非正規雇用とは?種類・メリット・デメリット・正規との格差と是正まとめ

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記事の情報は2018-07-04時点のものです。

非正規雇用とは、期間や時間などが限定的な働き方をする契約社員や嘱託社員、パート・アルバイトなどを指します。本記事では非正規雇用の種類、メリット・デメリット、正規雇用との格差について解説します。同一労働同一賃金、非正規格差を訴えたハマキョウレックス事件と長澤運輸事件を参考に、格差是正にsついても考察をまとめました。
非正規雇用とは?種類・メリット・デメリット・正規との格差と是正まとめ

非正規雇用とは

期間の定めなくフルタイムで勤務する雇用形態を「正規雇用」とするならば「非正規雇用」は、期間・時間などの個別労働契約にしたがって限定的に勤務する雇用形態のことをいいます。たとえば、契約社員や嘱託社員、パートタイム・アルバイト、派遣社員がこれに該当します。

契約社員・嘱託社員

職務内容や期間、労働時間などに関し、労働者個別に契約を交わして勤務する雇用形態が「契約社員」です。期間を定めた「有期契約社員」として勤務し、複数回の契約更新を経た結果、実質正規社員と変わらない役割を担うことも少なくありません。

有期契約社員として勤務するという点では、嘱託社員も契約社員の一部といえます。一般的には定年退職後の再雇用契約として認識されることが多いものの、専門性の高い労働者が嘱託を受けて勤務するケースもあります。

派遣労働者

派遣労働者とは、労働契約を結んだ派遣元の指示で派遣先へ赴いて、派遣先の指揮命令を受けて労務を提供する労働者のことです。この場合の労働者は、派遣先企業と雇用関係がないのが特徴です。

そのため、派遣労働者との雇用契約、各種社会保険加入、給与支払いなどは「派遣元」が行い、業務内容の命令は「派遣先」が行います。

パートタイム

フルタイムで働く正規社員と比べて短い日数や時間で、限定的に勤務する雇用形態がパートタイムです。たとえば、1日4時間、週3日など、労働時間を限定した働き方になります。

結果的に総労働時間は短くなり、正規雇用と同等の業務量をこなすのは困難になりがちです。そのため、パートタイムでは単純作業や補助的な業務が中心になりやすく、低賃金かつ働きがい不足に陥りがちであるという問題もあります。

アルバイト

ドイツ語が起源となるアルバイトは、英語ではPart-Timerとなり、基本的にパートタイムと同義語です。つまり、短時間で限定的に勤務する雇用形態のことを指します。

一般的に、主婦が空いている時間を活用して働く形態をパートタイム、学生が学業と並行して働く形態をアルバイトと呼ぶケースが多いです。

非正規雇用の割合

下図は、厚生労働省が労働者に占める正規雇用、非正規雇用の割合と総数を調査した結果をグラフ化したものです。1984年には15.3%に過ぎなかった非正規雇用の割合は、1994年に20%を超えるとその勢いが加速。2004年以降は30%を超える水準でさらに増加傾向にあることがわかります。

出典:厚生労働省 非正規雇用の現状と課題

また注目すべきは、正規雇用の女性が35万人増の1,127万人、非正規雇用の女性が23万人増の1,392万人と、女性の就労が増加傾向にあるということです。

これは雇用形態にかかわらず、働く女性が確実に増加していることを意味します。非正規雇用が多いのは、育児などで制約がありながらも働く意欲が高いことの表れだともいえます。今後、非正規格差が是正されていけば、さらにライフスタイルにあわせた働き方を選択しやすくなるでしょう。

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非正規雇用で働く3つのメリット

非正規雇用には3つのメリットが挙げられます。1つめは、ライフスタイルに合わせて働けること。2つめは、希望職種を選びやすいこと。3つめは、採用のハードルが比較的低いことです。正規雇用との格差(非正規雇用のデメリット)に目が行きがちですが、メリットも知っておくことで自分にフィットした働き方を選択することができるのではないでしょうか。

