テレワークへの日米温度差は拡大中?メリットや課題も紹介

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記事の情報は2018-08-27時点のものです。

テレワークはオフィスではなく、自宅やサテライトオフィス、カフェなどのオフィス外で仕事をする勤務形態のことを指し、総務省が主導して政府としてテレワークの普及を促進しています。ただし、米企業の中には一度テレワークを推進したものの廃止してしまった会社もあります。本記事ではテレワークについてメリットやデメリットを整理して、テレワークの導入事例や、導入にあたっての課題などについて説明します。
テレワークへの日米温度差は拡大中?メリットや課題も紹介

テレワークとは、「離れたところを」意味するテレ(tele)と「働く」を意味するワーク(work)を合わせた言葉で、ICTを活用して時間や場所にとらわれない柔軟な働き方をすることを指します。また、そのような働き方をする人のことを「テレワーカー」と呼びます。

好況による人材確保の必要性やITの発達により遠隔でのコミュニケーションが容易になってきてこともあり、IDCの調査によると推計14万社がテレワークを導入していると言われています。

テレワークと一口によっても、自宅で仕事をする「在宅勤務」、ICTを利用して特定の執務場所以外でも仕事をする「モバイルワーク」、会社が用意したサテライトオフィスで仕事をする「サテライトオフィス勤務」の3パターンがあります。

政府が提示した「テレワーク・デイ」?

テレワークは総務省が推進している働き方で、その推進のためにテレワークを推奨するテレ・ワークデイを平成29年から設定しています。平成29年は7月24日、平成30日はテレワーク・デイズとなって7月23日から27日までがテレワーク強化週間となっています。また、2015年より毎年の11月をテレワーク月間として、テレワークの普及に努めています。

政府が「テレワーク」を推進するメリット

なぜ、このように政府が積極的にテレワークを推進しているのか、これにはいくつかの理由があります。

まず国が享受できるメリットとして挙げられるのが少子高齢化対策と環境負荷軽減です。少子高齢化によって人口に占める労働者の割合が減少しています。

今後、増加が予想される社会保障費を支えるためにも労働者の増加は重要な課題です。テレワークを推進することによって、育児中の女性や高齢者なども労働に参加し、労働人口の拡大が期待できます。また、交通機関の利用が減るのでCO2などの削減効果も期待できます。

また、ワーク・ライフ・バランスの実現や地域活性化の推進への効果も期待できます。テレワークを実現することによって、地方に住んでテレワークで収入を得たり、育児や介護をしたりしながら働くことも可能となります。

また、企業の側としても有能・多様な人材の確保と生産性の向上が期待できますし、通勤が必要なくなることによって営業効率が向上し、ひいては顧客満足度の向上を狙えます。さらにオフィスに関わるコストの削減や、非常災害時の事業継続効果も期待できます。

日本企業の現状

日本においてテレワークは徐々に普及しています。厚生労働省が発刊している「テレワークではじめる働き方改革~テレワークの運用・導入ガイドブック~」によると平成25年末に9.3%だったテレワークの導入率が平成27年末には16.2%まで上昇しています。

また、テレワークを利用する従業員の割合も、平成26年末から平成27年末にかけて5%未満の会社が49.9%から41.7%、5〜10%未満が12.1%~10.1%まで減少する一方で、10%~30%未満の企業の割合が22.1%から32.7%と約1.5倍増加しています。

また、テレワーク・デイやテレワーク月間のように政府がテレワークの普及を積極的に後押ししているので、この比率は今後も増加することが予想されます。

企業と社員が思うテレワークのメリット・デメリットは?

では、テレワークを導入することによってどのようなメリット・デメリットが発生するのかについて説明します。

テレワークのメリット

同じく厚生労働省が発刊している「テレワークではじめる働き方改革~テレワークの運用・導入ガイドブック~」によるとテレワークを導入することによって得られる企業、従業員それぞれのメリットは以下のように説明されています。

企業にとってのメリット

企業側のメリットとしては以下の7つが挙げられます。

  • 人材の確保・育成
  • 業務プロセスの革新
  • 事業運営コストの削減
  • 非常時の事業継続性(BCP)の確保
  • 企業内外の連携強化による事業競争力の向上
  • 人材の離職抑制・就労継続支援
  • 企業ブランド・企業イメージの向上

特に、好況による人材不足により、「人材の確保・育成」「人材の離職抑制・就労継続支援」は企業が事業を継続するにあたっては非常に強力な強化です。

従業員にとってのメリット(200文字程度)

一方で従業員にとっても以下の5つのメリットがあります。

  • ワーク・ライフ・バランスの向上
  • 生産性の向上
  • 自律・自己管理的な働き方
  • 職場との連携強化
  • 仕事全体の満足度向上と労働意欲の向上

通勤時間が無くなり、家で仕事ができるので家族と過ごす時間が増えて、ワーク・ライフ・バランスが向上するのはもちろんのこと、主体的に仕事を進められるようになり、労働生産性が向上する効果も期待できます。

