ポカリスエットはなぜ「ラマダン明け」に売れたのか?国内ブランドが海外で勝ち残るには

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記事の情報は2017-11-09時点のものです。

いまナショナルブランド・メーカーは、取引相手の食品スーパーやコンビニやファストフード店向けに、食材の調達加工をローカル対応にせざるをえない状況だ。法政大学 経営大学院 教授の小川孔輔氏が、大塚製薬やキッコーマンの例を挙げた。

グローバリゼーション時代の新たな指針「CAGE理論」

かつてのマーケティング理論では、企業が国際化していくと、すべての国で、すべて同じ商品を売ったほうがスケールメリットがあり、コミュニケーション・コストも低くなるため、消費が同質化していくという予測もあったが、それは見事に外れてしまった。

「ほとんどのメーカーは、各国で個別対応しているのが実情。厳密な意味で標準化戦略をとるメーカーはなく、世界中で別商品をつくり、別のコミュニケーションとチャネル戦略でプロモーションしている」(小川氏)

では企業経営がグローバル化しても、なぜローカル対応(セミ・ローカリゼーション)が残っていくのだろうか? 

パンカジ・ゲマワットは、自著「コークの味は国ごとに違うべきか?」において「CAGE理論」を提唱した。ローカル対応のモメントを、4つの観点で説明した。


・「ローカルな消費文化の違い」(Culture)
・「垂直的なチャネル管理の必要性」(Administration)
・「ロジスティック上の地理的な隔たり」(Geographical)
・「製造ロットサイズと販売効率」(Efficiency)

前述のように、同じ商品でも国によって文化的にも消費のされ方が異なる。ラマダン明けのポカリスエットなどは、その好例だろう。これがローカルな消費文化の違いだ

「国によってチャネルが異なれば、売り方も異なるため、垂直的なチャネル管理が求められる。またロジスティック上の地理的な隔たりは、製品を流通チャネルに乗せられるのか、という物理上の問題になる。同様の理由で、モノを運べなければ、コミュニケーションも難しい。最適なロットサイズは国ごとに違うし、価格弾力性も異なる」(小川氏)。

ローソンVSセブン、どちらのマーケが未来を制するか

次に小川氏は小売業のローカル対応が進む実情について、コンビニを比較しながら説明した。ローソンとセブンイレブンは、売上も伸びているが、ビジネスモデルは異なっている。

コンビニにおけるビジネスモデルの比較その1。おおまかにいうとセブンイレブンは基本的に全国均一で、ローソンはローカル対応の要素が大きい

コンビニにおけるビジネスモデルの比較その2。組織運営もセブンイレブンが中央集権的な管理に対して、ローソンは地域分権型の管理になっている


「極論をいうと、セブンイレブン(セ社)はローカル対応もしているが、基本的には全国均一だ。一方、ローソン(ロ社)は全国共通もあるが、ローカル対応の要素が大きい。たとえば、弁当やサラダの中身の2~3割ほどを地域の食材で賄っている」(小川氏)。

また商品開発を見ると、セ社はチームマーチャンダイジングでベンダーを活用しているが、ロ社のほうは自前主義だ。調達についても、セ社はベンダー依存で、ロ社は子会社が担当。組織運営もセ社が中央集権的な管理に対して、ロ社は地域分権型の管理になっている。

「同じコンビニでも、ローカル対応へのアプローチは違う。私の想定では、これまでセブンイレブンが業界トップだったが、今後はローソンが伸びる可能性があるとみている。というのも今後はローカル対応が必要になってくるので、ビジネスモデル的にはローソンのほうが有利になるからだ」(小川氏)。

同氏は「20世紀の小売業でグローバルで成功した企業には共通性がある。海外展開しており、製造段階の工場まで現地でコミットしていることだ。ユニクロニトリも、全部がSAP(専門特化業態)だ。その理由は品質感の優位性、企画提案力、価格訴求力、買いやすい販売(売り場)の設計、サービス・プロモーションの効率化にある」と説明した。

メーカーが備えるべき脅威

しかし、これからメーカーにとっても大きな脅威になるのは、ネット小売業のモノづくりへのチャレンジだ。たとえば、AmazonのようなECは、さまざまな分野でPB(プライベート・ブランド)商品を開発できるレベルまで来ているし、逆に有人店舗への進出も考えている。

「そうなるとメーカーは、ECや小売業の下請けになってしまう可能性さえもある。この問題をどうすべきなのか、自分も結論を持っていないが、ネットと製造小売業の世界を見ていると、メーカーの立場が大変厳しくなることだけは間違いないだろう」(小川氏)。