リカレント教育とは|生涯学習が重要な背景・日本の現状・大学の導入事例

最終更新日: 公開日:

記事の情報は2018-07-27時点のものです。

さまざまなワークスタイルが登場するなかで、改めて大人の「学び直し」が注目されています。日本でもさまざまなプログラムが提供されはじめている「リカレント教育」の概要と、現状、また現状における課題について解説していきます。
リカレント教育とは|生涯学習が重要な背景・日本の現状・大学の導入事例

リカレント教育とは

リカレント教育とは、務教育や基礎的な教育を終えている者が、必要に応じて、生涯にわたり教育と就労を繰り返していく教育システムをいいます。

リカレントとは、「繰り返し」や「復習」という意味です。そのため、リカレント教育を日本語にすると「回帰教育」や「循環教育」と呼ばれるケースもありますが、一般的には、社会人が必要に応じて自らの意志で学び直しを行うことをリカレント教育と指すことが多いようです。「生涯学習」の方が馴染み深い方もいるかもしれません。

政府が推進するリカレント教育

政府も働き方改革から派生した「人生100年時代構想会議」において、リカレント教育を推奨する方針を示しています。

同会議では、すべての人に開かれた大学教育の機会を確保するとともに、教育の負担を軽減するための給付型奨学金の推奨や、何歳になっても学び直せる環境整備と社会人の多様なニーズに対応する受け皿が必要であることが話し合われました。

安倍首相も、同会議にてリカレント教育の必要性を述べるとともに「リカレント教育を受けた方に就職の道が開けるよう、産業界には人材採用の多元化を検討いただきたい」と、学び直しを行った社会人の仕事の受け皿をつくるように、産業界に要望しています。

欧米と日本の違い

リカレント教育はスウェーデンの経済学者によって提唱されたもので、OECD(経済協力開発機構)で取り上げられたことによって広まった構想です。もともと欧州発祥であるため、特に欧米日本とではリカレント教育の定着度合いや考え方に差がありました。

欧米では、生涯にわたり教育と就労を交互に行うという本来の考え方が根付いており、それに基づいた教育システムが整備されています。これはリカレント教育が提唱された当時の社会状況が大きく影響しているといわれ、子供の頃に身に着けた知識やスキルが社会で役立たなくなるケースが多かったことから、状況に応じて繰り返し再教育を受けられるシステムが受け入れられやすかったといわれています。

一方、日本ではリカレント教育のコンセプトは受け入れられましたが、当時は終身雇用制度が一般的だったため、社会人となって企業に入った後に、再び教育機関で学び直すという考え方が広まり難かった部分があります。

しかし、多様な働き方が推奨されるようになるなかで、キャリアアップのために必要な知識や技術を身につける場として、リカレント教育が注目されるようになりました。

なぜリカレント教育が必要なのか

それでは、特に日本でリカレント教育が必要とされるようになった理由はなんでしょうか。

政府が「人生100年時代構想会議」を行ったように、日本は少子化とともに高齢化が急速に進んでおり、近い将来超長寿化社会が訪れるといわれています。これは若い労働力が減少して働き手が少なくなり、労働生産性の向上が叫ばれるようになったことに加え、これまで「リタイヤ世代」だった60代以上の元気に働ける人々が増えることを意味します。

そういった人々が自分の状況に合った多様な働き方をしていくためには、年齢に関係なく自らのキャリアアップ・スキルアップのために学び直せる環境が必要です。先述のように、欧米ではこういった考え方が浸透しており、自らの意志で教育機関に戻って学習を続けることでそれまでとは違うキャリアを歩む人は珍しくありません。

日本ではそういった考え方が根付き辛かったものの、少子高齢化やAIなどの技術革新が進展するなかで、自分なりの働き方を工夫する姿勢が求められるようなってきています。そのためのスキルアップの手段として、学ぶ年齢に囚われないリカレント教育の必要性が注目されるようになってきたのです。

リカレント教育導入に際しての課題

このように、社会の状況が変化し、転職が当たり前の時代になるにつれ、日本でも今後ますますリカレント教育の必要性が高まっていくことが予想されます。

しかしリカレント教育の導入にあたっては、現状さまざまな障害があることは否めません。主に以下の2つの点で大きな課題を抱えているといえるでしょう。

公的支援や補助制度の未整備

政府による「人生100年時代構想会議」について紹介しましたが、それでもまだ公的機関によるリカレント教育への支援や補助制度は未整備といえます。

教育機関のなかには、社会人が好きな時間に学べるサテライト講義を開催する学校や、夜間や土曜日に受講可能な大学院も出てきています。しかし、フランスなどのような有休教育制度などは法制化されておらず、現在の仕事を中断してキャリアアップのための教育に自主的に参加するのが難しいのが現状です。

