「働きがい」と働きやすさをバランスよく配慮、働き方改革の成功セオリーとは

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記事の情報は2017-11-20時点のものです。

経営戦略として働き方改革を成功させるためには、「働きやすさ」だけではなく働き手のモチベーションをUPさせる「働きがい」をバランスよく実現することが必要です。働き方改革成功の秘訣をFeelWorks代表取締役社長の前川孝雄氏に語っていただきました。
「働きがい」と働きやすさをバランスよく配慮、働き方改革の成功セオリーとは

日本人の仕事への満足度は世界最低レベルであるという調査結果をご存じでしょうか。

NHK放送文化研究所が1993年から参加している国際比較調査グループISSP(International Social Survey Programme)の2005年調査で、日本人労働者の仕事の満足度は、世界32の国・地域中28位という低さでした。

最新の2015年調査でも、ランキング公表はないものの、日本の2005年の満足度合計73%が60%に下がっており、引き続き世界最低レベルと推測できます。日本では一体なぜ、これほど職場への満足度が低下してしまったのでしょうか。

仕事への満足度を世界最低レベルに押し下げた背景

昨今の企業の人事施策では、ダイバーシティの進展や国が奨励する「働き方改革」などを背景に、「働きやすさ」が重視されています。

残業削減など長時間労働規制や有休休暇の取得促進、産休・育休・介護休暇の取得支援、在宅勤務などテレワークの推進、フレックスタイムの導入など、「働きやすさ」が追求されています。育児期の女性(男性も)や高齢者の就労を考えると、もちろん「働きやすさ」は大切です。

しかし、実は「働きやすさ」は必ずしも仕事の満足向上、さらには「働きがい」につながるものではないのです。

私が営むFeelWorksでは、全国で大企業から中小企業まで多くの企業の人材育成に関わるなかで、次のような声を聴いています。

「一昔前に比べ残業時間は減ったものの、仕事に打ち込みたい時にも早期退社を促され、逆に毎日に張り合いがなくなった。」

「育児休暇明けに時短勤務で職場復帰したが、働きやすさだけが重視された結果、サポート的な仕事を命じられた。キャリアダウンしたようで毎日やりきれない。」

「週に一度の在宅勤務を命じられたが、今でさえメールコミュニケーションが増え同僚の仕事が見えにくいなかで、一層職場の一体感が薄れていくように感じる。」

こうした声には、職場の満足減退やモチベーション低下が見て取れます。「働きやすさ」が仕事の満足度を上げるのではない事実がお分りいただけたでしょうか。

「働きやすさ」の追求は「働きがい」にはつながらない

実は、「働きやすさ」と「働きがい」は一直線上につながるものではなく、それぞれが独立しています。これは、アメリカの心理学者F.ハーズバーグによる「二要因理論(衛生理論・動機付け理論)」がわかりやすく示しています。


働きやすさに焦点を当てた労働環境や労働条件の改善は、確かに従業員の不満を減少させます。この「不満足」の発生や軽減に関わる要素を「衛生要因」と呼びます。

しかし、「衛生要因」をいくら高めても、不満は減少するものの、満足向上には直結しないとするのがハーズバーグの主張です。

そして、一度獲得した労働環境や条件は「当たり前のもの(既得権)」となり、これが損なわれるとたちまち不満足が増すことになるのです。これは企業経営上、難しい点です。

では、仕事の満足を生み出す要因は何でしょうか。それは、仕事そのものへの貢献意識や、信頼され仕事を任された責任意識や、努力や成果を上司・同僚やお客様から承認された喜びといった、達成感や自己効力感などです。これらの要素を「動機付け要因」と呼びます。

「衛生要因」(「働きやすさ」)が高まれば「不満足」は減るものの、「動機付け要因」を高めない限り仕事の満足度は向上しないということがポイントなのです。

仕事の満足には私は「働きがい」が最も重要だと考えています。冒頭で紹介した「職場への満足度」の国際比較結果や、「働きがい」の喪失とも見える働き手の声などは、この点に起因すると考えられるのです。

いま、官民を上げて「働き方改革」が叫ばれるなかで、多様な人が活躍するための「働きやすさ」、長時間労働の見直しなど「働く量」の議論は活発ですが、「働く質」つまり「働きがい」についての議論は十分とは言えません。

しかし、働く人にとって大事なことは「働きがい」です。今こそ各企業が「働きがい」について真剣に議論すべき時だと強く思うのです。