解雇規制とは?規制緩和のメリット・デメリットを日米比較から考察

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記事の情報は2018-04-18時点のものです。

最近、解雇規制の緩和についてニュースで取り上げられることが増えてきました。本記事では、解雇規制を考える前提として「解雇の種類と手続き」のおさらい、現在厚生労働省で検討が進められている規制の緩和について背景や主旨、また雇用の流動性が高いアメリカの事例をもとに、解雇規制緩和のメリットとデメリットについて考察をまとめました。
解雇規制とは?規制緩和のメリット・デメリットを日米比較から考察

解雇規制とは

解雇規制とは、使用者(雇用主)が労働者を自由に解雇することを制限する法的規則です。解雇を断行するには、客観的かつ合理的な理由が必要。整理解雇(リストラ)、懲戒解雇、普通解雇、退職勧奨の解雇の種類によって、満たすべき要件や手続き事項があるのです。

解雇規制を考える前に知っておくべき「解雇の種類と手続き」

ひとくくりに解雇といっても、リストラ、懲戒解雇、退職勧奨など関連するワードが複数あります。解雇規制を考える前にまずは、解雇について要件を整理しておきましょう。例えばリストラの場合は「整理解雇の4要件」を満たす必要がある、などです。

名称 内容 解雇の手続き 会社視点のポイント
整理解雇 会社側に理由がある解雇。傾いた事業を立て直すことを理由に行う人員整理。リストラとも呼ばれる 整理解雇の4要件に留意して、進める必要がある 人員の選定には合理性と公平性が求められる
懲戒解雇 労働者側に理由がある解雇。労働者に対する懲戒処分として行われるもの 就業規則等の懲戒規定に照らし合わせて、進める必要がある 労基署の認定基準を満たすことで、解雇予告や解雇予告手当支払を行わないことも可能
普通解雇 労働者側に理由がある解雇。労働者の能力不足や勤務態度の不良などの理由により労働契約の履行が難しいと判断した場合に行うもので、整理解雇・懲戒解雇以外の解雇 就業規則等の解雇規定に照らし合わせて、進める必要がある 解雇予告や解雇予告手当支払の対象。解雇権の濫用にあたらないか?解雇制限の対象に該当しないか?注意が必要
退職勧奨 なんらかの理由により、会社が労働者に対し自己都合退職を促すこと。肩たたきとも呼ばれる 退職の強要にあたらないように留意して、進める必要がある 会社からの退職の勧めに応じるかどうかは労働者に自由意志がある

あわせて覚えておくべきは「解雇無効(退職勧奨の場合は、自己都合退職が無効)になる可能性」があること。いずれの場合も、強引に解雇を行っても必要な要件を満たさなければ解雇無効となるのです。

たとえば整理解雇については、解雇を回避するためのあらゆる努力を最大限したのか?という「解雇回避努力義務の履行」について、具体的に、役員報酬の減額、新規採用の取りやめ、希望退職者の募集などの実施状況を厳しくチェックされます。

余談になりますが、不景気をきっかけに有期契約や派遣の雇用が増加した背景には、この解雇手続きの厳格さがあります。解雇規制が厳しい日本では、ひとたび正規雇用すると業績のみを理由とした解雇ができません。企業のリスク回避の手段として非正規雇用が増加するという側面があるのです。

「解雇規制の緩和」現在の検討内容

解雇規制の緩和については、何年も前から国家戦略特区に関する議論の中で新しい措置の導入が検討されています。ですが、厚生労働省や労働組合の理解が得られず導入は断念されてきました。しかしいま、その厚生労働省が解雇規制緩和を検討しはじめています。その背景と主旨を説明します。

厚生労働省が「解雇規制緩和」を検討する背景と主旨

厚生労働省で解雇規制緩和の検討が進むことになった発端は、個別労働紛争の種類と傾向についての検討会です。その中で、解雇に関する紛争解決の選択肢として金銭解決の選択肢を設けることが労使双方にとって救済になるのではないか?という仮説から、解雇の金銭的解決について検討が進むことになりました。

