINEやSMS、メールなどで、読み取った名刺のデータを会社の同僚・上司と共有でき、名刺の貸し借りをアプリ内で完結することが可能です。共有したリンクは時間が経つと使用できなくなる仕組みのため、情報流出のリスクもありません。

とはいえ、特に大切にしていることは個人のユーザーの皆さまに「楽しい」と感じてもらえるUXの提供です。UXへのこだわりの一例として、ポケモンGoのようにスマートフォンの画面に映し出された名刺を「捕まえる」と感じさせるUIにしています。弊社では「働くことをもっと楽しくしたい」という思いで事業を行っているので、人と出会って名刺交換をするという体験をもっと楽しんで欲しいという思いを込めて開発しました。

(出典:ウォンテッドリー提供素材)

最大10枚までの名刺一括取り込みを実現する認識技術

――SaaS業界では人工知能や機械学習の活用が重要なトレンドになっています。「Wantedly People」ではどのように活用されているのでしょうか?

主に画像認識・文字認識の部分で機械学習を活用しています。「Wantedly People」の一番のコアテクノロジーはこの画像認識・文字認識による「複数枚の名刺の一括取り込み」技術です。それまでスマートフォンで名刺を保存する場合は1枚ずつ写真を取る必要がありましたが、「Wantedly People」では最大10枚まで一度に名刺を読み込むことができるというコンセプトでスタートしているので、プロトタイプ段階でもこの特徴を機械学習によって実現できるかをまず試しました。

実は名刺の読み取りは「画像」ではなく「動画」で実現する構想をしていました。名刺の文字は少しの手ブレでも認識できなくなってしまうので、複数名刺の読み取りには適していないと考えたためです。

しかし、動画では光の当たり方の変化などによって正しく読み込むことができないといった課題が浮上したため、最終的には画像として読み込む方式にしました。このように試行錯誤をした後、実現できると判断してからは一気にリリースに向けて開発を進めましたね。

「Wantedly Visit」でも人のマッチング、また(相川氏の)前職のグーグルでは自然言語処理など、ユーザーの皆さまからは中々見えにくい部分で機械学習の活用・研究を行ってきました。一方、名刺管理アプリでは画像処理なので、認識の精度の高さがユーザーの皆さまからでも一目でわかるので開発していて非常に面白く、やりがいを感じています。

――特に名刺情報では、会社名やメールアドレス、電話番号など、一文字でも誤りがあると使い物にならなくなってしまうなど、精度の高さが重要視されます。貴社ではどのように精度を高めているのでしょうか?

三角形などを除く一般的な名刺の形であれば高い精度での認識が可能になってきていますが、一般的な名刺でもたとえば上下や左右など半分ずつ色が異なる名刺で、1枚の名刺なのか2枚の名刺なのか判断しづらいものなど、認識が難しい場合もあります。

人工知能と機械学習を用いて画像認識・文字認識を行っているため、読み込めば読み込むほど認識・マッチング率が向上する仕組みにはなっていますが、営業や広報など名刺交換の回数が多い社員に認識できなかった名刺を持ってきてもらい、検証し、認識精度を上げるといった地道な開発も行っています。

また「Wantedly Visit」のアカウント情報との紐づけによる正確性の担保も行っています。「Wantedly Visit」側でアカウント登録をしている場合に、「Wantedly People」で読み込まれた情報を基に「Wantedly Visit」側のアカウント情報を参照する仕組みです。

このような仕組みは、「Wantedly Visit」や「Wantedly Chat」を通じて築いてきた社内SNSの基盤があるからこその強みだと考えています。

さらには、会社名やメールアドレスを画像認識・文字認識で正しく読み込めなかった場合に自然言語処理で修正する仕組みの開発も行っています。画像データとしても保存しているため誤りがないか後から確認することはできますが、ユーザーの皆さまの手間を可能な限り軽減するためにさまざまな角度から精度向上に努めています。

人工知能やアニメーションなどを活用、スピーディな名刺取り込みを実現

――個人のユーザーの皆さまへ「楽しい」というUXを提供することを特に大切にされていると伺いました。「楽しい」UXを実現するという観点では、どのように人工知能を活用されていますか?

人工知能を活用する際、画像という比較的容量の重いデータをいかにスピーディに取り込むかという点に注意しています。複数の名刺情報を一括で取り込むことを特徴とした名刺管理アプリを提供していくためには、複数の名刺をスピーディに取り込むことができることが大前提となります。

たとえば、名刺領域の認識は自前のロジックで作り込んでいます。深層学習も試してみましたが有名なライブラリをそのまま使うだけでは4秒ほど掛かってしまい、チューニングをしても0.5秒までしか改善できませんでしたが、自前のものでは0.1秒で処理を終えられるようになっています。実際には、スマートフォンのCPUの負荷も考慮し0.3秒で処理を終えるよう実装しています。

――それだけ瞬時に処理が終わるのであれば十分に素晴らしいUXの提供が可能と考えられますが、人工知能の活用以外の観点からも工夫されている点はありますか?

