ワークシェアリングとは?目的・メリット・事例 - 多様化する働き方に向き合うために

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記事の情報は2018-07-26時点のものです。

働き方改革の一環として推奨されているワークシェアリングについて、概要から導入するメリットやデメリット、そして国内・海外企業の導入事例を紹介。多様化する現代の働き方に向き合うため、業務のシェアリングを検討している方はぜひ参考にしてください。
ワークシェアリングとは?目的・メリット・事例 - 多様化する働き方に向き合うために

ポータルサイトを運営しているエキサイトは、2018年3月に「第3回ホワイト企業アワード」ワークシェアリング部門を受賞をしました。

ワークシェアリングによる残業時間の短縮やテレワークなどを積極的に活用して計画的に成果の積み重ねを行ってきたことが評価され、受賞につながったといいます。

働き方改革を成功させるためには無視できない「ワークシェアリング」の目的やメリットをみていきましょう。

ワークシェアリングとは

ワークシェアリングとは、これまで1人が担っていた仕事を、複数人で行うことにより、一人ひとりの業務にかかる負担を軽減し、効率的かつ生産性の高い業務運営を目指す働き方です。

日本では今から10年以上前に提唱されていた手法ですが、海外では数十年前からこのワークシェアリングが導入されています。たとえば、労働運動が激しかったドイツなどでは、労働時間を短縮し、シェアすることによって雇用状態を維持しようとする動きも活発でした。

このような労働運動の関わりから、日本でも当初はあまり受け入れられませんでした。しかし、近年のリモートワークやテレワークといった働き方の興隆や、アウトソーシングが一般化したことにより、さまざまな分野でワークシェアリングが再度注目されています。

ワークシェアリングの目的

ワークシェアリングの目的は、働く人々の労働時間を短縮し、仕事をシェアし合うことによる雇用の創出と安定化です。政府はこれによって、これまで働いていなかった人々を含め、だれもがその能力に応じて働ける職場環境の整備を目指しています。

厚生労働省はワークシェアリングを以下の4つの類型に定義・分類し、それぞれ個別の意義をもたせることで、さまざまな角度から雇用の創出と安定化を図っています。それぞれの分類を簡単にみていきましょう。

 

雇用維持型(緊急避難型)ワークシェアリング

すでに組織で働いている人の解雇を防止するため、従業員間で仕事のシェアを行うものです。これによって各々の労働時間を短縮し、一部の従業員に掛かっている過大な負荷を軽減します。

雇用維持型(中高年対策型)ワークシェアリング

特に中高年層の雇用を確保するため、該当する年代の従業員一人あたりの労働時間を短縮し、組織内でより多くの雇用を維持しようとするものです。中高年の余剰人員を活用すること、60歳代前半の雇用を延長することなどが主な目的です。

雇用創出型ワークシェアリング

一人ひとりの労働時間を減少させることにより、より多くの人に雇用機会を与えることを目的としたもので、主に高失業率の慢性化の解決が狙いです。具体的には、法定労働時間の短縮や、高齢者の労働時間の削減、若年層の積極採用などがあります。

多様就業促進型ワークシェアリング

勤務の態様にバリエーションを設けることにより、多くの人材に広く雇用機会を与えることを目的としたもので、特に厚生労働省が推奨しているワークシェアリングの類型です。

女性や高齢者の働きやすい環境づくりや、育児・介護と仕事の両立、そして企業にとっては有能な人材を確保する狙いがあります。単一の仕事を複数人で分担する仕事の分かち合いや、フルタイムのパートタイム化などが施策として挙げられています。

ワークシェアリングのメリット

ワークシェアリングの概要と主な類型について説明したところで、実際にワークシェアリングを導入するメリットやデメリットについて説明します。

企業から見たメリット

企業がワークシェアリングを導入することで享受できるメリットとしては、スタッフの労働時間の短縮による意欲・モチベーションの増加と、それに伴う業績の向上があげられます。特に日本の職場は労働生産性が低いといわれており、無駄な残業が蔓延している企業は少なくありません。

そこでワークシェアリングによって一人ひとりの労働時間を削減し、本当に必要な仕事に特化できるような体制にすることで、生産性の向上が図れます。

それに加えて、雇用枠の増加や離職率の低下に伴う業績アップも期待できるでしょう。雇用機会が広がり、労働時間が減ると同時に雇用の維持も図られるため、優秀な人材の流出も防げます。

労働者から見たメリット

労働者の視点でいえば、ワークシェアリングによって長時間労働が削減されるため、余暇を家族と過ごすなど自分にとっての重要な活動に充てられます。

また、労働者に時間的な余裕が生まれ、労働者自身の生産性の向上が期待できます。

加えて、雇用枠の拡大により、家事や育児、介護などを行う女性や高齢者など、これまで家庭の事情で仕事ができなかった人々が自分のペースで仕事ができる可能性が高くなるでしょう。

ワークシェアリングにより、プライベート・仕事の両方で、余裕が生まれるのです。

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ワークシェアリングのデメリット

このように、ワークシェアリングの制度に関しては多くのメリットが挙げられていますが、逆にデメリットも指摘されています。

企業から見たデメリット

企業にとってのデメリットは、雇用の増加に伴う賃金や各種保障に関する支出が増加する懸念があることや、メリットとして挙げた生産性の向上が必ずしも実現されず、逆に企業全体で生産性が向上しづらくなってしまう可能性も指摘されています。

