セゾン、パナソニック、アクセンチュアほか「正社員化」の成功事例、3つのパターン別に解説

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記事の情報は2018-01-15時点のものです。

「非正規という言葉をこの国から一掃する」――、2016年の第3次安倍内閣発足時に安倍首相が発した言葉だ。実際に、非正規社員の「正社員化」に踏み切る企業も出てきている。その背景と施策の内容から、今後企業として取り組むべきことを探る。

パターン(3)パートタイマーのモチベーション向上、戦力化

小売、サービス業は一般的にパートタイム社員の比率が高く、顧客と直に接する彼らこそがビジネスを支える存在だ。そんなパートタイマーのモチベーションアップや定着、戦力化のために「正社員化」を取り入れる企業がある。

事例5. 「ショートタイム社員」制度で優秀なパートタイマーの戦力化を目指すモロゾフ

洋菓子の製造・販売や飲食店を展開するモロゾフは、2007年にパートタイマーのステップアップの道として「ショートタイム社員」制度を導入した。

本人の希望があり、勤続3年以上、上司の評価、筆記試験・適性検査、部門長面接、役員の承認という要件をすべてクリアした場合に、短時間または短日の勤務形態で正社員になれるという制度だ。ショートタイム社員になると、さらにフルタイム社員への登用の道も開かれる。

希望すれば誰でも正社員になれるわけではないことから、優秀なパートタイマーと正社員との格差を解消し、モチベーションを上げてさらに戦力になってもらうための施策であることが分かる。

この制度があることで、パートタイマーの中から正社員としての働きを期待できる人材を発掘できるようになり、優秀な人材の流出を防いでいる。また、フルタイムからショートタイムへの転換も可能とすることで、育児や介護を理由にフルタイムで働けなくなった社員の離職防止にも効果を上げているという。

事例6. 全員を正社員にし、パートタイマーの安心感を醸成したイケア

スウェーデン発の家具の製造・販売会社イケアは、2014年9月に短時間正社員制度を導入することで全従業員を正社員とし、同一労働同一賃金、全員の社会保険加入を実現した。

元々スウェーデンの本社では、パートタイム社員もフルタイム社員も平等に扱っており、個々のライフステージの変化に併せて柔軟に働き方を選べるべき、という考え方があったという。日本に進出と同時にその考え方を適用することは難しかったようだが、時間をかけて日本の労働環境や従業員のニーズを学び、全員正社員化の取り組みを実現させたわけだ。

それまで6ヶ月毎に契約を更新していたパートタイム社員は、正社員化によって安心感や安堵感を得られたという。このことは、会社に貢献しようというモチベーションの向上につながるだけでなく、時間的制約がある社員にも会社からの期待を示して成長を促すという、パターン(1)のケースに当てはまる事例ともいえるだろう。

安倍首相の「非正規という言葉を一掃する」発言をどう受け止める?

安倍首相はかつて「非正規という言葉をこの国から一掃する」と発言した。その当時の意図は、世の中のみんなが正社員になれるようにすべし、ということだったのではないかと思われる。

しかし、その考え方には批判も多く、今年の年頭記者会見では「正規、非正規、雇用形態にかかわらず、昇給や研修、福利厚生など、不合理な待遇差を是正することで、多様な働き方を自由に選択できるようにします」と述べている。

今回は、各企業が取り組む「正社員化」のポジティブな面を見てきたが、世の中の全員が無期雇用の正社員になるべきだというわけではない。有期雇用から無期雇用に転換するというのは、恋愛関係にあった男女が結婚するのにも似ている。結婚を望ましいものと考える人は多いが、しばらくは恋愛関係のまま様子をみたいとか、パートナー関係を続けていきたいけれど婚姻関係にはなりたくないという人もいるだろう。

企業との雇用関係でも、あえて期間の定めのある働き方を望む人がいる。重要なのは、選択の自由があること、非正規社員でも働きに応じた適切な報酬が得られるということだ。

「正社員=フルタイム+全国転勤可」という時代は終焉へ

「非正規という言葉を一掃する」という発言が、「正規・非正規という言葉上の区別を意味のないものにする」ということであれば、その通りだろう。従来型の「正社員」に対して「多様な正社員」という言葉が出てきて、今後はその境界がどんどん曖昧になっていくと予想される。

上に挙げた各社は、従来の正社員/非正規社員の区別のデメリットに気付き、動き始めた会社だ。残業ありのフルタイム勤務で、どこにでも転勤させられる社員だけを正規のメンバーとし、それ以外を臨時的、補助的なメンバーとして扱っていては経営が成り立たない時代になっている。

「正社員とはこういうもの」と思考停止せず、自社に必要なのはどんな人材で、どのような働き方が可能か、どのような雇用形態が適切か、改めて検討する時期がきているのではないだろうか。

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