「ジョブディスクリプションの明確化」こそ、働き方改革の第一歩

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記事の情報は2018-04-25時点のものです。

安倍内閣が主導する働き方改革法案の先行きが不透明な状況が続く4月11日、政策シンクタンクPHP総研主催「新しい働き方経営者シンポジウム」が東京赤坂で開かれた。メンバーシップ型雇用から日本式ジョブ型雇用への移行や、副業・兼業の必要性などについて、パネリスト4名による熱い議論が交わされた。

「日本では雇用が守られている」という幻想

日本でジョブ型雇用が浸透しない理由とは何だろうか。そのひとつは、「メンバーシップ型雇用によって、日本では雇用が守られているのだ」という見方である。

多くの経営者、働き手もこの”幻想”を捨てるべきだという冨山氏は、「日本型雇用は人に優しいと言われるが、新卒採用の給与は外資系と比べて軒並み圧倒的に低く、辞令ひとつで転勤にも従わざるを得ない。どこが優しいんだ」と会場の笑いを誘いつつも、議論の核心に触れる。

「日本では雇用は守られている、は全くもって幻想です。たとえば日本型雇用におけるリストラを見てみてください。明確な基準なく自主退職を促すということを、企業は組合のサポートを得て行っている。海外では組合がリストラに協力するなんてことはあり得ないわけで、海外では必ず驚かれます。」(冨山氏)

さらに、組合のない中小企業で働く人や非正規雇用の場合は、万が一、退職勧奨やリストラに遭ってしまうと泣き寝入りせざるを得ない現状にも言及。判決が出るまで2年も3年もかかる訴訟を組合のサポートなしに個人が行うことは極めて困難であり、「ジョブ型に移行するから雇用が不安定になることはない」ということをあらためて確認した。


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「ジョブ型雇用」成功企業とは

メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へ、2005年から転換を進めてきたという”成功企業”がある。サイボウズだ。

青野 慶久氏(サイボウズ株式会社 代表取締役社長)

青野氏は、市場性を重視したジョブ型への移行のきっかけが一時は28%にまで上がってしまった離職率にあったことを明かし、「人が辞めないジョブ型雇用」の秘訣をこう語った。

「ジョブ型雇用に移行すると、役職や給与は市場性で決まることになる。降級降格でモチベーションが下がるような組織ではなく、チームに貢献したいというモチベーションを持てるようなチームを作らないと。従業員が100人いれば、100通りの不平不満や働き方への希望がある。解決策も100通り用意していくことになると思うんです。」(青野氏)

サイボウズでは、給料、職務内容、働き方など、従業員一人ひとりの個人のニーズを把握できるようカルテを作っている。いま話題の副業を解禁したことで、ジョブ型雇用への転換により発生する減給を緩和する効果もあったという。

もう1社、ジョブ型雇用による経営で大成功を収めている企業がある。カット専門の理美容室を展開するキュービーネットだ。パネリストとして北野社長が登壇し、ビジネスモデルに注目されがちな同グループにおけるジョブ型雇用の価値を説明した。

「美容業界では、カット技術の習得までに辿り着かずに理美容師を辞めてしまうスタイリストが多数います。年功序列のなか、洗髪、パーマ、カラー、とカットまでの道は果てしなく遠く、専門学校を卒業したばかりの若手がカットの機会をつかむためには、モデルハンティングによる技術研磨という、大きな壁を乗り越えなければならない。そもそも職人気質でコミュニケーションが苦手というタイプが多いのに。カットまでたどり着いたら給与は完全歩合制になるため、歳をとって指名が減ると独立して開業するしかない。」(北野氏)

だからコンビニの7〜8倍も美容院があるんですね、と会場の笑いを誘いつつ、ジョブ型雇用がうまくいった秘訣をこう語る。

「カットだけをしたい、という働き手であるスタイリストたちのニーズに応えられる美容院がこれまで存在しなかったんです。ジョブをカットに限定することで、会社がどういう人を採用したいかが明確になり、それに共感する人が集まってくるから、人が去りにくい組織を作れるんです。」(北野氏)

北野 泰男氏(キュービーネット株式会社 代表取締役社長)