ホーソン実験とは | 内容・人間関係論・生産性向上・GE工場

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記事の情報は2018-06-25時点のものです。

働き方改革、長時間労働の是正とともに、「生産性の向上」が企業の大きな課題となっています。生産性が叫ばれる今こそ、モチベーション理論の礎となった「ホーソン実験」に注目しましょう。実験が行われた背景や結果、その成果をマネジメントに生かすためのポイントなどを解説していきます。
ホーソン実験とは | 内容・人間関係論・生産性向上・GE工場

ホーソン実験とは

ビジネスや能力開発の分野で、かつて行われた心理学上の実験成果が応用されるケースは少なくありません。

ホーソン実験もそのひとつで、組織の生産性と人間関係に大きな関係があることを示した非常に重要な実験です。

ホーソン実験の概要

ホーソン実験とは、人間の動機付けに関して行われた実験と調査のことをいいます。

1924年から1932年の間、米国シカゴにあるウェスタン・エレクトリック社(GE社)のホーソン工場にて、全米学術協会の主導で始まりました。

途中からハーバード大学の精神科医エルトン・メイヨー氏などが加わり、最終的に人間の作業効率に関する大規模な実験となりました。

この実験により、労働者の作業能率に関する革新的な発表がされ、仕事の能率に人間関係が大きく関わっていることが広く知られるようになりました。

実験に至った背景

実験の契機となったのは、GE社が「照明の明るさ」と「人間の作業効率」の相関関係を証明するために発表した論文です。

工場内の照明が明るければ作業員の効率が向上することを証明するため、当時電気部品の生産を担っていたホーソン工場で「照明実験」や「リレー組み立て実験」「バンク配線作業実験」などの実験・研究が行われました。

しかし、照明の明るさと人間の作業効率についての関係を証明するために行った実験は、意外にも、作業員同士の人間関係こそが生産性を上げる鍵であるという結論に至りました。

メイヨーの紡績工場での調査

ホーソン実験を主導したメイヨーが実験に参加した背景には、彼がかつてフィラデルフィアで行った紡績工場調査の経験がありました。

同工場では、当時ミュール紡績部門の離職率が年250%にも及んでいたため、その原因を調べて欲しいとメイヨーに依頼が来たのです。

その工場で彼が見たのは、休む暇もなく目の前の仕事をこなさなければならない過酷な労働者環境でした。

当時は、いわゆる「テイラー主義」による管理手法が主流で、作業員達を厳しい監視下に置いて働かせるのが効率的であるとされていました

この紡績部門もその手法にのっとって厳しく労働者達を管理しており、ろくに食事をする暇も与えられないほど厳しく働かされた彼らは、次々と辞めていってしまいました。

メイヨーが抱いた問題意識

「従業員を厳しく管理する環境こそが離職の原因」と考えたメイヨーは、工場内の労働者達に適度に休憩をとらせ、かつそのタイミングは労働者自身に決めさせるという提案をしました。

結果、離職率は5%まで低下し、さらに作業員達の仕事の生産性も向上したのです。

この経験から、メイヨーは人間の生産性に心理的・精神的要因があるのではないかと考えるようになり、これがホーソン実験に参加するきっかけとなります。

ホーソン実験の内容と成果

ホーソン実験では、何が行われ、何がわかったのでしょうか。当時行われた実験について、順を追って具体的に説明していきます。

照明実験

ホーソン実験では、まず工場内の照明に関する実験が行われました。

この実験は工場の環境要因と生産性との関連を調べるものでした。具体的には、工場内の照明を意図的に暗くした場合に、コイル巻きの作業速度がどの程度低下するのかを段階的に測っていくというものです。

事前の予測では、GE社の論文から「照明の照度を下げると作業効率に悪影響が出る」と考えられていました。

しかし、結果として照度と作業効率の間の明確な相関関係は認められず、むしろ照明を暗くした場合にも作業効率は高くなるといった現象が観察されました。つまり、工場の物理的環境と生産性には明確な関係がないと判明したわけです。

リレー組み立て実験

次に、継電器の組み立てリレーに関する調査が行われました。目的は労働環境と生産性の関連を調べるというものです。

具体的には、まず組立作業を行う人員を5人、部品を揃えるなどの世話役として1人の計6人の女性従業員でグループをつくり、さまざまな条件のもとで作業させます。たとえば部屋の温度を変えたり、休憩を不定期にしたりといった条件下で、生産性の変化について調査しました。

