マイクロソフトホロレンズで建設業界の働き方改革が爆速で進むワケ

建設業界におけるxRの活用が急速に進んでいる。xRとはAR(拡張現実)、VR(仮想現実)、MR(複合現実または混合現実)の総称で、様々な産業で利活用方法が模索されている。今回は、マイクロソフトと協業してホロレンズを活用し日本の建設業界では初めて、建設現場へのMR(複合現実)導入に踏み切った小柳建設社長 小柳卓蔵氏にお話を伺った。

マイクロソフトホロレンズで建設業界の働き方改革が爆速で進むワケ

小柳建設は新潟県三条市に本社を置く、未上場ながら浚渫(しゅんせつ)をはじめ高技術力を有する優良企業だ。

創業は古い。戦後まもない1945年11月にさかのぼる。創業以来、一貫して「人のため、世のため」を理念に掲げ、安全な施工と技術力の向上につとめてきたという。

「キツイ、汚い、危険。いわゆる3Kで遅れているという、建設業へのイメージを払拭したい。」かねてより、建設業界に対する課題感を抱いていたという小柳建設3代目社長 小柳卓蔵氏は、2016年に初めてMR(複合現実)の技術を知った瞬間に「これだ」と閃いた。

※MR=Mixed Realityの略。バーチャルな世界を現実世界に融合させてリアルに感じることができる技術。

建設業界の課題とは

国土交通省によると、建設業界における実労働時間は年間2056時間。他産業の平均である年間1720時間と比較すると、圧倒的に長い。建設工事全体における休日の状況も、約64%が4週4休以下。たしかに「キツイ」職場環境であるかもしれない。

小柳建設3代目社長 小柳卓蔵氏

「休日返上や夜遅くまで作業をしてでも根性で頑張るのがかっこいいと思っている方が多い。若い子は引いちゃいますよね。建設業界で働き方改革が進まない原因は、昭和的な固定観念なんです」小柳社長は指摘する。

長時間労働、固定観念、世代間の就労感ギャップ。それらが悪循環を生み、採用難に拍車をかける。人材不足にあえぐ業界や企業に、共通する課題ではないだろうか。

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建設業界全体のワークスタイルを変えるために

どうすれば、これらの課題を解決できるのだろうか?

建設業の仕事は、地面や壁の中などに最終的には隠れてしまう。工事完了後に何か起きたときの対応のため、大量の書類を作成しなければならないという。

現場で施行の指示をしながら書類作成も進められるよう、小柳建設ではクラウドやビジネスチャットを積極的に活用して働き方の改善を進めてきた。

しかし、いま建設業界で進められようとしている「働き方改革」には違和感もあるという。「いまの労働環境イコール悪だという考えや、働きたいという人に対して制限をかけることはおかしい」としたうえで、小柳社長が焦点を当てるポイントは2つだ。

(1)建設現場への移動時間などの工数削減
(2)経験値によるスキル格差の是正

そこで注目したのが、MR(複合現実または混合現実)技術だった。遠隔での現場確認や会議が可能となる。図面の確認も、3Dデータを等身大で、しかも離れた場所にいる者同士で同時にできるようになるのだ。

本当に必要なとき以外、現場を訪れることなく施工を進めることができれば、実に往復2〜4時間にもなる移動時間の削減には効果絶大だ。

また、紙の設計図とにらめっこするのではなく、3Dデータを見て直感的に仕上がりイメージをつかむことができれば、経験値やスキル差による手戻りの発生を防止できる。

MR(複合現実または混合現実)利用イメージ

けれども、MRの活用において最も有用なのは「建設業界で働く人をモチベートできる」という点かもしれない。

小柳社長はあるとき、現場監督をつとめるスタッフに尋ねたという。そんなに不平不満を言いながら建設業界に何故いるのか?と。

その答えはシンプルだった。道路や橋ができたとき、そこに住んでいる人が喜んでくれるから。世の中の人からの感謝の声が、何よりも嬉しいから。

「現場スタッフの話を聞くうち、建設会社の経営者としてやるべきことは、建設業界のイメージを変えることなんだと思いました。壮大なものをスマートに作っている、というイメージを作りたいんです。」(小柳社長)

若い入職者たちにも夢を与えてあげたいし、この業界で働くことに誇りを持てるようにしたい。MRなら、ホロレンズなら、それができると思った。

マイクロソフトのホロレンズに魅了された理由

引用:プレスリリース

ホロレンズとは、マイクロソフトが2015年に発表したヘッドマウントディスプレイだ。日本では2017年1月に発売開始された。

現実世界に3Dデータを投影し遠隔で視界を共有する、MR(Mixed Reality)と呼ばれる複合現実を体験できる。高度なセンサーやスピーカーを内蔵、Windows 10も搭載され、音声認識や各種アプリの利用、データの編集まで可能だ。

建設現場に持ち込んだときの利便性を、小柳社長はこう語る。

「全ての大卒の子が感じるのは、大学で学んだことが全く通じない、現場で話されていることが分からないということです。それもそのはず、2Dの図面をみんなで見ながら、技術者がそれぞれに自分の頭の中で3D化している。同じ図面を見ていても、お互いに同じ立体像をイメージしているかどうか、証明のしようが無いんです。

そこにホロレンズを持ち込めば、誰が見ても同じ3Dデータを目視できます。かつ直感的に図面を理解できる。認識間違いが発生しない分、工事の手戻りは圧倒的に削減できます。現場経験の浅い若手でも、完成像を見ながら工程を理解していくことができ、OJTの品質は格段に上がっていくでしょう」(小柳氏)



画像提供:小柳建設 ホロレンズを着用して目視できる3Dデータ

さらにホロレンズなら、離れた場所にいる複数人で、同じものを見ることができる。難工事の際、建設現場に行くことができない技術者や専門家にホロレンズで状況を共有し、同じデータを確認しながら技術的なアドバイスを得ることも可能だ。

画像提供:小柳建設

建設現場への移動時間の削減、経験値によるスキル格差の是正に活用できるだけでなく、最先端技術を駆使したワークスタイル変革という"スマートさ"もある。

ホロレンズに大きな魅力と可能性を感じた小柳社長は、開発元であるマイクロソフトに持ちかけた。「建設業界を変えるようなソリューションを開発したい。」かくして、ホロストラクションは開発されたのだ。