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アントレプレナーシップとは
企業がイノベーションを起こすための原動力として、いわゆる「企業家精神」「起業家精神」が重要であるとよくいわれます。
どちらもアントレプレナーシップの日本語訳ですが、実は定義が曖昧で、よくわからないままイメージのみで使っている人も少なくありません。しかし既存の経営資源にとらわれず、新しくビジネスを成長させるうえでは非常に重要な概念です。
そこで本記事では、ビジネス全般に関連の深い「企業家精神」という文脈から、アントレプレナーシップについて、言葉の由来や、その意味するところを解説していきます。
アントレプレナーシップの意味とは?
アントレプレナーという言葉は、もともと「企業を起こす人」あるいは「起業家」という意味のフランス語が英語に転用されたものです。その独創性と進取の気性によって新しいビジネスを立ち上げたり、これまでになかった製品を開発したりといった、既存の枠に囚われずに新しい価値の提供を試みる人と定義できます。
日本においては、いわゆる「ベンチャー起業家」のことであると思われていますが、実際はもう少し広義に使われており、新しくビジネスを立ち上げようと考えている人のみならず、企業内で新しい何か新しい価値を提供しようとする人の意味もあります。
つまり、大企業・中小企業はもちろん、行政機関などの非営利の組織に属する人にとっても重要です。特にアントレプレナーシップを「企業家精神」と位置づける場合には、こちらの意味で使われることが多く、経営者や経営に関わる幹部に必要な「在り方」や行動指針として捉えられます。
アントレプレナーシップが注目される背景
それでは、なぜベンチャー起業家のみならず、大企業でもアントレプレナーシップが注目されるようになったのでしょうか?
その背景としては、ビジネス環境が高度化・複雑化するなかで、既存の商品やサービスのライフサイクルが短期化していることが挙げられます。漸進的に製品の性能を向上させていくだけでは、変化する需要についていけないケースが出始めています。そのため、大企業であっても新しいビジネスの創出や、これまでになかった価値の創造をスピード感をもって打ち出すことが求められるようになってきたのです。
また、いわゆる終身雇用制度や年功序列による評価が崩壊しつつある日本では、一生涯同じ会社に勤め続けられる可能性はそれほど高くなくなっています。企業も指示どおりに動くだけの人材よりも、リスクを恐れず、自発的に価値の提供に取り組む人材を評価するようになってきたことも要因として挙げられるでしょう。
アントレプレナーシップに必要なスキル
続いて、アントレプレナーシップに必要なスキルとはどういうものか、その具体的な資質に着目しながら解説していきます。
アントレプレナーが持つ資質
アントレプレナーにはどういった資質が必要となるのか。この論点に関しては、さまざま分野から多様な意見がされており、統一的な見解が存在するというわけではありません。
ただ、さまざまな企業家の意見や、アントレプレナーシップに関する理論から重要な部分を抽出していくと、主に
「説得能力」「リーダーシップ」「責任能力」「目標達成への意欲」「対人能力」の5つの資質が必要であることがわかってきます。それぞれみていきましょう。
1. 説得能力
アントレプレナーは他者の考え方や価値観、信念、行動様式などを説得によって変えていく能力に秀でているという調査結果があります。
他者の行動や価値観を完全に変えてしまうことは難しいですが、他者に自分の提供する価値を理解してもらい、説得することで自らのミッションに参加させる能力が備わっているケースが多いです。
2. リーダーシップ
将来の明確なビジョンをもち、それを日々の目標やミッションに落とし込むことで進むべき道を明らかにし、リスクを負いながら着実に前進する資質をもつ人が多いこともわかっています。
強固なビジョンを商品開発やサービスに結びつけ、さまざまな課題を解決するために新しいソリューションを提供することを信条とする人が多いようです。
3. 責任能力
アントレプレナーマインドをもつ人は、責任能力にも秀でています。自らの行動に責任をもち、批判を受けながらもそれを発奮材料として行動し続けられる強みをもっています。
自分の失敗を他人のせいにするのではなく、どんな状況でも自分の問題として捉えることで、行動の修正を図りつつ着実に目標に向かって進んでいく力をもつ人が多いです。逆に他責思考になりがちな人は、活動中に何度も頓挫してしまう可能性が高いこともわかっています。
4. 目標達成への意欲
目標を達成するための意欲をもち続けることは、企業家にとってはもっとも重要な資質のひとつといえます。
自ら立てた目標やミッションの達成に全力を注ぎ、周囲と協力しながら着実にハードルを乗り越えていきます。他者を巻き込みながら、かつ、その活動に参加した人すべてに価値を提供しながら目標の達成を目指す姿勢を大事にする傾向があります。
5. 対人能力
これまで挙げたスキルを後押しする資質が対人能力といえるでしょう。周囲と適切なコミュニケーションをとりつつ目標を達成していく能力は、アントレプレナーには必須です。
