難解なプロジェクトは「プロジェクト譜」で図解せよ
では、難解なプロジェクトを進めるためにはどうすればいいのか。有効な方法の一つが「プロジェクトを図解する技術」を身につけることだ。
本書の後半においては、姿かたちのないプロジェクトを記述し、表現するための「プロジェクト譜」の書き方と、これを発展的、創造的に活用していくための「プロジェクト・エディティング」の考え方が紹介される。
アナロジー、アフォーダンス、アブダクションといった認知科学を援用し、視野狭窄に陥りやすいプロジェクトの渦中において、その思考に新たな光をあて、創造的課題解決を行っていくという考え方である。
「プロジェクト譜」とは、いわばプロジェクトの「設計書」であるが、同時に「記録」でもある。これによるプロジェクトの「感想戦」=振り返りの方法が語られているが、これもまた本書のユニークなところである。
この方法によって、たとえそれが異業種であっても、極論、フィクションであったとしても、ある事例における知識が構造として抽出され、自らの問題を解くためのヒントとして再利用できるものとなる。
プロジェクトを図解するための要素とは
プロジェクト譜について、少し補足すると、これは、プロジェクトにおけるあらゆる局面を次の要素に分解して、図式化するという発想だ。
- (その時点での)獲得目標および勝利条件
- それを実現するための中間目標と施策
- 取り巻く環境、制約条件
これらは当然、時間の経過とともに、互いに影響を与えながら、変化していく。時系列的な変化は一枚の紙には書き込めないので、あくまでいち局面を、スナップショットとして記述するのである。
このようにして書くと、少し仰々しいが、実際は非常に直感的なものだ。
本書において、筆者らはこれを「シン・ゴジラ」を題材にとって実践してみせる。そこで導かれる教訓自体が目から鱗のものなのだが、彼らは、さらにこの書の出版プロジェクトですらも感想戦してしまうのであった。
たしかに、プロジェクト譜として記載することによって、それが単なる内幕話、舞台裏トークではなく、プロジェクト一般を物語る何かに昇華されている。
プロジェクトマネージャの代表的資格「PMP」の取得にあたっては、少なくとも100〜200時間ほどの学習時間が必要だと言われているが、なるほど本書の提案している「プロジェクト譜」は概念だけなら小一時間もあれば習得できる。
もちろん、使いこなすためには、実践と修練が必要だが、プロジェクトという航海における羅針盤として、確かに有用であると思わされる何かがある。
詳細については、ぜひ本書を紐解かれたい。姿かたちが見えにくいプロジェクトを、目に見えるようにして制御する、その方策について、きっと手応えのあるヒントが得られることだろう。