freeeが目指すプラットフォーム戦略、会計から人事・会社設立まで「トータル支援」のねらい

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記事の情報は2017-08-09時点のものです。

freeeは、会計から給与計算、さらには会社設立といった各種バックオフィス業務を支援するサービスを提供しています。「SaaS業界レポート2016-2017」インタビュー(全15本)の最終回は、同社がサービス領域を拡大する理由について伺いました。
freeeが目指すプラットフォーム戦略、会計から人事・会社設立まで「トータル支援」のねらい

尾形将行
法人事業統括
総務省、内閣官房、外務省を経て、アクセンチュア戦略コンサルティンググループにてマネージャーとして通信、ハイテク業界向けに海外市場参入、新規事業企画、パートナー戦略企画、実行等のコンサルティングに従事。その後freeeに入社し、現在は事業開発本部の責任者。スタンフォード大学ロースクール修士、香港科学技術大学MBA取得。1男1女の父で休日は家族でテニス、卓球、自転車、登山、野球といろんなスポーツを楽しむことに全力を注いでいる。

人が創造的な活動にフォーカスできる世の中を目指して

――2017年3月のプレスリリースにてHR分野における新サービス「人事労務 freee」を2017年初夏より提供されると発表されましたが、まずはこれまで提供されてきた会計、給与計算、会社設立について、どのような考えでサービスを提供してきたのでしょうか?

弊社では「スモールビジネスに携わる全ての人が創造的な活動にフォーカスできるよう」というミッションを掲げており、起業やビジネスをすすめる上で経理業務などのわずらわしさが障壁になっていることは大いにあると考えています。

そこで、まず2013年3月に「会計freee」をリリースした後、このミッションのもと、給与計算、会社設立へとサービスを拡充してきました。日本のスモールビジネス向けソフトウェアが他国よりも遅れているのではないかという課題意識が常にあり、freeeのサービスを充実させることが起業や日本の経済活性化につながると考えています。

給与については、経営がカネ、ヒト、モノと言われる中で、カネの次はヒトにフォーカスすべきと考えました。その中でも特に面倒な部分としてまずは給与計算から始めるためにサービスを開始しました。給与計算という点で会計業務に関わってくるなど「会計freee」との親和性が高いことも背景にあります。

ビジネスモデルの変化に対応したサービスで、新たな企業を支援

――「会社設立freee」は無料で提供されていますが、これはどのようなサービスで、貴社にとってどのような位置づけなのでしょうか?

会社設立freee会社の設立時には、日本では20数種類以上の書類を書かなくてはならないのですが、会社設立freeeは、その書類をスマホからでも簡単に5分で作成できるサービスです。また、起業家は登記手続きだけでなく、登記後も複数の役所手続きや銀行など民間サービスの申請にも追われます。

会社設立freeeでは役所手続きのガイドや、新設法人でも利用しやすい金融機関との連携など、起業家が本業にいち早くフォーカスできる体制を整えられるようなサポートをしています。

こういったサービスを通じて、新しい企業が次々と生まれてくる世の中を実現したいと考えており、最終的には「起業した方々がさらにビジネスを成功させるためにfreeeを使ってもらいたい」という思いで、無料で提供させていただいています。

起業したユーザーのサポートという観点では、freee ユーザーの皆さまが、経営者支援組織から経営に関するアドバイスをリアルタイムに受けられるように、「freee VCアドバイザーアカウント」をリリースしました。

これはクラウド会計ソフト freee上のデータを活用し、リアルタイムなコミュニケーションを実現することでスタートアップ企業がより成長するためのサポートを行うものです。

他にもベンチャーのイベントに審査員やスポンサーという形で積極的に関与しています。IVS(Infinity Venture Summit)やICC(Industry Co-Creation)といったカンファレンスではピッチコンテストの受賞者に「会計freee」を無料提供するなどしています。

――2016年11月に発表されたシェアリングエコノミー協会との提携、2017年1月に発表されたフリーランス協会の設立も、新しい企業の設立を促す取り組みの一つでしょうか?

そうですね、シェアリングエコノミーやフリーランスは個人事業の新しい形としてトレンドになっていますが、個人事業を展開しようとする人が初めにつまずくポイントは、やはり税金や経理などお金まわりの業務ですので、協会と連携することでこのような課題に対応していきたいと思っています。

また、個人事業主さまのビジネスモデルは変化しており、それに伴い弊社サービスに対するニーズも変化していきます。

こういったニーズの変化を察知し、サービスをより良くしていくためにもこのような連携を進めていくことが重要だと考えています。特にシェアリングエコノミーを機会として新しい事業が次々に生まれてくると考えていますので、それを少しでも支援できればと思っています。

人事労務領域において統合型ソリューションを提供

――2017年初夏よりHR領域の新サービスとして「人事労務freee」の提供をスタートされます。「人事労務freee」として提供する機能、およびこれまでの会計領域から人事労務領域へと拡大する背景についてはいかがでしょうか?