つまり、現在具体的な検討が進んでいる解雇規制の緩和策は、労働者と使用者の間に解雇の効力について争いがあり、労働者が職場復帰ではなく金銭的な補償を求める場合の金銭的補償の基準整備に関する話なのです。整理解雇や懲戒解雇の要件緩和に関する話ではありません。

この金銭的補償の内容についての明確な指針は、まだ出ていませんが、再就職までにかかる平均の期間や失業等給付の内容などを考慮しつつ、企業が安易に解雇を行うことができないような金額が設定されるものと思われます。

なぜ解雇規制の緩和が必要なのか?アメリカとの比較

一方で、金銭的解決以外の緩和策についてもいずれ議論は再加熱していくであろうと思われます。その理由は何でしょうか。

日本は、諸外国と比較すると正社員の解雇に非常に厳しい国と言われています。諸外国と比べて解雇規制が厳しいから、基準を合わせるべきだという簡単な話ではありません。

実は、正社員の労働者を守ることに重点を置いてきたことで、結果として雇用の流動性を下げ、労働者を自発的なキャリア開発から遠ざけてしまっている点に課題があるのです。

いま、日本で声高に叫ばれている労働生産性の向上と雇用の調整速度の相関性について示す資料があります。

出典:内閣府「平成26年 年次経済財政報告」

雇用の調整速度とは、実質GDPと実質賃金の動向によって、雇用者数がどれくらい速く変化するかを計測したものです。

たとえば、雇用調整速度が速いアメリカにはレイオフ(一時解雇)という考え方があります。会社の業績が悪化した際に一時的に従業員を解雇し、業績が回復したら再雇用するしくみです。日本の制度と照らし合わせて考えると、リストラ(整理解雇)や一時帰休の要素を含む考え方に見えますが、比較すると以下のような違いがあります。

日本のリストラ 日本の一時帰休 アメリカのレイオフ
雇用関係 解消 継続 ※休業手当の支給あり 解消
再雇用(復職)の可能性 なし あり あり
対象者の選定 合理性や公平性を前提に企業ごとに選定。実際には、40〜50代の中高年層が対象となることが多い 個別に対象者を選定するものではなく、製造やサービスをストップする部門単位で選定することが一般的 勤続年数の短い者からレイオフの対象となり、勤続年数が長い者から再雇用の対象となることが一般的【先住権制度】

アメリカのレイオフは、雇用関係はいったん解消されるものの再雇用の可能性がある点が日本のリストラ・一時帰休とは異なる点です。

また、対象者の選定にあたってはアメリカ特有の先住権制度が用いられています。先住権制度は、差別的要素が介入しないしくみとして、レイオフに限らず職場で発生する良いこと悪いことの対象者を決める際のしくみとして用いられています。

一方で日本では、勤続年数の短い層から辞めさせることは会社の評判に影響し、その後の採用にも響くとされており、一般的ではありません。

ただ、近年はアメリカでもレイオフの活用は製造業などの業種に限られ、IT企業などを中心に会社と労働者の関係性自体に一歩進んだ考え方が浸透しつつあります。雇用を保証する代わりに、キャリア開発につながる仕事の提供を約束するという考え方で、労使間の健全なアライアンス関係が構築されているのです。

実はかつてアメリカでも、日本と同じように終身雇用が一般的でした。しかし労使間の関係性を変化させることで、労働者の自発的なキャリア形成を促し、雇用の流動性にも対応していったという経緯があります。

解雇規制の緩和は、解雇そのものの在り方についての議論よりも、緩和がもたらす効果について広い視野で検討する段階にあるのではないでしょうか。

解雇規制が厳しく「メンバーシップ型雇用」を採用しているのは日本だけで、世界の労働市場では緩やかな解雇規制と労使間のアライアンス関係による「ジョブ型雇用」を採用するのが一般的であり、いま雇用の在り方を見直さなければ世界の労働市場で日本はガラパゴス化してしまうという懸念もあります。