精神障害は「医療・福祉」がトップ、厚労省が公表した労災の実態

厚労省は7月6日、平成29年度の「過労死等の労災補償状況」を公表した。脳・心臓疾患、精神疾患、裁量労働制対象者の3事案に分けたデータで、それぞれ労災請求件数は前年より増加傾向となっている。6月に成立した「働き方改革関連法案」では「高プロ」制度が過労死につながると根強い反発がある。現状の労災件数・過労死件数はどうなっているのか。

精神障害は「医療・福祉」がトップ、厚労省が公表した労災の実態

「高プロ制度」で懸念が高まる「過労死」の問題

厚労省は7月6日、平成29年度「過労死等(※)の労災補償状況」を公表した。この調査は労災請求件数と労災保険給付決定件数について、平成14年から年1回取りまとめている。今年は過去4年との比較に加え、裁量労働制対象者に関する件数についても発表された。

裁量労働制とは、労働時間と成果が必ずしも連動しない仕事において、あらかじめその時間を働いたものとみなされる制度である。本来は、個人に合わせた働き方を可能にし、労働者にとってもメリットがあるはずだが、一部がこれを悪用し、長時間労働を生み出しているという声もある。

また6月29日に可決・成立した「働き方改革関連法案」の「高プロ制度」には、各方面から反発がでている。高プロ制度は、職種・年収要件が裁量労働制よりも狭いものの、残業代や労働時間などの規制がなく、過労死への危険性をさらに高めると懸念されているのだ。

まずは公表された「脳・心臓疾患」「精神疾患」「裁量労働制対象者」それぞれについて、実態をみていこう。

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※「過労死等」とは、過労死等防止対策推進法第2条において、「業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう。」と定義されている。(厚労省リリースより引用)

平成29年度労災請求・支給決定件数

【脳・心臓疾患に関する事案】

労災請求件数は840件(うち女性120件)で過去4年でもっとも多かった。
●そのうち業務上と判断された支給決定件数は253件(17件)。
●死亡の請求件数は241件(18件)で、うち支給決定件数は92件(2件)。
●業種別、請求件数・支給件数ともに「運輸業・郵便業」、「その他の事業業」、「建設業」が多い。
●年齢別の支給件数でみると、40代、50代が同数でトップ。

【精神障害に関する事案の労災補償状況】

労災請求件数は1732件(うち女性679件)で過去最高、前年比146件増。
●そのうち業務上と判断された支給決定件数は506件(160件)。
●未遂を含む自殺の請求件数は221件(14件)で、うち支給決定件数は98件(4件)。
●業種別、請求件数・支給件数ともに「医療・福祉」、「製造業」、「その他の事業」が多い。
●年齢別の支給件数でみると、40代がトップ、次いで30代となっている。
●出来事別の支給決定件数は、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」88件、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」が64件で多い。

出典:厚労省平成29年度「過労死等の労災補償状況」

【裁量労働制対象者について】

●脳・心臓疾患の支給決定件数は4件で、すべて専門業務型裁量労働制対象者に関する支給だった。
●精神障害の支給決定件数は10件で、うち専門業務型裁量労働制対象者に関する支給決定が8件、企画業務型裁量労働制対象者に関する支給決定が2件。

精神障害の原因は労働時間だけではない

精神障害の分野で言えば、2015年6月、労働安全衛生法の改正により、労働者が50人以上いる事業場はストレスチェックが義務化された。しかし労災請求件数は増加の一途である。ストレスチェックは本質的な改善にはつながっていないという声もある。

出典:厚労省平成29年度「過労死等の労災補償状況」

メンタルヘルス企業として延べ3,000社以上のストレスチェックを行ってきたlafoolの代表取締役社長 結城啓太氏に、今回の結果の所見をいただいた。

「このデータは毎年見ていますが、今年もやはり精神障害に関する労災請求・認定ともに増えています。業種としては請求件数でみると医療・福祉、特に介護事業者が、ここ数年続けて1番多いです。専門性の高い職種のストレス傾向は高いということがわかります。

心理的負荷の要因は、一番は人間関係です。精神障害の時間外労働時間別の支給決定件数をみると、時間外労働が20時間未満がもっとも多い。これは20日稼働と考えれば1日たった1時間程度。つまり労働時間だけが心理的負荷ではないということがわかります。経営者が、まずはこれを認識するべきです。時間外労働を減らすだけの働き方改革ではなく、本質的な働きやすさや風通しの良い職場づくりが大切だと思います」(結城氏)

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