破壊的イノベーションとは?ジレンマ・種類・事例 | 大企業にこそ必要なワケ

破壊的イノベーションとは何か?クレイトン・クリステンセンが『イノベーションのジレンマ』で提唱した「破壊的イノベーション」を、アップルやフェイスブックの事例を交えて紹介。大企業にこそ破壊的イノベーションが求められる理由、破壊的イノベーターになるためのポイントを解説します。

破壊的イノベーションとは?ジレンマ・種類・事例 | 大企業にこそ必要なワケ

ハーバード・ビジネス・スクールの教授クレイトン・クリステンセンによる著書『イノベーションのジレンマ』が発表されて以来、さまざまな企業で「破壊的イノベーション」の必要性が叫ばれてきました。

企業のイノベーション理論を扱った書籍のなかで、もっとも有名なこの本は、それまでのイノベーション(持続的イノベーション)の考え方とは異なる非常に革新的な理論を提唱したものでした。特に、日本企業が得意としてきた漸進的な改善や改良といった考え方とは対極的な考えであるといってよいでしょう。

ビジネスパーソンならば一度は聞いたことのある理論ですが、名前だけは知っていても、具体的にどういうものかを知らない人も多いはずです。

そこで本記事では、クリステンセンの唱えたイノベーション理論の概要について説明し、破壊的イノベーションを起こすために必要なポイントについて迫っていきます。

破壊的イノベーションとは

『イノベーションのジレンマ』のなかで語られた「破壊的イノベーション」とは、市場における既存のルールを根本的に覆し、そこにまったく新しい価値を創出するイノベーションのことで、ローエンド型と新市場型の2つの類型があります。

詳しくは後述しますが、前者は高価格で複雑な製品が溢れる市場において、より低価格でシンプルな製品を提供することでローエンドを支配し、その後さらに改良を重ねることでハイエンドをも席巻します。

そして後者は、破壊的技術を用いて、それまで市場になかった新しい価値を提供することでシェアを獲得するイノベーションです。

いずれの類型においても、それまでその市場で当たり前だった評価の軸を変える製品を投入することにより、競争のルールそのものを変更し、当該市場で隆盛を誇っていた企業の脅威となります。

つまり、消費者がそれまで見過ごしてしいた領域に目を向けさせることによって、その市場における製品評価のポイントを変えてしまうわけです。

この強制的なルール変更によって、たとえ創業したばかりの零才企業であっても大企業の脅威となり、場合によっては、その企業に成り代わって市場のトップリーダーの地位に躍り出ることも可能になります。

大企業としては、この脅威を真剣に受け止め、自らが破壊的イノベーターとなることで市場に新しい価値を提供し続ける必要があります。

持続的イノベーションとの違い

破壊的イノベーションに対して、既存顧客の要望を取り入れ、改善・改良を積み重ねていくのが持続的イノベーションです。これは現在市場で求められている製品やサービスについて、それまでと同じ方向性で価値を向上させるアプローチといえます。

たとえば、家電や自動車などは年を追うごとに性能の高いものがリリースされていますが、これは企業の持続的イノベーションの賜物といえるでしょう。テレビでいえばより高画質なものを、自動車でいえばより低燃費なものを…という流れです。

大企業にかかわらず、企業のほとんどは日々この持続的イノベーションを繰り返しているといえるでしょう。

破壊的イノベーションの例

破壊的イノベーションの例を紹介します。破壊的イノベーションは、持続的イノベーションとは逆に、既存市場で当たり前となっている価値を低下させ、まったく別の価値基準を作り上げるアプローチです。

たとえば、それまで高画質が主な競争ポイントだったデジタルカメラ市場は、携帯電話に備えられたカメラの登場によって、消費者の製品評価のポイントに「多機能」という新しい軸が生み出されました。

それまで消費者の多くが「画質」という点からカメラを評価していたところに、新しく「多機能・高機能」という評価軸が加わり、多くの消費者が携帯電話のカメラ機能があれば個別のカメラはいらないと判断するようになったのです。

この現象は、それまでデジタルカメラ業界を席巻していた企業からすれば脅威以外の何者でもなく、どのメーカーも軒並み売り上げを大きく落とすことになってしまいました。これが携帯キャリアによる破壊的イノベーションの例です。