結果としては実験を重ねれば重ねただけ能率が上がり、条件をもとに戻しても生産性が上がったのです。また、女性従業員たちは選ばれたことに誇りをもっており、仲間意識も強かったため、労働環境に関係なく士気の高さや仲間意識こそが高い生産性につながるという推測が得られました。

面接実験

続いて、メイヨーらの主導による面接実験が行われました。

約21,000人の従業員に対して「仕事は楽しいか?」「やりがいはなにか?」「仕事についてどう思うか?」といった質問に答えてもらい、個人的な感情が仕事のパフォーマンスにどう影響を与えるかが調査されました。

その結果、労働意欲がその環境や賃金よりも、職場における人間関係や仕事への適性、興味といった感情的な部分に強く依存していることが判明しました。これにより、メイヨー達は仕事の生産性に影響するのは、職場での人間関係や監督者による強いリーダーシップであるという仮説を導きました。

バンク配線作業実験

最後に電子交換機器端子の配線作業に関する実験が行われました。従業員を職種ごとに「配線」「ハンダ付け」「検査」とグループ分けし、共同で配線作業を行わせるものです。

その結果、作業員一人あたりの生産性に影響するのは、能力よりも仕事に対する意識の方が大きいとわかりました。特に上司とよい人間関係を築けていれば、ミスが少なくなることが明らかになりました。ここでも職場の人間関係こそが重要であるという結論が得られたのです。

ホーソン実験で注目された人間関係論

ホーソン実験により、それまで主流だったテイラー流のマネジメントに変わる、人間関係を中心としたマネジメント法が提唱されるようになりました。ここで、両者の考え方の違いについて整理してみましょう。

実験以前:徹底した監視こそが重要

ホーソン実験以前の経営管理法は、テイラーによる科学的管理法が主流でした。これは作業条件を改善し、労働者を徹底した監視下におくことが生産性を上げるもっとも有効な方法だという考え方です。

この手法は一時的に成果を上げましたが、労働者をあたかも機械のように扱うことに対する批判が相次ぎました。上述の紡績工場の例のように、離職率が異常に高い職場が増えてしまったのです。

実験以後:人間関係こそが生産性向上に直結する

ホーソン実験を契機に広がりをみせたメイヨーらによる人間関係論は、科学的管理法とは反対のものとして確立されました。

職場の生産性が同僚や上司との人間関係に大きく関係しているとわかり、それまで軽視されていた人間の精神的な側面にフォーカスしています。

従業員を厳しい監視下で徹底管理するよりも、彼らの士気を高め、円滑な人間関係のなかでモラールを高めていくことが必要です。そのためにはまず、職場での人間関係改善こそが重要だとされたのです。

ホーソン実験から学ぶ、企業が実践すべき2つのこと

最後にホーソン実験の結果を、現代企業のマネジメントに生かすポイントについて解説します。

1. リスクマネジメントの徹底

現代の企業においても、組織の生産性を上げるには、従業員の精神面に配慮し一人ひとりが感情のコントロールをしやすい環境を整えることが肝要です。

パワハラやモラハラといったハラスメントが社会的な問題となっていることもあり、苦情受付窓口を設置したり、対策用セミナーを開催したりするといった人間関係を円滑にするための施策を講ずる必要があります。

経営者や管理者の知らないうちに人間関係に問題を抱える従業員が出る可能性も高いので、従業員のメンタル配慮をリスクマネジメントとして捉え、対策しなければならないでしょう。

また、以下の記事では中間管理職が部下のモチベーションを上げるために気を付けるべき点について解説しています。

2. 情報共有の活性化

精神的な問題を上司に相談しやすい体制も必要です。人間関係に問題を抱えやすい企業の特徴として、悩み事を相談できずに一人で抱え込む環境があげられるためです。

対策としては、組織内の情報共有を活性化し、あわせてストレステストなどの調査を定期的に行うことが必要でしょう。それに加えて、上司と部下とが気兼ねなく意見を述べ合える体制を整えることも重要です。

組織のトップ層が方針を打ち出し、社内教育を通して管理者に学んでもらうことで、企業が従業員の精神面に配慮していることを打ち出すのもよいでしょう。

今こそ生きる「ホーソン実験」

現代のモチベーション理論にも大きな影響を与えているとされる、エルトン・メイヨーらによるホーソン実験について解説してきました。

ホーソン実験により広まった人間関係論に対しては、その解釈に関する批判や異論などもあるものの、現代の企業が活用できる方法として発展的な研究がなされています。

人間関係の改善によって企業の生産性を上げる手法は、「働き方改革」の渦中にある現代の企業にとっても非常に価値あるものでしょう。ぜひこの実験成果を踏まえて、自社の人間関係について見直してみてください。