実際には素早く処理を終えているものの、ユーザーの皆さんに読み込みを待つという感覚を感じさせないようにアニメーションの工夫もしています。名刺管理アプリの市場においては、本当は名刺情報をデジタルで管理したいのに、アプリの煩雑性やデータ化のスピードの遅さなどの理由で踏み切れていないという課題が残されていました。その悩みをテクノロジーの力で解決したいという思いで「Wantedly People」を開発したので、使いやすさとスピードにはあらゆる角度から徹底的にこだわっています。

PC版のリリースやAPI連携の軸はUXの最大化

――CRMや会計、人事などの領域ではAPI連携の動きが加速しています。名刺情報は特にCRMやマーケティングオートメーションツールとの親和性が高いと考えられますが、「Wantedly People」ではどのような連携を検討されていますか?

CRMやマーケティングオートメーションツールとの連携については現時点では考えていません。2017年4月に個人向けのUXの向上を目的として「Wantedly People」のPC版をリリースし、PC版ではCSV形式でデータを取り出すことが可能になりましたので、ユーザーによってはCRMやマーケティングオートメーションツールに取り込むような活用をされる方も出てくるだろうとは考えています。

なお、API連携については基本的にはオープンAPIで、連携はユーザー側に委ねる方針です。この方針は「Wantedly Visit」から踏襲しているもので、「Wantedly Visit」ではブログ機能などをオープンAPIとしています。基本的には誰でも簡単に使いこなすことができるようなシンプルなサービスを作り、名刺管理については「Wantedly People」内で完結させるということにこだわりを持ってサービス開発を進めています。

――2017年2月にはドキュメントスキャナの「ScanSnap」との連携を開始しました。この「ScanSnap」との連携はどのような背景でしょうか?

「ScanSnap」との連携はまさに名刺管理業務の最適化を目的としたものです。やはり「Wantedly People」の利用開始にあたっては、利用前に交換した名刺をすべてカメラから取り込むことがハードルとなっていました。「ScanSnap」を使用することで1,000枚を超える名刺も簡単に取り込むことができるようになりますので、このハードルを大きく下げることが可能です。「ScanSnap」は特に実際にデモアプリを作ってみた際の体験が非常に良かったため連携を決定しました。

――2017年4月にはPC版もリリースされました。スマートフォンだけでなくPCで利用できれば利便性が大きく向上しそうですね。具体的にはどのような背景で、どのような機能をリリースされたのでしょうか?

弊社では定期的にユーザーの皆さまへアンケートを取っており、PC版はユーザーの皆さまからの強いご要望を受けてリリースしました。前述のCSV形式でのデータエクスポートに加え、資料を添付するなどPCからメールを送る際に、直打ちの手間なくワンクリックでメールの送信先を入力することが可能です。

人脈や評判を自ら積極的に管理する世界を実現する工夫

――ウォンテッドリーとして、名刺管理アプリ「Wantedly People」の提供を通じて、今後どのような世界の実現を目指しているのでしょうか?

ウォンテッドリー全体としては「シゴトでココロオドル人を増やす」ことをビジョンとして掲げて事業を推進しています。「ワーク・シフト」「ライフ・シフト」にも書かれているように、人々の働き方が多様化していく時代の中で、時流の変化も捉えながら、仕事を楽しむ人々を増やしていきたいと考えています。

そして「Wantedly People」としては、「名刺を取り込むことが楽しい」「もっと名刺を交換したくなる」という体験を通じて、「人脈」や「評判」を自分自身の資産として積極的に管理するようになる世界観を追求してきたいと考えています。

SaaS業界レポート著者の視点

ウォンテッドリーは100年ライフ時代を生きる個人が「人脈」や「評判」を持ち歩くことを支援するツールとして名刺管理アプリ「Wnatedly People」を2016年11月にリリースし、2017年7月までにユーザー数100万人、名刺データ数2,000万枚を突破しています。

これほどのスピード成長を実現した背景の一つにはアニメーションの工夫など「楽しい」と感じるUI/UXへのこだわりが挙げられます。オンプレミスと異なりSaaSの場合は情報システム部門ではなく実際のエンドユーザーから導入が進むという特徴があるため、SaaSビジネスでシェアを獲得するためにはエンドユーザーにとっての利便性を徹底的に追求することが重要です。

また「Wantedly People」は2017年7月19日に新機能として名刺をスキャンした相手との話題を提供する「Wantedly People Updates」とそこに広告を掲載する「Wantedly People Ads」の提供を開始しました。SaaS業界ではUI/UXの最適化や人工知能活用以外に「プラットフォーム化」も大きなトレンドとなっており、今回の新機能の提供を通じて「Wantedly People」のプラットフォーム化、そしてプラットフォームとしてのマネタイズが進展すると考えられます。


SaaSとは?意味・市場規模・トレンド徹底解説!SaaS業界レポート/カオスマップ(2016-2017) | ボクシルマガジン
先進的なSaaS企業・機構へのインタビューを通じて、手探り状態のSaaS業界の解明にチャレンジ。「SaaS業界レポ...


著者紹介:阿部 慎平 (あべしんぺい)新卒でデロイトトーマツコンサルティングに入社後、大手企業の事業ポートフォリオ戦略、成長戦略、新規事業戦略、海外事業戦略、ベンチャー企業買収戦略など戦略プロジェクトに従事。 より主体的に事業に取り組みたいという思いから2017年3月にスマートキャンプに参画。現在はSaaS業界レポートや事業企画・営業、新規事業立ち上げを推進。