メガバンク正社員「大リストラ」の背後には銀行業務へのRPA導入、その次に来るAI活用競争

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記事の情報は2018-01-18時点のものです。

「三菱東京UFJ銀行がRPAで2万時間を削減」「三井住友銀行がRPAで40万時間を削減」など、銀行のRPA導入事例が発表されると同時に、「メガバンクなど金融機関の正社員がリストラされるのでは」という声もあがっている。本当にRPAは金融機関で大リストラを誘引するのだろうか?RPAおよびその次に活用が本格化すると予測されるAIは雇用にどのような影響を与えるのか、メガバンク3行のRPA導入状況とともに見ていこう。
メガバンク正社員「大リストラ」の背後には銀行業務へのRPA導入、その次に来るAI活用競争

メガバンクで進むRPA(Robotic Process Automation)導入

2017年は、まさにRPA(Robotic Process Automation:ロボットによるプロセス自動化)元年とも言えるべき年だった。これまでパイロット版を導入してきた金融機関が、軒並みその成果について表明するようになったのだ。

三菱東京UFJ銀行ではRPAで2万時間、三井住友銀行ではRPAで40万時間を削減したというニュースが話題になったが、RPAが事務処理をどのように効率化したのか。わかりやすい例として、金融商品の申込書の処理というプロセスを考えてみよう。

営業店、または郵送で送られてきた申込書はOCRでスキャンされ、スキャンされたファイルを事務スタッフが処理していく。チェック項目は全部で15箇所で、どの項目で不完全な点があったかによって、その後の処理が変わっていく。

電話で追加書類を要求することもあれば、申し込み自体を却下することもある。そして、その結果を社内の顧客管理ソフトに入力する。このように、人間が決めたルールに沿って人間が処理を進めてきたのが、従来の事務処理であった。

このような人間が決めたルールに沿ってロボット(ソフトウェアロボット)が処理を進めていくのがRPAだ。人間の操作を超高速で再現・学習するRPAの"生産性"は衝撃的だ。

パソコンの操作、文字認識の速度、ルールに基づいた処理などは、人間よりロボットの方が圧倒的に早く、そして人件費も残業代かからない。24時間処理させっぱなしにしても文句も言わない。

人間は、ロボットがどうしても処理できなかったものを手作業で処理したり、ロボットが上げてくる報告や指標を確認したりといった、補助業務・管理業務を行う存在となる。

ロボットが凄いのはこれだけではない。ロボットは学習した内容を一瞬ですべての処理に反映させることができる

人間の場合、熟練した事務スタッフ1人と今日入社したスタッフ1人では事務効率に大幅な違いがあり、事務処理効率が人数に正比例しないが、ロボットであれば、1台追加(またはリソース増加)したら学習内容も即共有され、追加したリソース分だけ、処理量が正比例して伸びるというわけだ。


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メガバンクのRPA導入は「大リストラ」の幕開けか

RPA導入によるコスト削減効果は劇的だ。2017年11月に三井住友が発表したニュースリリースによると、現在までに40万時間の業務をRPAで削減しており、そして2019年度末までに合計1,000億円のコスト削減を見込んでいる。

仮に、事務スタッフのコストをもろもろ含めて1時間で2,000円とした場合、1,000億円だと5000万時間もの削減が可能となる計算だ。RPAの適用範囲が拡大するにしたがって人も減るため、明確なコスト効果が上乗せされ、現在のコスト削減数値が上方修正される可能性も十分にある。

また、金融機関によっては、事務内容に応じて複数の事務センターを設けて事務の集中処理を行っている。しかし、RPAの導入により置き換えられたロボットの大半はデータセンターで稼働することになる。

これにより、事務センターから人が大量にいなくなり、事務センター面積の相当部分が不要になるため、事務センターの統廃合が行われる可能性が高い。統廃合が行われ、不要になった事務センターは、遊休資産として売却可能となる。

メガバンク3行のRPA導入状況

次に、各金融機関でRPAの導入について見ていこう。

三菱東京UFJは、2014年からRPAのパイロットプロジェクトを開始した、日本の金融業界におけるRPAの先駆者だ。

パイロットプロジェクトの対象業務は、住宅ローンの団体信用保険申告書の点検業務であった。このプロジェクトで2500時間の削減が実現できたことを踏まえて、本格導入検討に入っている。20種類のRPAの導入で、累計2万時間を削減済みだ。

三井住友は、三菱東京UFJから遅れること2年、2016年からRPAの実証実験を開始。現在では、コンプライアンスリスク関連業務(疑わしい取引届け出)、営業店チラシ作成業務、事務センターの大量提携業務(預金・為替・融資など)に適用業務を広げ、すでに40万時間を削減したと発表している。

みずほは、2017年の中間決算にてRPAの導入を発表しているが、まだ具体的なパイロット業務や削減時間を発表していないことから、三菱UFJ、三井住友に比べて一歩遅れているとみられる。

メガバンク以外のRPA導入企業としては、日本生命が有名だ。同社では、2014年からRPAを導入している。請求書データの入力業務などを皮切りに実績を叩き出し、事務効率を5倍に引き上げた。

好結果が出たことから、対象業務も当初の16業務から来年度末には26業務まで増加させる予定だ。そして、会社全体の業務見直しを行うことで、全体の事務作業量も2030年までに15%削減する、という目標も掲げている。