今後は会計領域だけでなく人事労務領域も含めてバックオフィス部門として捉えて、「給与計算freee」を起点に「人事労務freee」を提供してきます。

具体的な提供機能はこれまでの給与計算やマイナンバー管理に加えて、勤怠管理、労務手続き、従業員管理を強化・新機能として提供する予定です。


(出典:freee提供)

人事労務領域では従業員情報や勤怠情報などのデータのインプットから計算・加工、そして書類作成や手続きなどのアウトプットまでの複数の業務においてさまざまなシステムと紙が利用されており、システムごとに方向の異なる課題がある、従業員情報を一気通貫で見ることができないなど、複雑な業務フローによって多くの課題を抱えています。

弊社の独自調査からは、50~500名の企業では人事労務に平均3名の担当者が平均4個のシステムを紙と組み合わせて利用しており、結果として業務に大きな非効率性や労務リスクが発生していることも判明しています。

このような状況を受けて、人のデータの一元管理、またインプットからアウトプットまで一気通貫での対応をクラウド上で可能にする統合型ソリューションとして「人事労務freee」の提供に踏み切りました。

――特に人事労務領域においては、これまでは特定業務に特化したソリューションが多いイメージです。貴社のような統合型ソリューションへの需要はどの程度あるのでしょうか?

大企業では業務フローにあわせた一つのシステムが統合型ソリューションとしてすでに導入されています。一方、中小企業向けとなるとニーズに応じて都度システムが導入されてきたため、やはり特定業務に最適化されたサービスが中心となっています。

こういったサービスはUXも重視されていて素晴らしいものもありますが、規模があまり大きくない段階でも実はばらばらのシステムを利用していることに人事部門や情報システム部門の担当者は苦労しているので、統合型ソリューションに対する需要は大きいと考えています。

とはいえ、たとえば労務手続きの手間などはある程度採用数が増えてから発生するものなので、スタートアップなどの小規模企業向けには必要な機能だけをご利用いただけるようにプランを設けて提供していくことは考えています。会社を運営していくにあたってはじめに必要になる機能としては給与計算がやはり一番多いので、これまで通り給与計算機能は単独でも提供していきます。

――勤怠管理、労務手続き、従業員管理、マイナンバー管理といった新機能は自社開発していくのでしょうか?あるいは既存サービスとのAPI連携を進めていくのでしょうか?

勤怠管理はこだわろうとすればいくらでも複雑化していく領域ですので、ユーザーさまへの価値提供をいかに早くできるかという観点で、API連携をしながらサービスを提供していこうと考えています。

もちろん、簡単な勤怠管理機能は提供できるようにしますし、ゆくゆくは弊社のサービスを一気通貫で利用したいというユーザーさま向けに複雑な勤怠管理機能も提供していく可能性はありますが、複雑な勤怠管理機能についてはまずはすでに対応している特化型のサービスと連携していく形ですね。

実は7、8割は簡単な勤怠管理機能で十分カバーできるのですが、規模が大きくなると、やはり特有の勤怠管理ニーズが出てきます。勤怠管理に限らず、こういったカスタマイズのニーズに対してはAPI連携によって対応していくイメージです。

人工知能による業務の自動化と経営課題のアラート

――SaaS市場においては人工知能、機械学習の活用がトレンドになっています。会計領域ではやはり自動仕訳での活用が中心でしょうか?

人工知能の活用という意味では「自動仕訳の精度向上」と会計データを活かした「経営者への気づきの提供」という2つの方向性があります。

「自動仕訳の精度向上」については、仕訳のミスに加えて、さまざまなサービスと連携をしているとデータが重複して入ってきてしまうこともあるのでこういった経理業務につきまとうミスや重複を無くすことを目標として人工知能を活用しています。

――「経営者への気づきの提供」についてはいかがでしょうか?