特に業務システムなどがそのままだった場合、引継ぎ時のエラーなどが発生することも考えられます。無計画に雇用枠を拡大してしまうと、時間的なロスが生じてしまう可能性もあるので注意が必要です。

労働者から見たデメリット

ワークシェアリングをする正規雇用人材が増加した場合、パートタイムジョブに携わる人との経済格差が拡大してしまう可能性があります。また、ワークシェアリングの導入によって就労日数や時間が減ったり、雇用の絶対数が増えることによって、一人当たりの賃金が低下してしまうことが考えられます。

事実、ワークシェアリングを導入した企業のなかには、後述するトヨタのように従業員全体の給与カットを断行せざるを得なかった事例もあります。労働者にとって給与は生活に直結する要素だけに、所属企業のワークシェアリングの導入に不安をもつ人は少なくないでしょう。

ワークシェアリングの導入事例

では、実際にワークシェアリングを導入した2企業をみていきましょう。

自動車メーカーのマツダとトヨタは、2009年にワークシェアリングを導入し、雇用を維持する代わりに労働時間および給与の一部カットを行ったと報じられています。

マツダ自動車

それまで昼夜2交代制だった工場勤務のうち、夜間操業を中止しました。関係者によると、工場労働者の勤務時間を半減させたことで、基本給も2割ほど削減したといいます。時間外勤務や休日出勤などの手当を大幅に減らしたこと全体のコストカットを行い、生産体制の見直しを進めました。

トヨタ自動車

トヨタ自動車でも国内全12工場で操業停止する2009年2〜3月の計11日間のうち2日間を休業日とし、その当該日分の賃金を2割ほどカットしています。従来は操業停止の場合でも全額賃金が支払われていましたが、固定費の圧縮のため生産調整に踏み切りました。また、米国の工場でも急激な業績の悪化を受けてワークシェアリングを導入することが報じられました。

どちらの企業も事実上、業績の悪化に伴って雇用維持型(緊急避難型)ワークシェアリングを導入したと言えます。賃金カットによるデメリットが注目される結果となっていますが、これによって自動車業界全体の不況を乗り切ることに成功したことは事実です。

海外におけるワークシェアリングの導入事例

続いて、海外におけるワークシェアリングの導入事例について国別にみていきましょう。

オランダ

オランダはワークシェアリングの導入を成功させた国として有名です。

1980年代にオランダ病と呼ばれた経済危機を克服する施策の一つとして導入され、短時間の雇用を生み出すための雇用創出型のワークシェアリングによって失業率を5分の1程度にまで引き下げることに成功しています。

労働組合は賃金抑制に協力し、企業は雇用確保や時短に努力する一方で、政府は実質雇用者所得の減少を緩和するために減税などを実施。まさに国をあげての一大プロジェクトを成し遂げたのです。

さらに96年にはフルタイム労働者とパートタイマーの賃金を含めた待遇落差が禁じられ、労働者が働く時間を自発的に決められる権利も定められるようになりました。

ドイツ

ドイツでも1980年代から労使協約によるワークシェアリングの導入が進められました。

主な目的は失業者を出さないことで、業績悪化に対処するための緊急避難としての側面が強かったといえます。たとえばフォルクスワーゲン社では、賃金を1割ほどカットする代わりに、労働時間を短縮することで解雇を回避する施策がとられるなど、多くの時短モデルが導入されています。

近年では、さらに雇用拡大のための法整備がなされ、パートタイム労働者への差別的待遇を禁止されたほか、これまでのワークシェアリングの導入で得られた教訓をもとに、雇用安定化のための多様な制度の導入が検討されています。

フランス

フランスでは、1982年の労働法の改正によって、法定労働時間が40時間から39時間にわずかに短縮されましたが、雇用改善に効果がみられませんでした。労働時間1時間の短縮ではあまり意味がなかったといえるでしょう。

そこで、2000年には法定労働時間を週に35時間までと定め、導入企業には社会保障負担への優遇策をとるなどして、政府主導の時短を通じた雇用創出の努力が続けられています。

日本との目的の違い

このように、ワークシェアリングの導入に成功している国では、時短や社会保障の充実などを通じて主に雇用機会の創出に重きが置かれています。

一方、日本の場合は長時間労働の問題を解消する側面が強く、雇用保険や労災保険といった人材の雇用時にかかるコストが割高になっていることが、ワークシェアリングの導入を阻む原因となっているといえるでしょう。

現在日本は、海外での成功例を参考に国レベルで抜本的な改革を進めていく必要があるため、近年の働き方改革につながっているとも考えられます。今後は、さらに啓発活動が進められ、多くの企業に多様な働き方を柔軟に受け入れる姿勢が求められるでしょう。

いかにメリットを活かしデメリットを克服するか

先述のように、ワークシェアリングの導入にはメリットもデメリットもあります。自社の状況をよく分析したうえで柔軟な施策の検討が必要です。時短によるコストカットと雇用の安定化には、従業員の賃金の削減という痛みが伴うケースが多いです。

しかしオランダなどのように、従業員の立場による落差の是正や追加雇用の実現というメリットも期待できます。

どういう施策を打ち出すにせよ、成功事例の研究を深めつつ、自社の状況に応じた適切な導入方法を検討することが重要です。

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