ライフスタイルに合わせて働ける

正規雇用の場合、1日8時間・週5日などのフルタイムで期限を設けずに働くことが大前提となります。労働者個別の契約となる非正規雇用の場合は、自身のライフスタイルにあわせた要件を持つ職場を選択して働くことが可能です。

子育てや介護、高齢などが理由で就労に制限がある、短期間限定で働きたいなどのケースでは、非正規雇用という形態はおおいにメリットとなるでしょう。

希望職種を選びやすい

正規雇用で希望の企業に入社しても、転勤や出向などの業務命令を受ける場合も考えられます。しかし、非正規雇用であれば、希望職種に絞って就労先を探し、入社後も当初の職務から大きくかけ離れることは少ないでしょう。

また、正規雇用に比べて職責や権限が限定的なケースがほとんどであるため、専門領域に特化して就労できるのもメリットでしょう。一方で、日本の企業では正社員の業務領域は多岐に渡るケースが多く、ジョブ型雇用の必要性が叫ばれています。

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採用のハードルが低い

フルタイムで期限を設けずに働く正規雇用は、企業側から見た場合も慎重な採用活動を行わざるを得ません。そのため、クリアすべき要件を複数設けるなどで採用基準を高く設定しています。

一方、非正規雇用の場合は、人員が不足しているポジションへの早期人員補充を目的とする場合が多く、業務が限定的であるため、正規雇用と比べて相対的に採用基準が下げられる傾向にあります。

これを利用して希望の企業に入社し、実績を積んで正規雇用に転換するというキャリア戦略を取る人も多く見られます。

正社員と非正規との格差の実態

非正規には、もちろんデメリットはあります。特に労働流動性が低い日本では、非正規雇用のネガティブ面が目立って取り沙汰出されることは少なくありません。

賃金が圧倒的に低い

下図は厚生労働省の調査結果をもとに、時給をベースとした正規・非正規雇用の年齢別賃金カーブをグラフ化したものであり、正規・非正規ともに一般労働者・短時間労働者に分けられています。

出典:厚生労働省 非正規雇用の現状と課題

このグラフから読み取れるのは、一般・短時間ともに「正規雇用の給与が高い」ことであり、非正規雇用との差額が小さくないことです。

日本では年功序列型が崩壊しつつあるといわれながらも、一般正規雇用者の給与が50〜54歳まで右肩上がりとなっています。一方、非正規雇用は年齢に応じた賃金の変化が極めて少ないのです。

これに加え、非正規にはボーナスが支給されないなどが当たり前になっているのが現状です。ハマキョウレックス事件の判決例からも、企業側が福利厚生などで正規雇用との格差を設けるのも、一部認められているともいえます。

雇用が安定しにくい

雇用期限を定めない正規雇用に比べ、契約期間を定めるケースの多い非正規雇用は、必然的に安定した雇用が得にくい状況にあります。

企業側にとって万一の場合が起こった際も、正規雇用者を人員整理するのは容易なことではなく、真っ先に対象となるのは非正規雇用者です。

こうした現実は、労働者としての非正規雇用の立場を、ますます弱いものとしていきます。

キャリア形成が困難

契約期間が定められるケースの多い非正規雇用者は、契約時の職務内容が継続される場合がほとんどであり、業務を通じた成長の機会までも限定されがちです。

長期で働く可能性が低いため、非正規雇用者のスキルアップをサポートするという企業側の意欲も高まらないのが現実でしょう。

非正規格差是正に向けて進められる「働き方改革」

このような正規に対する非正規の格差は厳然として存在し、すでに触れたように、その是正は政府が主導する働き方改革の柱となるものです。

ではその働き方改革の政策とはどのようなものか、みていきましょう。

無期転換ルール

契約社員の項目でも解説したように、有期契約として就労しながらも、複数回の更新を重ねて長いキャリアを持つ非正規雇用者は少なくありません。こうした労働者は、正規と変わらない職務内容でありながら「雇い止め」の不安を抱えながら働いていることが多いです。