会計データを保有していることで、たとえばキャッシュのバランスが崩れているなど経営に関わる課題が見えてきます。人工知能によってこういった課題を通知し、経営者に気づきを提供していきたいと考えています。

データ活用には、ステップ1として「データが存在している状況」、ステップ2として「自分自身で分析をしたら課題が見える状況」、そしてステップ3として「自分自身で分析をしなくても勝手に課題を教えてくれる状況」の3つのステップがあります。これまではBIツールを活用してステップ2までを強化しているサービスはありましたが、弊社ではステップ3までを目指しています。

これまで個人事業主から中小企業、大企業までさまざまな規模のデータを蓄積してきており、さらに大量のデータを蓄積していけばステップ3の世界を実現することは可能だと考えています。また、ステップ3の世界を実現できればお客さまにとってのfreeeの価値も変化してくると思っています。

UX革命によりAIのビジネスパートナー化を目指す

――これまで多様なデータを蓄積してきたとのことですが、人工知能の真価を発揮させるためにはやはりいかに大量のデータを蓄積していくかが重要です。どのように大量のデータを集めていくのでしょうか?

まず、弊社ではAIとデータプラットフォームによって「人が創造的な活動にフォーカスできる世界」の実現を目指しており、その世界に到達するには「UX革命」「グロース」「データ蓄積」「AIのビジネスパートナー化」の4つのステップがあると考えています。


(出典:freee提供)

ステップ1の「UX革命」で革新的なテクノロジーによってUXの期待と現実のギャップが埋まると、圧倒的に質の高いUXがユーザーを惹きつけ、ユーザーが増加することによってさらに利便性が高まるといった正のループが誕生し、ステップ2の「グロース」へと突入します。すると非連続的なユーザー増加を背景として大量のデータが蓄積される「データ蓄積」ステップへと移行し、その結果として大量のデータを取り込んだAIが人間をエンパワーする「AIのビジネスパートナー化」が実現されるといった考えです。

従って「AIのビジネスパートナー化」にあたっては初めの「UX革命」を起こすことが重要で、AmazonやUberも「UX革命」によって大量のデータを収集していますので、弊社としてもまずはエンドユーザーである従業員にとっての利便性を高めていくことを追求しています。

その結果として、ユーザー数はすでに70万社まで拡大してきました。AIをビジネスパートナー化することで人を単純作業から解放し、「人でなければならない」創造的な活動にフォーカスできるようになることを目指しています。

――AIは人の仕事を奪う敵ではなく、人の仕事を支援するパートナーということですね。バックオフィス部門においては、どのように人とAIが共存していくのでしょうか?

給与計算や労務手続きといった処理はAIが担い、人はどうすれば会社のメンバーのパフォーマンスが向上するかといったメンバーサクセスの活動を担うようになります。実は弊社にもメンバーサクセスチームがありまして、弊社でもfreeeを利用することで会計・経理業務は1人の担当者がフルタイムの8割程度の時間で十分にこなせるようになっているのですが、一方でメンバーサクセスチームには5人も担当者がいます。

メンバーサクセスチームでは、メンバーがどうすれば成長できるか、そのために評価システムはどうすべきか、またメンバーに楽しく仕事をしてもらうために福利厚生システムはどうすべきか、カルチャーをどう創り、維持していくかなどの点について検討しています。こういった点はまさに人事部門の方々にフォーカスして欲しいことではないでしょうか。今後はこの仕組み自体もお客さまとともに作り、共有していきたいと考えています。

――中小企業を中心としてサービスを提供していますが、大企業向けの展開はいかがでしょうか?

1000名を越えるような大企業では基幹業務のフローがばらばら過ぎるので、現時点ではターゲットにしていません。昔SAPが日本市場に参入した際、一気通貫での管理を実現するために個社の業務フローにあわせてカスタマイズする戦略をとりました。大企業向けには業務を変えずにERPが導入されてきたので、標準の業務フローといったものが日本ではあまり存在せず、ここに弊社のような標準業務フローを提供する事業が参入するのは困難です。

我々がクラウドによって提供したい価値は業務を圧倒的に効率化することにとどまらず、その業務を見える化すること、後で遡及できるようにすること、そしてそれによって経営分析ができることですので、これを実現するためには個社の業務フローにfreeeがあわせるのではなく、業務フローをfreeeにあわせることによって圧倒的に業務を効率化したい、効率化できると思っている中堅・中小企業をターゲットとして汎用的なソリューションの磨き込みをおこなっていくべきだと考えています。

内部統制対応により上場を目指す成長企業をサポート

――2017年3月には内部統制に対応した「エンタープライズプラン」の提供をスタートしました。こちらのプランによって上場を目指す成長企業までサポートできる形となりましたが、構想としてはいつ頃からあったのでしょうか?