自分とは合わない相手とでも適度な距離感でコミュニケーションがとれ、必要に応じて協力を依頼することもできます。優れた対人能力によってリーダーシップを発揮し、ときに軌道修正をしながらチームとともにミッションの達成にまい進します。
アントレプレナーになるには
アントレプレナーとして価値を提供できる人材となるには、上述のような資質を備えるために努力し続ける必要があります。すべてが完璧であることは難しいですが、自分の強み分野を中心に必要な資質を伸ばし、キャリア全体を通して学び続けていかなければなりません。
いずれも先天的な能力ではないので、できるだけ若い時期に積極的に身に着けるようにしましょう。
注目されるアントレプレナーシップ教育
アントレプレナーの存在が注目されるにしたがって、多くの企業が社内で従業員のアントレプレナーシップを育むための教育を考えようになりました。言われたことをこなすだけの人材ではなく、自ら問題意識をもち、新しいことに挑戦する人材の育成を目指す企業が増えているわけです。
アントレプレナーシップ教育とは
アントレプレナーシップ教育のコンセプトは、社会の変化やニーズを敏感に取り入れ、利用可能なリソースを駆使して組織や社会が抱える問題を解決に導く人材を育むことです。
これまでのような組織内で杓子定規に得点を重ねる人材とは別に、精神的・経済的に自立した個人として社会に問題意識をもち、自ら積極的に問題を解決や価値の創造をしていく人材を育てることを目的としています。
拡大するアントレプレナー育成プログラム
そういった人材を増やすため、最近では小学校から大学まで、さまざまな場でアントレプレナーの育成を目指した独自の教育プログラムが展開されています。
また、文部科学省も、これまで各地の大学で取り組まれてきたアントレプレナー教育の成果や課題を踏まえ、起業や新しい事業の創出にチャレンジする人材の育成事業に取り組んでいます。実践的な内容を重視した教育プログラムへの支援をはじめ、さまざまな分野で啓発活動を行うようになってきました。
その多くは、現状「起業家」の文脈からアントレプレナーを捉えているものですが、必ずしも組織から離れて新しくビジネスをはじめることだけが、アントレプレナーシップではありません。今後は、組織内での製品開発イノベーションや、新しい価値を提供する事業を起こす「企業家精神」の土台をもつ人材を増やすことにも力点を置くことが求められるでしょう。
アントレプレナーシップを学べる本3選
最後に、アントレプレナーシップを学ぶにあたって役に立つ本を3冊紹介します。
アントレプレナーシップは「起業」から解放される 世界標準の経営理論
『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』誌に掲載された数々のアントレプレナーに関する論考を電子書籍化したものです。主に経営理論の視点からアントレプレナーシップについて学べます。アントレプレナーの起源など、歴史的・理論的な側面から企業家精神について学びたい方は手にとってみるとよいでしょう。
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アントレプレナーの教科書[新装版]
いわゆる「リーンスタートアップ」の出発点となった起業に関する書籍です。著者のスティーブン・G・ブランクはシリコンバレーの有名な起業家の一人であり、マーケティング責任者からCEOまで8社の企業の創業に携わった人物です。
その経験を生かして、新規事業の立ち上げに共通するパターンとその成功の秘訣について述べています。スタートアップ起業家のみならず、会社内の新規事業を立ち上げようとする人にもおすすめです。
翔泳社
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起業家のように企業で働く
企業内であっても、「起業家」のような視点で価値を創造することの重要性を説いた本です。著者の小杉俊哉氏は数々のビジネス書を出版している経営学者・コンサルタントであり、自らの経験を生かしてSFCでリーダーシップ論を教えている人物でもあります。
本書はベンチャー経営者のみならず、組織で働く人々も起業家のように考え、動くことが必要であることを述べており、特に20代後半から30代前半のゼミの卒業生に手紙を送るという体裁で話が進みます。同年代のビジネスパーソンにおすすめの書籍です。
クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
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アントレプレナーシップを磨いてイノベーションを
アントレプレナーシップの解釈はさまざまありますが、特に「企業家精神」という視点から解説をしてきました。
企業家精神を意味するアントレプレナーシップでは、既存の組織内で進取の気性をもち、リーダーシップを発揮して新しい価値を創造する姿勢が求められます。特に不確実性が増している現在のビジネス環境においては、企業内でも高い創造力をもったリスクに立ち向かう人材の育成がより求められるようになるでしょう。
いまやビジネスの規模にかかわらず、組織人でも積極的にアントレプレナーシップの発揮が求められる時代になっているのです。
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