テレワークのデメリット

もちろん、テレワークを導入することによってデメリットも発生します。

たとえば、企業側からしてみれば、遠隔で労働者を管理するのは。同じオフィス内で管理するよりも大変ですし、個人情報や機密情報が漏えいしないようにセキュリティーを強化する必要があります。

従業員も慣れないと、仕事のオンオフをスイッチを切り替えられずに働きすぎてしまうかも知れません。同僚がいない環境での仕事に孤独感を感じたり、テレワークなので自分の仕事が適正に評価されていないのではないかと疑心暗鬼になりがちです。

テレワークを推進している企業

では、テレワークを推進している企業がどのような取り組みを行っているのが、具体的な企業の事例について説明します。

  • NTTドコモ まず事例として挙げられるのがNTTドコモです。NTTドコモは総務省が主催する「テレワーク先駆者百選」において2017年に総務大臣賞を受賞しています。

NTTドコモでは社員全員を対象にした在宅勤務制度とそのための業容アプリを開発して、テレワークを積極的に支援しました。その結果、在宅勤務者が前年度比500%アップ、時間外労働の20%削減という効果を上げました。

  • カルビー カルビーは2014年から週2日までに在宅勤務制度をスタートしており、2017年4月からは上限日数を撤廃、勤務場所も自宅に限定しないモバイルワーク制度をスタートしています。

2017年のテレワーク・デイには本社勤務の社員の約8割が参加していました。

  • パナソニック パナソニックでは、ITを活用した働き方改革を行う部署として2006年からe-Work推進室が開設されて、2007年には在宅勤務制度がスタートしています。

在宅勤務制度の上限日数は勤務日数の2分の1までで、家だけではなく全国14拠点内のスポットで仕事をすることも可能です。

さらにWeb会議にも積極的で、月間3,000~4,000回の会議がWeb会議になっています。

  • USEN-NEXT HOLDINGS USENも2018年6月からWork Style Innovationというスローガンのもと、働き方改革のために、スーパーフレックス制度とテレワーク勤務制度を導入しています。勤務場所や利用回数に制限を設けず、従業員にノートパソコンとスマートフォンを支給して、テレワークを推進しており、約半数の社員がテレワークを実践していると言われています。
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米企業の“テレワーク熱”は冷めている?

日本ではこれからテレワークが普及していこうとしているのに対して、米国企業は全体的に積極的とはいえません。テレワークを導入してその後廃止した企業の事例について説明します。

在宅勤務を廃止したヤフーとIBM

テレワークを推奨していて、その後に廃止した会社としてはヤフーとIBMが挙げられます。ただし、両者がテレワークを廃止した理由には相違点もあります。

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テレワーカー管理が不十分だった「ヤフー」

ヤフーは2013年にテレワークを廃止していますが、テレワーカーの管理に問題があったと言われています。

テレワークで勤務していた社員が、勤務時間中に副業や自分の会社を立ち上げていたりしていて、管理職層がテレワーカーを野放し状態で適切に管理していなかったことが発覚して、テレワークが廃止されたといわれています。

コミュニケーションが不十分だった「IBM」

IBMでは2009年にテレワーク制度を導入し、40%の社員が遠隔勤務し、不要になったオフィスビルを合計20億ドルで売却しましたが、2017年3月にはテレワーク制度を廃止しています。

テレワーク制度の廃止の原因はコミュニケーション不足だと言われています。テレワークになると邪魔が入らないので個人の仕事は効率化される反面、チーム内でのコミュニケーションやコラボレーションは減少してしまいます。

会社としての一体感を取り戻すためにテレワークの廃止に踏み切ったのだと言われています。

他の米企業の反応

ちなみに、ヤフーやIBMが廃止しただけではなく、アップルやグーグル、フェイスブックなどの大手IT企業の中にもテレワークを推奨している企業はほとんどありません。

たとえば、2014年にグーグルの会長のカール・シュミットが日本に来日したときの講演で、イノベーションを生み出すためには日常の何気ない会話や物理的に場所を共有する必要があり、在宅勤務ではこの効果を得られないという趣旨の発言をしています。

会社として事業を革新するために、あえてオフィスで同じ時間・場所を共有することに価値があると考えているようです。

日本企業ではどういった対応が吉?

米国ではテレワーク熱は冷めて、オフィス勤務の良さが見直されつつありますが、日本ではこれから国を挙げてテレワークを推奨しようとしています。もちろんどちらが正しいとは一概には言えません。

すでに、テレワーク・デイやテレワーク月間が導入されているために、テレワークという働き方に前向きに柔軟に向き合うことが大切です。

テレワークにまつわるデメリットは技術の進歩によって徐々に改善されつつあります。たとえば、バーチャネルオフィスシステムのようにVR技術を使って遠隔でオフィスを再現するシステムが開発されていますし、ビジネスチャットやファイル共有、タスク管理などについても便利なサービスが次々とリリースされています。

テレワーク・デイを見据えて

テレワークは労働人口を増加させ、企業が雇用を確保するためにも重要な施策です。従業員にとってはメリットの大きい制度ですが、企業側にとっては従業員の管理や、コミュニケーションの確保を何に担保するのかというのは重大な問題です。ただし、IT技術の進歩により、テレワークが持つデメリットも徐々に解消していくと考えられます。