遺伝子解析のパイオニア「ジェネシスヘルスケア」 データビジネスに付加価値を与えるOCR技術とは?

ジェネシスヘルスケアは、遺伝子検査サービス市場における国内シェア7割を誇り、遺伝子検査キットの開発や、遺伝子の受託解析・研究サービスの提供を行う企業だ。新規プレイヤーの参入が相次ぎ、競争が激化する業界で、付加価値を生み出すための取り組みを聞いた。

遺伝子解析のパイオニア「ジェネシスヘルスケア」 データビジネスに付加価値を与えるOCR技術とは?

遺伝子検査キット国内シェアNo.1の最先端企業

ジェネシスヘルスケアは、遺伝子解析および研究を専門に行う検査会社であり、ヒトゲノムプロジェクトの完了から翌年にあたる2004年3月に設立された企業だ。

この業界では老舗にあたり、設立当初は医療機関やアカデミア向けに、遺伝子検査の受託解析などを行っていたが、やがて法人向けサービスとしてOEMでの遺伝子検査サービスを提供。2008年には、業界に先駆けてコンシューマー向けの遺伝子検査キットを販売した。現在これらの検査キットのシェアは約70%と、業界No.1を誇っている。

同社は、これまで数多くの遺伝子検査キットを提供してきた。たとえば、最多となる約1400の遺伝子多型と約360項目を一度に検査して疾患リスク等を把握できるリニューアル版の「GeneLife Genesis 2.0」から、肥満や肌老化などの日常生活でなじみのある検査項目に絞って遺伝的傾向を判定する検査キット、遺伝的な性格や特徴の傾向をつかめる自己分析遺伝子検査キットなど、さまざまなサービスを揃えている。

ジェネシスヘルスケアの遺伝子検査キット。多数の疾患リスクや、肥満、肌老化などの日常生活でなじみのある検査項目に絞った検査キット、遺伝的な性格や特徴の傾向をつかめる検査キットなどを発売

同社の遺伝子解析では、すでに累計52万人以上(2017年8月現在)を解析してきた実績があります。この背景には、幅広い解析ができる次世代シーケンサー(Next-Generation Sequencer(NGS))や、1度に多くの遺伝子を解析できるDNAマイクロアレイを同社の遺伝子検査キットにいち早く採用してきたことも大きい。

同社 取締役 CTOの宮原 武尊氏は「我々は、R&D関連施設として遺伝学研究所を有しており、研究・開発から販売までの一貫体制を整えています。そのため遺伝子の解析、検査キットの開発、検査結果報告までの全てが社内で迅速に対応できるのが強みです。内製化に注力して実現している検査キットの提供価格は競争力のひとつとなっています」と、遺伝子検査キットのパイオニアとしての自信を見せる。

ジェネシスヘルスケア 取締役 CTO 宮原 武尊氏

とはいえ最近では、コンシューマー向けの遺伝子検査サービス分野にYahoo!やDeNAライフサイエンスといったIT系企業などの新規プレイヤーが参入しており、その競争も激化の一途をたどっている。

自宅で唾液や口腔粘膜のサンプルを自分で取って検査できるようになったこと、またIT系企業が遺伝子検査サービスをデータビジネスと捉えていることも要因だ。今後も同社が業界No.1の地位を維持するためには、新たな付加価値をつけたサービスの展開が求められている。

宮原氏は「たとえば我々の得意とする遺伝子検査結果の情報に加え、検査キットをご購入されたお客様の食生活や健康診断などの外部データまで含めて、トータルに分析することで確度の高い具体的なアドバイスが行えるようになるものと考えています」と説明する。

遺伝子検査結果の閲覧アプリに、健康診断データを取り込む機能を追加

現在、同社の遺伝子検査の結果は、PCやモバイル、スマートフォンなどから、被験者本人が閲覧できるようになっている。

その結果は「疾患カテゴリ」「体質カテゴリ」「疾患リスクレベル」などに分けられ、がんのリスクならば「どういう種類のがんに罹りやすい遺伝的傾向なのか」「日本人の平均と比べて、遺伝的リスクが高いのか低いのか」といったことまで、細かく調べられる。

被験者本人が閲覧できる遺伝子検査キットの結果その1。さまざまな種類のがんのリスク評価を表示

被験者本人が閲覧できる遺伝子検査キットの結果その2。胃がんの遺伝的リスクを日本人の平均と比較したグラフ

こういった遺伝子検査結果からの詳細情報に加え、前述のように被験者の外的要因、たとえば日頃の食生活や生活習慣に起因する健康診断結果を組み合わせれば、さらに確度の高いサービスを提供できるわけだ。

ただし情報を集めるために、被験者がWebやアプリ上から自身の健康診断データをいちいち手動で入力するのは大変だ。検査項目数も多いため、健康マニアの人以外はハードルが高いだろう。

そこで同社は、スマートフォンのアプリにOCR機能を付加することで、被験者がより自分の健康診断データを簡単に入力できる仕組みを採用することにしたという。

その際に課題になった点が、OCRの読み取りの精度と速度だ。実は宮原氏は、かつてIT企業に勤めていたことがあり、携帯電話機メーカーの機能を比較・検討した経験もあった。

「2008年頃のことですが、シャープ製のガラケーに『らくらく瞬漢ルーペ』というアプリがプリインストールされていました。携帯電話のカメラをかざすと、そのプレビュー画像から漢字熟語や英単語を抽出し、読み方や意味を瞬時に表示できるものでした。この読み取り精度が抜群に優れており、原体験として良い印象が心に深く刻まれていました」(宮原氏)

