近年、日本の中小企業を中心に人手不足が問題となっています。その原因は新規の人材が集まらないこともありますが、それ以上に、社員の離職率が高いことが挙げられます。人手不足により倒産した事例もみられるようになりました。
そういった状況を打破すべく、離職防止に取り組む企業が多くみられます。なかでも、IT技術を積極的に活用した事例に注目。AI(人工知能)などの最新技術を活用して離職の兆候を探ったり、社員のメンタルケアにつなげたりする事例があり、有効な離職対策のひとつとして注目されているのです。
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離職を巡る日本の現状
まずは日本企業の離職を巡る現状をみてみましょう。
目立つ20代の離職者
最近は転職市場が盛り上がりを見せていますが、これは裏を返せば、それだけ多くの若者が「離職」していることを意味します。事実、新卒や第二新卒が含まれる20代の離職率は他の世代より高めであり、特に25~29歳の離職率が男女問わず目立っています。
3大離職理由は「労働条件」「給料」「人間関係」への不満
厚生労働省が実施した「平成28年雇用動向調査結果の概要」によると、20代の離職理由は「給与などの収入の少なさ」がトップ。次いで「労働条件が悪かった」「会社の将来が不安」といった企業に対する不安や不満、「職場の人間関係が好ましくなかった」という対人関係への不満が挙がっています。
つまり「労働条件」「給料」「人間関係」の3つへの不満が若者の離職の主な原因ということであり、これらの要因を改善することが、20代を中心とした若者の離職を食い止める施策の鍵となり得るのです。
なお、男性は給与などの収入面や会社の将来性に重きを置いており、女性は職場での人間関係や労働条件を重視する傾向もみられます。
3割が3年以内に辞める時代
新卒で入社した社員が3年以内に離職する割合は30%以上といわれる時代になりました。さらに近年は、いわゆるブラック企業などの問題がフォーカスされることも多く、労働条件に対して厳しい目を持つ人が増えています。
社員の離職は企業にさまざまな損失をもたらします。本腰を入れて離職防止対策に取り組む必要があるのです。
とはいえ、単純なマンパワーだけでは難しい面もあり、これまで功を奏した取り組みは少なかったのが実態だったといえます。
ITを活用した最新の離職防止対策
そういった現状を乗り越えるべく注目され始めたのが、最新のIT技術を活用した離職防止対策です。とりわけAI(人工知能)を活用したサービスが注目されています。
AIで従業員のコメントを分析する「KIBIT」
独自に開発したAI(人工知能)により、ビッグデータなどの情報解析を支援しているFRONTEOは、AIでデータを分析するシステム「KIBIT」を人材流出、またハラスメントの防止に活用するサービスを提供しています。従業員のメールや文書などをチェック、分析し、離職の原因となり得る不平不満やパワハラの疑いなどを検知するというものです。
抽出された社員にフォローを行うことで、離職防止などにつなげることを目的としています。
ソラストでの導入事例
医療事務関連サービスを提供するソラストは、KIBITを活用した新入社員の離職防止の取り組みを実施、2018年5月にその結果を発表しました。KIBITが「要注意」と判定した社員が本当に退職リスクの高い人材なのかを確認することを目的に、2017年6月上旬より半年間にわたって調査をしています。
同社では、年間約5,000人入社する新入社員にコミュニケーションシートを記入してもらい、年間7回の面談を行っています。その内容をKIBITを通じて分析し、面談者の主観では見逃してしまうような言い回しや表現の機微を捉え、要注意と判断した社員を抽出。当該社員に対して追加的なフォローを行うことで離職率の軽減に成功したそうです。
出典:プレスリリース
今回の取り組みにより、「AIは退職リスクが高い社員を抽出していること」また「退職リスクが高い社員に適切な対策を打てば、退職を防ぐことができる可能性があること」がわかったといいます。
チャット分析で離職の兆候をつかめ
続いて、ビジネスチャットなどの社内SNSをAIで解析し、離職兆候のある人を早期に発見してフォローするのに役立つサービスと、膨大なデータの分析によって得た洞察を数値化してくれるツールを紹介します。
離職防止ソリューション for InCircle
エンジニアの人材サービスを展開するアウトソーシングテクノロジーは、ビジネスチャット「InCircle(インサークル)」を提供するAOSモバイルとともにデータ解析サービスを共同開発、「離職防止ソリューション for InCircle」として2018年3月にリリースしました。
InCircle上でやり取りされたチャットデータをAIで解析し、職場環境の改善や退職リスクが高い社員のフォローにつなげるというものです。
たとえば「辞めたい」「転職」「卒業」など、離職を想定させるような特定のキーワードに反応して、人事担当者へ通知を飛ばすことで、迅速な対応を可能に。また、過去に退職した社員のチャットデータを解析し、どのような会話パターンが離職につながりやすいのかを分析。会話パターンから離職を予測し個別対応を可能にする、「未来を予測したような」離職防止対策ツールとしています。
Watson Analytics
IBMワトソンといえば、IBMが独自に開発したAIによる質問応答・意思決定支援システムとして知られています。これを人事部門に導入することで、離職防止のための施策に活用する方法も同社は紹介しています。
たとえば、退職要因を探るために、これまで在籍した全社員について年齢、性別といった属性データから、勤続年数や現在の状況(在職中か退職済みかなど)をWatson Analyticsを使って分析します。これによって、退職につながる要因を詳細に把握でき、改善に向けた対策をとることで、離職防止につながるとしています。
働きやすい環境づくりで離職を防止
多くの企業で問題となっている離職の現状と、IT技術、とりわけAIを活用した離職防止対策を紹介しました。
いまや離職防止策の実施は企業の経営課題のひとつであり、多くの企業が待遇改善や社内コミュニケーションの活性化などに取り組みはじめています。しかし通常のコミュニケーションだけでは社員の本音を知ることは難しく、予想もしていなかった人に、思わぬ理由で退職されてしまうことがあるかもしれません。
そういった問題を解決できる方法のひとつが、ITを活用したサービスです。膨大なデータを分析して一定の傾向を導き出すことは、AIならではの強みであり、マンパワーでの取り組みをフォローしてくれます。今後、さらにこういった技術を活用して働きやすい職場環境を整える企業が増えてくるはずです。
今後も新たなサービスが登場し、ますますIT技術の活用が進んでいくでしょう。自社の課題はなにかをしっかりと見つめ、最新のサービスの活用も視野に入れた課題解決の道を探りましょう。