(出典:freee提供)

実はずっと前からfreeeで上場までサポートしたいという構想は持っていて、会社を設立するところから成長するところまでを一気通貫でサポートできる世界はずっと目指してきたものです。まずは創業期から拡大期・安定期向けのサービスを強化してきましたが、freeeをご利用いただきながら成長を実現してきたユーザーさまから「内部統制に対応できる機能はないのか?」という声を頂けるようになってきたので、この度満を持してリリースしました。

――「内部統制に対応できる機能」とは具体的にどのような機能でしょうか?

たとえばアクセスコントロールの観点で「操作履歴の管理」と「操作権限の管理」の機能があります。

「操作履歴の管理」では、請求書の作成業務などでは規模が大きくなると操作するユーザーが増えていきますので、誰がどのタイミングで操作をしたのか遡れるようにしておく必要があることから求められる機能です。また「操作権限の管理」では、何か問題が発生した後の対処策として求められる履歴管理に対して、こちらはそもそも操作できる担当者を制限する予防策として求められます。

また、承認プロセスを含めた「ワークフロー」の機能も提供していきます。内部統制機能として、支払いや見積もりなどの申請者・承認者をトラッキングできることが求められますので、「ワークフロー」はとても重要な機能です。

――エンタープライズプランとしてアクセスコントロールやワークフローの機能が提供されていますが、今後特に強化していきたい機能はどのような機能でしょうか?

今後は「ワークフロー」機能の拡充に注力していきます。たとえば何らかの経費が発生する場合、申請から承認までを一つのフローとしてカバーする必要があり、最終的にそれが会計上の仕訳につながることで業務プロセスを圧倒的に効率化できると考えており、こういったフローの種類をもっと増やしていきたいと考えています。

「ワークフロー」機能を拡充し、従業員が弊社のシステムを利用し始めると、人のデータと会計のデータが結びついていることがより重要になってきます。

たとえば組織変さらによって担当者が別の部署に異動した場合に、その人の所属データを変更することでその人に紐づく会計データも移動し、部門別のコストや生産性などのアウトプットにも自動的に反映されるといった一元的な管理の重要性が高まります。

すると人事労務領域内に留まらず、人事労務領域と会計領域を網羅した統合型ソリューションに大きな価値が生まれてきますので、弊社としてはやはり統合型ソリューションだからこそ提供可能な価値にこだわっていきたいと考えています。

――お金、人ときたら、物の管理が想起されます。ERPの中で物の管理領域と言えば、販売管理、在庫管理、生産管理などがありますが、これらの領域にも拡大していくのでしょうか?

特に販売管理の領域については、会計ソフトなのに請求書の発行・入金管理機能を保有していることがユニークな点ですが、業務プロセスをより効率化・自動化するためにもさらに拡充して販売管理にも注力していく可能性はあると思います。

一方で、たとえば中堅規模の製造業のユーザーが、個別の製造プロセスや原価の算定方式にもとづいて厳密な製造原価の管理をfreee上で実施したいとなった場合には、やはり現時点では専用ソフトの選択をおすすめすると思います。従って、領域拡大については優先順位を考えながら開発・連携を進めていきたいと考えています。

メインユーザーは経理部門から現場の従業員へ

――従業員が貴社のサービスを使い始めると、「UX革命」の観点ではカスタマーサポート体制の整備やモバイルへの最適化の重要性が高まるように思います。これらの点ではどのような工夫をされているのでしょうか?

まずカスタマーサポートについては、チャットボットも取り入れながらお客さまからのご質問やご相談にすぐに応えられるようにしています。すべて人で対応するとなると24時間対応可能な体制を今すぐ整えることは難しいのでチャットボットはとても有効です。営業時間外に連絡をした人でもよくあるパターンの質問であればお待ちいただくことなく回答を得られるようになっています。

モバイル対応の観点では、スマートフォンでステップのUIに従えば確定申告ができるアプリの開発や、Suica等の交通系ICカードを対応のスマホやタブレットにかざすと自動で交通費の申請登録がしやすくなるなどの工夫をしています。

特にスマートフォンで確定申告ができるという点はこだわっているところで、片手で確定申告が終わる世界にしていきたいと考えています。将来的には法人企業の会計も片手で終わるような世界にしていきたいですね。

加えて、これまでは利用者を経理部門と想定してUXの改善を進めてきましたが、今後はモバイルでの利用ニーズの強い従業員が利用者になっていきますので、従業員向けにモバイル最適化を進めていく必要があります。

特に従業員が利用する機能としては前述の経費精算に加え、勤怠の入力、請求書の発行が中心になりますので、これらの機能はユーザー目線でよりわかりやすいものにしていこうと思っています。

