「選択と集中」とは | 集中戦略のメリット・デメリット

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記事の情報は2018-09-27時点のものです。

自社の強み分野に経営資源を特化することで業績を上げる「選択と集中」の戦略について、そのメリットやデメリットを解説するとともに、日本での成功事例や失敗事例を紹介します。
「選択と集中」とは | 集中戦略のメリット・デメリット

選択と集中とは

「選択と集中」とは、自社の強み分野を見極め、そこに経営資源を集中投下することで経営の効率化や業績の向上を図る手法のことをいいます。限りある経営資源の分散をやめ、自社が勝利する可能性の高い領域を選択し、そこに集中することによって競合差別化を目指します。

これまで複数の分野で営業活動を行っていたり、さまざまな製品をリリースしていたりする企業が、自社の営業活動の中核となる分野を選択し、そこに力を入れることによって経営の改善を目指す場合によく用いられます。

選択と集中の提唱者・実践者

選択と集中という考え方は、もともとドラッカーが提唱したもので、そのコンサルティングを受けたジャックウェルチが実践によって広めたものです。

英語では「Selection and Concentration」や「Concentration in Core Competence」と訳されており、特に後者の『Core Competence(コア・コンピタンス)』という概念は、他社が真似できない独自の技術やスキルという意味で、後の経営学に大きな影響を与えています。

ジャックウェルチ率いるGE社もこの戦略を実行したことで飛躍的に成長し、世界に名を轟かせる有名企業になったといわれています。

選択と集中の3つのメリット

選択と集中のメリットとは何でしょうか?大きく分けて以下の3つのメリットがあるといわれています。

コストを大幅に削減できる

経営資源を特定分野に集中させることにより、業務プロセスの最適化や組織構成がシンプルになるため、経営コストの削減につながります。多くの場合、不採算部門を整理し、成長分野に特化することで安定した利益を望めるようになり、経営が安定化します。

個人レベルでも組織レベルでも、強み分野に特化することで生産性の向上につながり、余計な時間的コストを大きく削減できることがわかっています。また、得意な分野であるため、経営資源を投入するポイントが理解できており、投資対効果の高い企業活動が可能になります。

事業価値を最大化できる

経営資源の一極集中や有効活用によって事業価値を最大化できます。

事業価値とは、投資している経営資源から得られる利益(リターン)のことです。選択と集中によって不採算部門を切り離したり、縮小したりすることによって収益が改善し、強み分野から多くの利益を得ることで事業価値が増大します。

また、黒字事業をいっそう伸ばすことを目的としたIT投資やマーケティング費用の投下が可能となり、競合優位性や顧客満足度向上を図りやすくなります。

イノベーションの創出につながる

選択と集中により、新しい切り口での考え方が生まれ、イノベーションの創出へとつながります。

不採算部門は自社にとって苦手な分野であることが多く、それを切り離して得意な分野に特化することにより、社員も自分達の強みを活かしやすくなります。そして強み分野に時間やコストをしっかり割いて取り組むことで、創意工夫が生まれやすくなり、それがイノベーションへとつながるわけです。

多角的な経営を行っている企業よりも、自社の得意な分野に特化し続けている企業の方が革新的な商品やサービスが生まれやすくなっている、と感じている方も多いのではないでしょうか。

選択と集中の3つのデメリット

それでは、選択と集中のデメリットは何でしょうか?メリット同様、大きく分けて以下の3つのデメリットがあるといわれています。

組織内の人材が減少してしまう可能性がある

選択と集中の戦略によって不採算部門を整理する場合、それまで当該部門で働いていた社員達のなかには、人員整理の対象となってしまう人も出てきます。

優秀な人材が人員整理を機に他社に流出してしまう可能性があるのです。慰留のため経営資源を集中する部門に移ってもらったとしても、そこに上手く対応できずに去ってしまう可能性も否めません。特に整理分野で強みを発揮していた社員は、その分野に思い入れがあるケースが多く、資源配置の変更に反発して退社してしまうケースは少なくないでしょう。

従業員や株主からの反発が起きる可能性がある

経営資源を集中させるには、当然、大規模な人員整理や再配置を伴います。それによって配置転換を迫られた人々のモチベーションの低下や、不平不満が蔓延する可能性があります。

また、特定分野に集中することによって組織の成長可能性に制限がかかることに難色を示す人もいるでしょう。特に株主のなかには、経営資源の集中によって、組織の変化対応力が低下することに不安を覚える人が一定数は存在するものです。そういった人々に対話をしながら理解を求める必要があります。

変化の対応が難しい

選択と集中は、限られた経営資源を特定の分野に集中投入することを意味します。そのためリスクヘッジの観点からは必ずしも優れた戦略とはいえないこともあります。

特に集中した分野で大きな市場ニーズの変化が起こったり、新参企業のイノベーションによって競争のルールそのものが変わってしまったりした場合、変化への対応が非常に難しくなる可能性もあります。

特に当該市場で破壊的イノベーションが起こった場合、事業そのものの存続が危ぶまれるケースもあり、選択と集中によって変化対応力が大幅に低下した企業は、そのまま撤退や倒産にまで追い込まれてしまうというリスクもあるのです。

こういったデメリットやリスクを考慮しつつ、短期的な利益に走らず長期的な視点を持って選択と集中を行うことが重要です。

選択と集中の失敗事例:SHARP

ここからは、選択と集中に失敗した事例と、成功した事例について紹介します。まずは、残念ながら経営資源の集中に失敗してしまったSHARPの例です。

同社は2000年代のはじめごろから液晶テレビの開発に取り組み、液晶部門に巨額の投資を行うことで「液晶のシャープ」と呼ばれるほどの地位を確立しました。

しかし2008年のリーマンショックの影響と、中国や韓国をはじめ海外から低価格の液晶が入ってきたことにより激しい価格競争に巻き込まれ、収益は悪化の一途を辿りました。

さらに追い討ちをかけるように、地デジ対応テレビの特需もなくなったことで液晶分野は巨額の赤字体質となってしまい、一極集中のデメリットを払拭できないまま、自力での経営改善を断念せざえるを得なくなったといわれています。

選択と集中の成功事例:日立製作所

反対に、選択と集中に成功した企業の事例として日立製作所があります。

同社もSHARP同様、リーマンショックによって大きな打撃を受けました。しかし、それまでの不採算が続いていた家電事業から撤退し、より採算性の高い情報通信と社会インフラを中心とした法人向けビジネスに経営資源を集中させることにより、収益を改善させたといわれています。

この選択と集中戦略の実行後は株価も上昇、現在では国内事業のみならず海外事業も軌道に乗っているようです。強みのない分野から撤退し、自社が得意で成長性のある分野に特化したことにより収益を大幅に改善した典型的な例といえるでしょう。

選択と集中はうまくいくとは限らない

企業戦略を考えるうえで重要な「選択と集中」について、そのメリットやデメリットを説明するとともに、その成功例や失敗例について紹介しました。

時代によって主流になる経営戦略が変わるのは自然なことですが、経営資源を集中させるうえでは、そのメリットとデメリットをしっかりと把握しておき、企業の目的や理念に沿った長期的な視点から戦略を考えることが重要です。

市場の現状を客観的に分析し、今後どういう変化が起こるのかをしっかりとモニタリングしておく必要があります。そのうえで、経営資源の集中が有効なのか、逆にリスク分散をすべきなのかを慎重に判断しましょう。