高リスクなICOを凌駕する、社内仮想通貨で働き方改革に成功した事例

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記事の情報は2017-10-30時点のものです。

リソースの獲得や競争に有利な機会創出のための飛び道具としてICO(新規仮想通貨公開)が脚光を浴びているが、競争力向上や業績のV字回復に効果的で堅実な方法は「社内仮想通貨」を活用した働き方改革である。ノーリスクで効率化と残業削減を両立できるのだ。
高リスクなICOを凌駕する、社内仮想通貨で働き方改革に成功した事例

働き方改革の起爆剤となる「社内仮想通貨」は救世主だ

いま、リソースやビジネス機会の拡大を目的とした新たな資金調達の手法として、企業がトークンを発行してパブリックから資金調達するICO(新規仮想通貨公開)が脚光を浴びている。

スタートアップでも迅速に資金調達できる手段として注目されているのだが、価格が急激に変動するリスクや詐欺リスクが高く、中国や韓国では全面禁止が決まった。日本では法整備の是非を探る段階であり、自己責任での取引について金融庁が注意喚起を促したばかりだ。

ICOの高いリスクが叫ばれるいまだからこそ、競争力の向上や業績のV字回復の源泉を、社内仮想通貨(以下、社内通貨)を活用した社内の働き方改革やモチベーション向上に求めた「成功事例」に注目したい。

日本で社内通貨が導入されたのは2005年ごろ。オリジナルコインや紙幣を作って運用したり、ポイント制度のようにシステムで見える化したりと、運用方法はさまざまだが、その多くはささやかな仕組みだった。主な目的はコミュニケーションの活性化や福利厚生で、当時導入した企業は働き方を変えられるとは思っていなかっただろう。

しかしいま、働き方改革の方策として再び社内通貨が注目を浴びている。というのも国の進めている残業時間の一律規制では長時間労働の解決にはならず、労働力人口は減少の一途を辿っているという背景がある。

実際、「残業だけ禁止して現場に丸投げ」「残業する代わりに早朝出勤を強制された」「残業は自宅に持ち帰って対応する」といった不満は根強い。このような働き方改革は企業を弱体化させる。

残業を減らして生産性を向上させた社員に対して「やって当然」とするのではなく、社内通貨を活用し、インセンティブを与えることでモチベーションを向上させることができれば、いまある資本で競争力の向上や業績のV字回復を十分に目指せるのだ。社内通貨は救世主となり得る実力を秘めている。

「インセンティブなら社内通貨じゃなくて現金でほしい」と思う人も少なくないだろう。

だが、社内通貨はたとえ業績が伸びない時期でも会社が原資を出すものだ。使える範囲を社内に限定しつつも社員の幸福度が上がる。そんな仕組みを構築できれば、働き方改革の起爆剤としてうまく機能するはずだ。

ちなみに「給与を社内通貨で支払うブラック企業が出てきたらどうしよう」と不安な人はご心配なく。給与には法定通貨払いの原則があるので、社内通貨で給与を支払うことはできない。

社内通貨は「広義では仮想通貨」である

基本的に社内通貨は社内に限定して流通させる通貨だ。円やドルのように国が価値を保証する法定通貨ではない。

しかし、商品やサービスと交換できる特性を持つことから、広い意味での「仮想通貨」に分類される。たとえば、オンラインゲームで購入するコインも、クレジットカードで貯めたポイントも「仮想通貨」の仲間だ。

暗号通貨と社内通貨、混同のご注意を

社内通貨の特性を理解する際、仮想通貨の代表格であるビットコインのような「暗号通貨」とは役割が全く異なることにも注意したい。暗号通貨は価値が乱高下していることから投機性が注目されがちだが、本来の目的は円やドルと同じように通貨として使い経済活動をスムーズに進めることである。

暗号通貨はブロックチェーンの技術により、有志の提供する無数のコンピュータに分散して取引記録を格納する。通貨は相応の設備を用意できさえすれば誰でも発行できる。

発行する主体が存在しないので、暗号通貨の信頼性は国家や組織に依存しない。たとえ日本国家の信用が失墜し、円の価値が限りなく低くなってしまったとしても、暗号通貨を持っていれば世界中で取引ができるようになる。目指すは円やドルに変わる次世代通貨なのだ。

