セールスフォースやBoxはなぜ強いのか?勝てるSaaS企業「5つの共通点」

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記事の情報は2017-11-02時点のものです。

Sansanプロダクトアライアンスマネジャー山田 尚孝氏による本連載のテーマは、「強い法人向けクラウドサービスの正体に迫る」。第1回目は、サービスそのものであるプロダクトについて、勝ちパターンの裏側を語っていただきました。
セールスフォースやBoxはなぜ強いのか?勝てるSaaS企業「5つの共通点」

1. 法人名=サービス名である

プロローグでは、勢いのある法人向けクラウドサービスの強さの秘訣についての概要をお伝えしました。

今回から数回に渡って、「法人向けクラウドサービス『勝利の法則』徹底解剖 」と題して、その詳細について私なりの考えをお話したいと思います。第一回目の今回はクラウドサービスそのものであるプロダクトをテーマにお話していきます。

尚、これ以後、「サービス」とはITサービスを指し、「サービス」と「プロダクト」を以下のとおり、明確に区別して議論を展開します。

「サービス」とは、その事業全体が提供するユーザー体験(プロダクト含む)
「プロダクト」とは、Webなどのインターネット技術を介して直接ユーザーが接触するサービスの一部。ほとんどの場合UIを有する

本題に入ります。法人向け、個人向けを問わずに、強いクラウドサービスを見て私がまず感じるのは、多くのケースにおいて、法人名=サービス名になっているという事実です。これは、そのサービスを提供している会社に事業が一つしか無い(One Product)ということを意味しています。

※厳密にいうと、ほとんど全てのリソースを投下しているということです

さらっと書きましたが、私はこの事実は非常に重要だと思っています。なぜ重要かというと、事業の収益性が悪くてもそれを辞めるという選択肢が無いからです。

複数の事業を有する企業の場合、「選択と集中」という名のもとに、不採算の事業は縮小・撤退となり、より収益性が高く、市場可能性がある事業にリソースが投下されるのは利潤追求組織たる企業では当然の選択肢です。一方で一つの事業が立ちいかなくなったときのことを考えると、複数の事業ポートフォリオを組むという矛盾したことも同時に行われ、リスクヘッジの名のもとにリソースの分散も行われます。

しかしながら、事業を一つしか有していない企業の場合、その事業を辞めることができません。不採算事業から撤退する=会社を畳むということなので、選択肢は前進するしかないのです。よって、たとえ八方塞がりになったとしても、なんとかして問題を解決する方法を模索します。

そしてそのことが市場を切り開くパワーになるのです。スタートアップ時期は市場の需要性を信じきれずに苦しむこともあるでしょうが、そこさえ超えれば好循環に繋がるポテンシャルを持っているといえます。

2. ミッションの具現化物としてサービスが存在している

次に(実はこれが本質的なことなのですが)事業が一つしかない会社は、「サービス=会社≒ミッション」になっているという点です。そもそもその事業とその具現化手段たるサービスを立ち上げたのは、その会社のミッションを実現したかったからであって、むしろミッション(やりたかったこと)が先にあり、その後で会社を作ったケースも多いのではないかと思います。

私の所属するSansanも、「ビジネスの出会いを資産に変え、働き方を革新する」というミッションとそれを具現化するSansanというサービスが存在し、会社はそれを社会に届けるためにある媒体(集団)だと位置づけられています。これはつまり、仮にそのミッションを達成できないのであれば、その手段たる会社は存続する必要はない、という意図すら込められており、事業ポートフォリオを組むこととは真っ向から対立した考えでもあります。

「サービス=会社≒ミッション」となっている企業のパワーはとても強いです。なぜなら、会社の存在意義、会社と社員が目指すべきゴールを、具体的な言葉で完璧に語ることができるため、全社員の目線を揃えることができます。また自分たちが日々行っていることが、ミッションとズレていないかを確認する基準があるので、サービスやプロダクトが明後日の方向に向くことも抑制できます。これらが相まって非常に強力な事業推進力となります。

このようにして発生したサービスは、極めて具体的で個別化されており、法人名=サービス名であることがふさわしい趣さえあり、「このサービスは◯◯の問題を解決するために存在している」と主張しているかのように見えてきます。

最近のSaaSビジネスではこのように特定の問題を解決することに特化したサービスが増えているように見えますが、実はサービスとは極めて個別化したほうが市場的には効率が良いのです。これは比較優位という貿易理論の基礎で説明されており、それぞれの経済圏が得意なことに注力した方が、全体として経済効果が高まるということがわかっています。

この理屈で考えた場合、各企業がそれぞれのミッションを持ち、それを体現するサービスを互いに提供した方がお互いの収益性が高まるということです。具体的にいうなら、CRMを提供している企業はCRMだけを提供し、その代わり他のサービスにおいては変に自社開発すること無く他社の製品を利用するという話です。

ほんの数年前までは多くのエンジニアを抱える旧来のITジャイアントは「この程度自社で実現できる」という理屈の下、グループウェアやCRMなど多岐に渡る製品を自社開発しようとしました。が、その結果は皆さんご承知のとおりで、それらのITジャイアントたちも、近年その市場のトッププレーヤーの製品を導入することが目立ち始めています。つまりは「餅は餅屋の方が安心して任せられる」ということが証明されつつあるというわけですが。