これを是正するのが2018年4月より申込権が発生した「無期転換ルール」です。これにより、有期労働契約が5年を超えて更新された場合、有期労働契約者の申し込みにより「期間の定めのない労働契約」に転換されます。

残念ながら、無期転換の申し込み権利が発生する直前に雇い止めにあったというニュースも散見されますが、本来であれば無期転換ルールにより、労働者は雇い止めを気にせず安心して就労でき、企業は優秀な人材を確保できるというメリットがある制度です。

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同一労働同一賃金

政府主導の働き方改革の柱となるのが「同一労働同一賃金」です。古くから欧州を中心に訴えられていた概念であり「業務内容が同じか同等の労働者は、同じ賃金を受け取るべき」だという考え方です。

たとえば、同様の貢献度を持つ正規/非正規雇用者に対し、正規雇用者のみを優遇した賃金を支払う、または正規雇用者のみにボーナスを支払うなどは「不合理な待遇差」とみなされるのです。

働き方改革関連法案の成立にともない、同一労働同一賃金は大企業で2020年4月、中小企業で2021年4月からスタートする見込み。しかし、最高裁の判決でも、一部待遇差に関してはその存在が認められるとも取れる判断がされており、格差是正への効果のほどは、実際に運用が始まってみなければ判断しづらいという課題も残っています。

非正規格差について最高裁が初判決

2018年6月1日、労働契約法で禁じられている「不合理な格差」に、正社員と非正規社員の待遇格差が該当するかを争った2件の訴訟判決が、最高裁第2小法廷で下されました。

労働契約法20条の解釈に対し、最高裁が判断を示すのは初めてであることから、その行方に大きな注目が集まっていました。以下、その2件の訴訟内容について簡単に説明します。

長澤運輸事件

定年後継続雇用された嘱託社員3人が、横浜市の運送会社「長澤運輸」を訴えた訴訟です。

彼らは職務給・住宅手当・家族手当がカットされ、かつ歩合給による調整で給与総額は定年前の75%になったといいます。これらから職務内容が同一にもかかわらず賃金の減額は「不合理な格差」にあたるとし、訴訟を起こしました。

これに対して最高裁は「皆勤手当と同趣旨となる精勤手当の格差は不合理」とした一方で、そのほかの手当・基本給の格差は、退職金を受け取っている事実や年金支給が受けられること理由に「不合理性を否定」した。

ハマキョウレックス事件

浜松市の物流会社「ハマキョウレックス」に勤める有期雇用労働者(契約社員)が、6種類の手当について正社員との「不合理な格差」があるとして是正を求め、訴訟を起こしました。

この訴訟は、高裁判決で通勤手当・無事故手当・給食手当など、4種類の手当に不合理な格差があると認定されていました。

そして6月1日、最高裁は「高裁判断を支持」すると判断を下しました。そのうえで、出勤者を確保する必要性は非正規社員でも変わらないとし、皆勤手当に関する審理は高裁に差し戻されました。「住宅手当」については、転勤の有無を理由として不合理性が否定されました。

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最高裁判決のポイント

本件の最高裁の判決では

  • 待遇格差は賃金総額ではなく、個別の賃金項目を考慮すべき
  • 出勤を確保する趣旨は正社員と非正規社員に違いはない
  • 転勤の可能性がある正社員の住宅手当が多額なのは格差とはいえない

の以上3点がポイントだったといえるでしょう。

自分らしい働き方を見つけよう

人々の価値観が多様化するなか、正規雇用・非正規雇用に対する考え方も、個人の価値観によって異なるのが当然であり、メリット/デメリットをどこに見いだすかも異なってくるでしょう。

働くことに対して自身のプライオリティがどこにあるのか、人生においてなにを重視すべきかを見極めることで自身の働き方が定まっていくといえるでしょう。

退職金や賞与、家族手当など、判断が明確にされていない項目を残しているものの、今回の一件で最高裁が非正規労働者の待遇改善につながる可能性を示したことは、非正規格差是正に向けた大きな一歩といえるでしょう。