メガバンク正社員「大リストラ」の背後には銀行業務へのRPA導入、その次に来るAI活用競争

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記事の情報は2018-01-18時点のものです。

「三菱東京UFJ銀行がRPAで2万時間を削減」「三井住友銀行がRPAで40万時間を削減」など、銀行のRPA導入事例が発表されると同時に、「メガバンクなど金融機関の正社員がリストラされるのでは」という声もあがっている。本当にRPAは金融機関で大リストラを誘引するのだろうか?RPAおよびその次に活用が本格化すると予測されるAIは雇用にどのような影響を与えるのか、メガバンク3行のRPA導入状況とともに見ていこう。

RPAの次は「AI」、2020年以後は正社員も安泰ではない

金融機関のRPA導入予定を見ると、2019〜2020年度までのコスト削減試算が多い。つまりここ数年で現在提供されているRPAによる業務自動化は一段落するという見立てだ。しかし、RPAはここで終わるわけではない。

2017年5月に、グーグルが開発した囲碁AIプログラム「AlphaGo」が、世界最強の囲碁棋士である柯潔を3戦全勝で打ち破ったことは記憶に新しい。

このときのAlpha Goは「AlphaGo Master」と呼ばれるバージョンで、人間同士の囲碁の対局データを膨大に読み込んで、より強い囲碁の打ち方を自己学習していくAIであった。

しかし同年2017年10月に発表された「AlphaGo Zero」は異なる方法で生み出された。過去の対局の棋譜を一切教えず、囲碁のルールのみを教え、ひたすら自己対戦学習による強化するという方法である。

結果は明白だ。世界最強棋士を破った「AlphaGo Master」に対して、「AlphaGo Zero」は89勝11敗という圧勝を収めるに至った。

つまり、人間の経験の積み重ねを踏まえた学習よりも、AIの独自学習の方が優れているという証左である。

現在のRPAは、処理に関する基本ルールと「こう処理すれば効率的」と考える人間の経験則を踏まえ、ロボットが学習しながら超高速で休まず処理していく事に特色がある。

しかし、AIが導入されると、基本ルールのみ教えるだけで、後はどうすれば効率的に処理できるかという点までをAIが考えて、最速で最もミスの少ない処理を行ってくれるようになる。そこに、人間の経験則は不要となる可能性が高い。

現在のRPAが業務自動化の「第一世代」だとすれば、「第二世代」はAIだといってよい。

大手会計コンサルティング会社のキャップジェミニは、「RPAとAI: 銀行向け効率化競争のネクストステップ」と題した報告を公開している。これによると、従来型のRPAを「スタンドアローン」としたうえで、AIが活用された場合の業務変革についてこのように記載されている。

・デジタル化された文書を理解する
・プロセス内の予期せぬ問題点を発見
・人間の取引を注意深く監視する

一例として、大手投資銀行の米JPモルガン・チェースでは、AIにより融資契約書の確認作業がある。年1万2000件の新規契約書類の確認をAIが行うことで、36万時間を削減ならび人為ミスをなくすことに貢献しているのだ。こうした作業はこれまで、弁護士やパラリーガルといった専門職が行ってきた仕事である。

また、AI専門のリサーチ会社であるTech Emergenceによると、2017年に米ニューヨークメロン銀行において220種類以上のソフトウェアロボットが作成され、貿易決済やデータ照合などの高度な知的作業に用いられていると報告されている。

このように、RPAは単純労働の置き換えであったが、AIにより知的労働までも置き換え可能であることがわかる。

さて、現在進められている日本の金融機関のRPAは、2020年頃までは専ら「単純作業の自動化」がメインとなるだろう。しかし、2020年以後はAIにより、契約書類の確認といった知的作業の置き換えがメインとなる。

RPA導入の先にあるAI導入が「正社員大リストラ」を引き起こす?

最近、金融機関がRPAを活用し、退職による自然減を埋めるだけの新規採用を行わず、総人員を減らすことについて「銀行大リストラ」などと呼ばれている。しかしRPAによる人員削減は、非正規社員の雇止めは行うが、正社員の大半にはインパクトはない。

しかしAIにより、現在正社員のみが可能だと考えられている知的労働も、実は置き換え可能であることがすでに判明しているのだ。そうなると金融機関において、正社員の相当数が不要であることが露呈してしまう。

金融機関の正社員にとって、RPAよりもその先にあるAIのほうがインパクトが大きく、大規模な転籍を含むリストラが吹き荒れる可能性が高いのは、RPA導入が一息つく2020年以後だ。特に、総務、法務、人事、経理、システム部門などのバックオフィスは、金融機関の顧客との直接的な接点がなく、「人間がそこで業務する必然性」が薄いことから、AIの波をかぶる可能性が高いと筆者は見ている。

RPAとAIという武器により、金融機関がどのように変わっていくのか、その行く末について興味深くもあり、また少々恐ろしくもある。今後の進展度合いを注視したい。