その他にはレポート系の機能も強化していきたいと思っています。freeeは経営者の方にできるだけやるべきこと(経営)にフォーカスしていただきたいと思っています。なので、レポートを見たときに、経営として力を入れなければならないことがすぐに分かるようなレポートを目指しています。

――今後、海外展開についてはどのように考えていますか?特に会計領域は国内と海外で商習慣も異なりますので、海外展開の難易度が高いという声もあります。

海外展開については常に検討はしています。海外市場の可能性について商習慣などの観点から調査もしていますし、またパートナーとして展開したいというお話も頂いています。日本との親和性が高い上に、市場規模が大きく成長著しいアジア諸国でのビジネス展開は特に検討しています。

新たなサービスや取引を生むBtoBのプラットフォームへ

――「会計freee」や「人事労務freee」の提供によって目指している世界観について教えてください。

まず絶対に成し遂げたいこととして、人工知能の活用による自動化、会計データと人事労務データの紐づけによる一元管理などを通じて、会計業務や人事労務業務を最適化、効率化していくことがあります。そしてその先として、バーチャルCFO・CHOの実現も目指しています。

実は弊社はもともとCFOという名前でスタートしました。あらゆるビジネスのCFOになれるようなクラウドサービスを作りたいというコンセプトで、Cloud Financial Officerという意味も込めてCFOという名前になったのです。

しかし、CFOという言葉は概念的で弊社のメインユーザーとなる中小企業や個人事業主の方々には身近に感じられないのではないか、またCFOのアウトソーシングサービスと間違われる恐れがあるのではないかということで変更になったのですが……。

会計・人事労務のビッグデータを活用して、資金繰りや人材の最適配置など、CFO・CHOが現状担っている業務を自動化することで、さらに創造的な業務へとフォーカスしていけるような世界にしていきたいと思っています。

また、新しいサービスや新しい取引が生まれてくるようなプラットフォームになることも目指しています。すでに請求書の発行・管理機能などを通じてfreeeのユーザー同士が繋がり始めており、このユーザー基盤と人工知能を掛け合わせることでBtoBビジネスのプラットフォームになることができると考えています。

――最後に、ロゴであるツバメにはどのような意味が込められているのでしょうか?

スモールビジネスに携わる人たちを、バックオフィス業務から開放・自由にするのが、同社のミッションです。開放・自由の象徴である鳥をロゴに採用、中でも飛行スピードが最速のツバメを採用し、いち早く世の中を変えていきたいというメッセージも込めています。

SaaS業界レポート著者の視点

SaaS業界ではポイントソリューションからトータルソリューションへと進化することでユーザーに提供する価値を高める動きが進んでおり、freeeでは「人事労務freee」として給与計算から労務手続き、マイナンバー・従業員管理、勤怠管理まで人事労務領域の課題を総合的に解決するトータルソリューションの提供に取り組んでいます。

トータルソリューションはAPI連携によって実現されるケースが中心ですが、freeeの場合は自社開発とAPI連携を組み合わせて実現しようとしている点が特徴的です。できる限りfreeeのサービスを一気通貫で利用してもらうために簡単な機能は提供できるようにして複雑な機能はAPI連携によって実現するといったスタンスで、トータルソリューションの実現にあたってパートナーに頼り切るのではなく自社としても競争力を高めていこうとしています。連携にあたってはこのあたりのバランスが難しいのですがとても重要になってきます。

また、freeeではユーザー同士がクラウド上で繋がることで効率化・業績改善を可能とするプラットフォーム構想を掲げています。SaaSビジネスにおいてはユーザー基盤を確立することができれば蓄積したデータを活かしたビジネスマッチングなどプラットフォームビジネスが可能になり、特にfreeeのように会計データ、つまり経営に関わる数値データを取得できていると企業の課題・需要が明らかになるためビジネスマッチングプラットフォームとして大きな価値を持つことができます。SaaSビジネスの展開にあたっては、中長期的にどのようなプラットフォームを目指し、そのためにどのようなデータを集めていくべきかといった点での設計は非常に重要です。

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著者紹介:阿部 慎平 (あべしんぺい)新卒でデロイトトーマツコンサルティングに入社後、大手企業の事業ポートフォリオ戦略、成長戦略、新規事業戦略、海外事業戦略、ベンチャー企業買収戦略など戦略プロジェクトに従事。 より主体的に事業に取り組みたいという思いから2017年3月にスマートキャンプに参画。現在はSaaS業界レポートや事業企画・営業、新規事業立ち上げを推進。