一方で社内通貨は、あくまでも企業の利益のために特定の企業が発行するものだ。

昨今の社内通貨ブームの背景には、暗号通貨と同じくフィンテック技術の普及が存在する。これについては後ほど触れるが、社内通貨とは社内で社員が限定した使い方をするので、「本来的には通貨としての信頼性は高くなくていい」という点は暗号通貨との違いとして、まずは抑えておくべきだろう。

社内通貨「Will(ウィル)」で働き方改革を進めたディスコの事例

前述のように社内通貨が日本で初めて導入されてから10年以上たつ。その中でも社内通貨を長年運用し、働き方改革に成功した企業の事例を紹介しよう。

半導体装置メーカーのディスコ「個人会計Will(ウィル)」

社内通貨で仕事のやり方を劇的に変革したのが半導体装置メーカーのディスコだ。ディスコが社内通貨を導入したのが2011年。当時、ディスコでは手がけている切削装置の成長を支えたITバブルが崩壊し、業績の立て直しに迫られていた。

そこで部門別会計を導入してみたものの、数字を気にするのは部門長や会計担当者だけ。現場では200万円の粗利の仕事に、300万円の社内リソースを使ってしまうことが頻発した。

そこで導入したのが独自の「個人会計Will(ウィル)」だ。Willは採算を個人レベルまでに落とし込んで評価する仕組みだ。とはいえ、仕事というのはあるプロジェクトがあり、複数人のメンバーで構成されていることが多い。それをどうやって個人レベルで採算を見える化しているのだろうか。

社内通貨で「タスクをオークション化」

その答えは、タスクのオークション化だ。すべてのタスクをオークションで売りに出し、社員は自分がやりたい仕事をWillで落札する。オークションなので、人気のあるタスクは価値が下がっていく。

つまり、必要なタスクはすべて原価となって数値化されるのだ。やりがいのある仕事を希望する社員はあえて高いWillの仕事に挑戦し、逆に、子育て中などで時間内に仕事を終わりたい社員は、終わる時間の読めみやすさを優先して仕事を落札することができる。また、終わらない仕事は他の社員にWillを支払ってお願いすることも可能となる。

すべての仕事に対して相応の対価が支払われることで、早く帰る社員でも心苦しく思わずに済むという効果があったのだ。社内の勉強会ももちろん「有料」。今までボランティアでやってきた仕事が対価として見えることで、個人の仕事の価値が数値化され、社員のモチベーション向上に大いに貢献した。

社内通貨を楽しく稼ぐ、業務改革案プレゼン大会「PIM対戦」

業務以外で社員が力を入れるのが業務改革案をプレゼンする「PIM対戦」だ。考えたアイデアをプレゼンテーションして部署内や部署間で対決する。観戦する社員はよいと思うチームに掛け金をWillで賭ける。

掛け金の多い方が勝利し、戦利金が勝者と勝者に賭けた社員に配分される。自分の担当とは違う業務改善のアイデア出しもWillが支払われるから力も入る。その結果よいアイデアもどんどん出る。

残業には罰金を社内通貨で支払う

残業についてもWillを活用してメスを入れた。月45時間までの残業単価を45~60時間までよりも高く設定し、残業すればするほど罰金をWillで支払う仕組みにしたのだ。

社内通貨を楽しく稼ぐ、使える仕組みを構築

こうして稼いだWillは賞与や部門の収支の一部に反映される。また、Willに応じて「DISKA(ディスカ)」という通貨を支給し、社内標準外の備品を購入できる。

社内通貨は、会社の資金を原資とするもので、コストがかかるからには業績に反映させなければならない。使う費用とそれに対する業績目標を定めてモニタリングしていく必要があるだろう。

それにプラスして必要なのが「遊び心」ではないだろうか。紹介したディスコの取り組みは、社員が日常の仕事に思わず喜びを感じるような、楽しく心が動く仕掛けが用意されている。

会社は存続するために利益を出し続けなければならないが、社員が「楽しく」頑張れる環境にあることが仕事に価値を出す原動力になるのだ。