また、教育費用の面でも支援制度があまりなく、学び直しをしたくても経済的な面から断念せざるを得ないという人はけっして少なくありません。そういった費用面の負担を減らすための支援や給付金といった制度を充実させる必要があるでしょう。

企業の理解が不可欠

さらに、リカレント教育には企業側の理解も不可欠です。しかし実際は、従業員の外部での学び直しを想定していない企業がほとんどです。たとえ教育機関が充実しても、社会人には学生のように自由に学ぶための時間は多くありません。そこで企業側がリカレント教育の必要性を認識し、積極的に導入することが求められます。

特にこれまでのような社内教育だけでは不十分になってきていますから、外部の教育機関と協力するなどして、忙しい従業員が自主的に学ぶことでスキルアップを図れる環境を整える必要があるでしょう。

リカレント教育の実施事例

日本におけるリカレント教育の普及には多くの課題を乗り越えていかなければいけませんが、一部の大学などでは積極的にリカレント教育のための学び場を提供するところが出てきています。いくつかの事例を紹介しましょう。

日本女子大学

日本女子大学では、文科省の委託事業としてリカレント教育課程を発足させました。

大学卒業後に就職し、その後育児や配偶者の転勤、自身の進路変更などによって離職した女性に対し、1年間のリカレント教育を提供するとともに、修了者一人ひとりの資質に合った再就職先のあっせんまで一貫して行っています。

2016年4月には、リカレント教育課程が文部科学省「職業実践力育成プログラム(BP)」に認定され、厚生労働省「専門実践教育訓練講座」にも指定されています。

大阪府立大学

大阪府立大学では、リカレント教育の一環として社会人を対象とした特別な教育課程である「履修証明プログラム」を提供しています。

本学の教育資源を生かし編成された、体系的な知識や技術の習得を目指した教育プログラムで、総合リハビリテーション学研究科で「地域リハビリテーション学コース」が半期単位で開講されています。

このコースは文科省によって課題解決型高度医療人材養成プログラムに選定された「在宅ケアを支えるリハビリ専門職の育成事業」の一環であり、医療と在宅ケアの連携を推進できる医療人材の育成のために、幅広い分野の知識の習得を目指したカリキュラムとなっています。

明治大学

明治大学でもリカレント教育として「履修証明プログラム」が提供されています。特に女性の仕事復帰とキャリアアップの支援を目的に、半年間の短期集中ビジネスプログラムである「女性のためのスマートキャリアプログラム」の受講が可能です。

これは生活スタイルに合わせて「昼間コース」と「夜間・土日コース」の選択ができるもので、マーケティングや金融・財務、ビジネススキルをはじめとしたビジネス全般にわたる領域について、講義と実践の両面での指導を受けられます。

兵庫大学

兵庫大学と兵庫大学短期大学部では、職業人や社会人を対象に、新しい知識や技術習得のためのリカレント教育を行っています。

たとえば「養護教諭のためのリカレント・セミナー」では、養護教諭を中心に、子供の心と身体の健康課題に関するセミナーを開催しており、テーマに関心がある者ならば、だれでも受講できるようになっています。

また、精神科医療を受けた後に社会への復帰を目指す人とその支援者を対象にピアカウンセリング講座の実施や、医療従事者や福祉従事者のために、より実践的な医療技術習熟の場も提供しています。

リカレント教育でキャリアを再構築しよう

日本でも本格的に導入されはじめた「リカレント教育」について、社会的な背景や日本での導入状況、課題などについて解説してきました。

終身雇用制度が崩壊、そして転職が当たり前の時代になるなかで、社会人が「学び直し」に取り組む必要性が高まっています。また、個人のニーズに沿った多様な働き方こそが生産性向上の鍵だと考える企業も増えてきています。現状、多くの課題を抱えているものの、徐々にリカレント教育が普及する土台はできつつあるといえるでしょう。

安倍首相は、「第6回人生100年時代構想会議」(2018年3月)のなかで、「働き方が変わる中で、企業内教育にのみ人材育成を期待するのは限界であります。教育機関、産業界、行政が連携してリカレント教育を進めてまいります」と述べています。今後ますます仕組みが整い、多くのリカレント教育プログラムも登場するでしょう。

自身のキャリアを考えるうえで、生涯学習は欠かせないものになりつつあります。学びに「遅すぎる」ということはありません。