イノベーションのジレンマとは

市場のルールを変えてしまう破壊的イノベーションについて説明したところで、クリステンセンの提唱した「イノベーションのジレンマ」についても解説しておきましょう。

製品の「オーバーシューティング(過剰解決)」とは

同著におけるクリステンセンの問題意識は「なぜ市場で大きなシェアを占めている大企業が突如としてイノベーションに失敗し、業界の地位を新参の企業に明け渡してしまうのか」ということでした。

消費者の要望にしたがって改善・改良を積み重ねていくのがそれまでのイノベーションの基本でした。

しかし、クリステンセンの調査によれば、その方針で製品改良を繰り返していると、いつの間にか製品の性能が顧客の求めるレベルを超えてしまい、高価格で過剰なスペックのものができ上がってしまうことがわかりました。

消費者の要望に忠実であろうとするあまり、いつの間にか大企業は「無用の長物」を市場に提供してしまうようになるわけです。これをクリステンセンは「オーバーシューティング(過剰解決)」と呼んでいます。

持続的イノベーションのジレンマ

クリステンセンによれば、持続的イノベーションはこのオーバーシューティングがつきもので、市場が成熟してくると、消費者が望む性能よりも企業の技術進化の速度が常に上回るようになります。

そうなると、ある一定の方向で(過剰な)改善・改良が進められ、気がつくと、実際は消費者が望んでもいないような複雑で高価格な製品が市場に溢れるようになります。

そんななかで、破壊的イノベーターの手でまったく新しい価値をもつ製品が市場に投入され、競争のルールが変わってしまっても、既存の価値基準のもとで大量に製品を供給している大企業は、なかなかその破壊的技術を活かせません。結果、その企業がそのルールに適応する頃には、新参の破壊的イノベーターに大きな差をつけられてしまうわけです。

このように、既存の市場で持続的イノベーションを繰り返す企業が、まったく新しい価値を提供することで破壊的イノベーションを起こすイノベーターに駆逐されてしまう状況を、クリステンセンは「イノベーションのジレンマ(※原著ではイノベーターのジレンマ)」と呼んだのです。

2種類の破壊的イノベーション

先述のように、破壊的イノベーションには2つの類型が存在します。それぞれもう少し掘り下げてみましょう。

ローエンド型破壊的イノベーション

ローエンド型の破壊的イノベーションは、既存市場でオーバーシューティングに陥った高価格で複雑な製品に対抗すべく、より低価格でシンプルな製品を投入することで起こるイノベーションです。本来、こういった品質を犠牲にしたような安価な製品は、既存の高品質製品を提供している大企業は見向きしません。

しかし、ローエンド型の破壊的イノベーターは、それまで大企業にはターゲットにされていなかったローエンド市場を支配します。そして、そこで圧倒的なシェアを獲得しながら改良を重ね、最終的には上位市場のニーズを持たすハイエンド市場にも進出してきます。

そうなると、それまで高品質の製品を提供した企業は、さらに上位市場に対して製品を提供することで顧客数を減らしてしまいます。

ローエンド型の例

ローエンド型破壊的イノベーションの代表例がLCCです。それまで機内サービスや安全な運行によって差別化していた航空業界では、特定路線のみであるものの、とにかく低価格な就航を可能にしたLCCのローエンド型イノベーションによって脅威に晒されています。

LCCの登場によって、それまで経済的な理由で旅行に航空券を購入できなかった層がLCCを利用するようになり、新しい市場が形成されたわけです。

新市場型破壊的イノベーション

圧倒的な技術革新により生み出した製品やサービスを、新しい価値基準のもとで、まったく新しい市場に投入するのが新市場型の破壊的イノベーションです。

ローエンド型は「価格」という面で消費者を惹きつけますが、新市場型では、その市場にそれまでなかった新しい「価値」を提供することによってシェアを獲得していきます。その市場に新たな製品評価の軸を作り出すわけです。

新市場型の例

新市場型破壊的イノベーションの代表例がルンバです。

それまでの掃除機の進化の過程では考えられなかった新しいコンセプトから生まれた掃除ロボットであり、吸引力や取り回しのしやすさという面で性能の向上を図ってきた市場に、ロボットが勝手に掃除をしてくれるというコンセプトを持ち込むことでイノベーションを起こしました。

当初は機能的に不十分な面もあったようですが、徐々にマスマーケットに普及するほど性能も向上しています。現在は吸引力の代名詞ともいわれるダイソン社でも掃除ロボットを発売するようになっています。