そこで、このアプリの提供元であったアイエスピーに問い合わせたところ、さらに進化したOCR機能を提供する「かざしOCRライブラリ」(特許出願中)を提示してもらえた。

遺伝子検査結果の閲覧アプリに、このライブラリを組み込むことで、健康診断データを容易に取り込めることがわかったそうだ。

かざしOCRライブラリは、帳票フォーマットに依存することなく、リアルタイムにテキストを解析し、必要な情報のみ抽出できる点が大きな特徴のひとつだ。

従来の写真方式とは異なり、対象上からスマートフォンのカメラをかざし、そのままスライドさせて、必要なデータを次々と読み取る透過型スキャン方式を採用している。

ポイントは任意の帳票フォーマットでも、フィールド(項目名)とValue(値)のセットがあれば、1回でその値を読み取れること。まさに健康診断データ用に最適であった

スマートフォン(iPhone、Android)向けのアプリに組み込めるアイエスピーの「かざしOCRライブラリ」。フォーマットが定まっていない帳票でも、項目名と値がセットになっていれば読み取れる

「写真方式の場合は、すべての対象範囲をカバーするために、何度も撮影を繰り返さなければなりません。かざしOCRライブラリでは、カメラ越しに健康診断データを連続スキャンするだけで、簡単にデータを入力できます。読み込みが終わると、データ項目が画面上から消えていくため、いま何が取り込まれたのかということもその場で確認できます。また近接スキャンのため、読み込み精度が優れている点も気に入りました」(宮原氏)

かざしOCRライブラリを遺伝子検査結果の閲覧アプリに追加。スマートフォンのカメラから被験者の健康診断データをリアルタイムに読み込める。対象項目は、身長、体重、BMI、血液検査など

これ以外にも、同氏は、アイエスピーのサポート面も高く評価している。「我々の業務は、あくまで遺伝子検査がメインです。アプリ開発の際に、数多くの種類があるスマートフォン上での動作検証を全て実施する時間もありません。そこで、これまで実績を積み上げてきたアイエスピーのサポートが欠かせないと判断したのです」と、かざしOCRライブラリ採用の決め手について語る。

法人向けのB2E(Employee)分野に向け、日本IBMと協業し、さらなる健康推進に活用

アプリへのライブラリの組み込み開発は2015年5月ごろからスタートし、アイエスピーのサポートも手伝って、わずか2か月ほどで終了した。

現在、このかざしOCRライブラリを組み込んだアプリ利用者数は、検査キット購入者の1割程度だというが、当初の予想以上に遺伝子検査結果と健康診断データを突合させたいというニーズがあることがわかった。

従来までは、こういった健康診断データを民間で手に入れることは非常に難しかった。しかし今回、かざしOCRライブラリのデータ読み取り機能により、自社の顧客から個人データを直接入手できるようになった点は、メリットとして計り知れないものがある。これで遺伝子検査結果・(事前アンケートによる)問診情報・健康診断データという3種類のデータが出そろったからだ。

「我々は、アプリから取集したデータ(たとえば血中コレステロール値など)の健康診断データと遺伝子検査結果を組み合わせ、新たに食事アドバイスも提供したいと考えています。発売したばかりの新商品『GeneLife Premium』に、このサービスを追加していく予定です(開始時期は今年度末以降)」(宮原氏)

さらにデータを継続して取得することで、ビッグデータ解析による正確な知見を蓄積できるようになるだろう。つい最近のことだが、同社は日本IBMとコグニティブ技術を用いた遺伝子解析サービスの開発を行うため、協業プロジェクトを開始しており、パーソナルヘルスケアサービスの提供を目指して取り組んでいる。

今後は法人向けのB2E(Employee)分野においても、健康推進アプリの開発を進めていく意向だ。遺伝子検査結果から得られる体質や性格の遺伝的傾向と、アプリから取得した食事・運動データ、さらに位置情報を行動変容モデルとし、IBM Watsonでデータを分析して、よりパーソナライズされた健康増進に役立てるという。

「たとえば毎日0時に寝て、朝6時に起きる人がいたとき、一般的には6時間睡眠のため適正な範囲内といえるでしょう。しかし、もし遺伝的に心筋梗塞のリスクが高かったり、カフェイン過敏症の傾向が見られたりする人の場合、十分な睡眠量ではないことがあります。そういった傾向がある方に対して、睡眠時間をもう少し取ったり、20時以降はコーヒーを控えるようになどのアドバイスできるようになります」(宮原氏)

ここまで見てきたように、同社の遺伝子検査キットは単なるモノとしての提供ではない。「モノからコトへ」と新たなサービスをつなぐためのプラットフォームとして動き始めているといえるだろう。

提供企業

株式会社アイエスピー

記事中に登場したサービス

かざしOCR(iOS/Android)

導入時のエピソード

かざしOCR開発者 アイエスピー 技術本部 名手 正太氏

iOS,Androidのスマートフォンアプリに組み込める「かざしOCRライブラリ」を提供しています。ジェネシスヘルスケアさまは縦画面で表示するということで、カメラ画面UI開発部分のご協力もさせていただきました。

これまでのOCR技術の思想をガラッと変えて、映像から文字をリアルタイムに認識していきます。項目とValueを紐付けて同時に解析することで、さまざまなフォーマットがある帳票から文字認識が可能ですし、開発付加=コストを抑えることができます。

健康診断結果票をはじめ自動車保険証券の文字解析にもご利用いただいています。お客様が読み取り項目を設定できる項目設定ツールの提供も開始予定です。また、Windows版も開発中です。