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時差ビズ(時差biz)は電車通勤ストレスの救世主
時差ビズ(時差biz)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは、東京都が主導する「通勤時間をずらして、朝の通勤ラッシュを緩和する」キャンペーン。時差ビズ(時差biz)をはじめとする時差出勤制度は、こうしたストレス改善に役立つとして、いま注目されている働き方のひとつです。
ストレス社会とも呼ばれて久しい現代ですが、マクロミルが調査した「通勤・通学電車に関する調査<東京・大阪編>」では、95%の人が通勤通学電車でストレスを感じると答えています。
通勤時の混雑は長年解消されることなく、人口が減少傾向にある今も、都市部では毎日多くの方が心身にストレスを感じながら通勤しています。
鉄道・バスの利用実態を調査した国土交通省の「平成29年度大都市交通センサス分析調査」によると、通勤による乗車人数は平成22年の前回調査よりも増えており、大都市圏へ通勤は集中度を増しています。
出典:第12回 大都市交通センサス調査<調査結果の詳細分析)
混雑時の通勤そのものもストレスですが、長時間通勤のストレスから睡眠不足や生活リズムの乱れを引き起こす可能性もあるのです。電車通勤ストレスを改善し、健康経営にも役だとみられる時差ビズ(時差biz)について、詳しく解説します。
時差ビズ(時差biz)とは
時差ビズ(時差biz)とは、東京都が主導する「通勤時間をずらして、朝の通勤ラッシュを緩和する」キャンペーンです。 小池都知事が都知事選の公約として掲げた『満員電車ゼロ』政策。その対策として2017年7月に、時差ビズ(時差biz)を初めて実施しました。2020年東京五輪における交通機関の混雑緩和に役立つことが期待されています。
昨年に引き続き2回目の実施となる2018年の参加企業は、昨年の320社を大幅に超える800社に増え、実施期間も昨年の2週間から4週間に延びました。2017年の実施では、6割以上の参加者が「通勤時の快適性」や「仕事の効率性」、「プライベートの充実」を実感したと感じました。しかし、時差Bizの実現性と効果を疑問視する声もあり、反対意見も少なくありません。
増える早朝通勤
時差ビズ(時差biz)に協力する形で、鉄道各社も通勤ラッシュ緩和の取り組みをしています。
東京メトロをはじめ田園都市線や東横線は、早朝の臨時列車を増発しています。京王線や西武線は、オフピーク通勤(混雑時間外の通勤)に協力すると、ポイントを付与したり、駅ナカ・コンビニでの対象商品を割引いたりします。
鉄道各社がサテライトオフィス事業に乗り出す動きも見逃せません。例えば東京メトロが富士ゼロックスと行う実証実験では、メトロの駅構内に個人専用のオフィス空間を期間限定で設置しています。東急電鉄ではサテライトオフィス NewWorkの全国展開を開始。混雑時はサテライトオフィスで一仕事を済ませ、混雑が緩和された頃に乗車して出勤、という新しいワークスタイルを促進しているのです。
時差ビズ(時差biz)の狙いと効果
小池都知事は、2018年の時差ビズ(時差biz)キャンペーン初日に「鉄道、企業、個人が三位一体となって時差ビズ、快適通勤を実現できるようにしたい。あの手この手を試し、スムーズな(オリンピック)大会運営の実験をしていきたい」と話しているように、最終的には、東京オリンピックの交通混雑緩和に寄与することが狙いです。
昨年の期間中には一定の混雑緩和が見られたこともあり、今冬にも2週間程度実施する予定です。
時差ビズ(時差biz)による弊害
時差出勤は出勤時間の前倒しを基本としているので、「(今まで空いていた)朝7時台の時間帯が混んできた」や「混雑の時間帯が変わるだけで意味がない」といった否定の声もあります。
感覚的に混雑が緩和されたと感じられず、「大きな効果がないなら、やらない方がいい」という意見もありました。
そもそも時差出勤って何だろう?
時差出勤は「交通混雑の緩和・解消」を目的として、会社の提示した勤務時間パターンの中から社員が選べる制度です。都市部では乗車率約200%にまで達する路線もあり、ストレスが生産性低下に影響しているとも言われているのです。また、妊娠中の女性や怪我の治療中の方など、混雑した電車に乗ることが困難な場合に時差出勤制度を活用できるという会社もあります。
フレックスタイム制との違い
フレックスタイム制は一日の実働時間は定まっていません。労使協定で締結された週間、もしくは月間の総労働時間が守られればよく、始業時刻と終業時刻を従業員が自由に決められる制度です。
フレックスタイム制は、選択により労働できる時間帯であるフレキシブルタイムと、必ず労働しなければならないコアタイムの設定が一般的です。フレキシブルタイムが長ければ長いほど、自由度の高い制度になります。
時差出勤のメリット・デメリット
このように、企業も行政も推奨する「時差出勤」ですが、メリット・デメリットはどんなことがあるのでしょうか。時差出勤のメリットは何と言ってもストレス緩和。テレワークやフレックスタイムを併用すると相乗効果が生まれます。デメリットには制度改革コストなどが挙げられます。詳しくみてみましょう。
時差出勤のメリット
毎日満員電車に乗らなければならないストレスは、相当なものです。時差出勤を利用すると、通勤時のストレス緩和につながり、通勤ラッシュで失う心身のエネルギーを仕事に回せます。また時差Bizで進めているテレワークを併用することで、育児や介護など、家庭との両立を図りやすくなります。
時差出勤のデメリット
時差出勤は、会社に時差出勤制度があり、時差出勤を認められなければできません。そのため企業側の制度改革が必要になります。特に、「早く出勤しても退社時間が変わらないなら、かえって長時間労働を助長するのでは」との懸念の声も多く上がっており、フレックスタイム制などと合わせて導入する必要があるでしょう。
そのほか、顧客対応のある職種や業種では、自分の都合で出勤時間を早めたり遅くしたりすることは難しいものです。社内でも同様に、打ち合わせ時間を設けにくくなったり、コミュニケーションを取りづらくなったりする可能性があります。
時差出勤制度の企業導入事例まとめ
今後は時差出勤を検討する会社が増えていくと考えられるので、ここからは会社が『時差出勤制度』を導入する場合の注意点と、実際に運用している企業の導入例を紹介します。
就業規則の規定
時差出勤を導入する場合は、シフトを決め、就業規則に出勤時間を明記しなければなりません。同時に、時差出勤の申請タイミングをはじめとした運用方法を決める必要があります。
数週間のフィジビリティ期間を設けて実施した後、時差出勤社員と通常出勤社員、両方からアンケートをとり、結果を元に導入するか検討すべきです。
また時間外労働をできるだけ抑制できるよう、実労働時間の増減をチェックし、時差出勤が生産性向上に効果があるか判断した方がよいでしょう。
時差出勤の有名企業による導入事例
時差出勤は、ライフステージの変化による離職防止や生産性向上のために導入している企業が多くあります。以下ではその事例を紹介します。
日本航空
日本航空ではテレワークやワーケーションを導入し、2017年には時差Bizにも参加しています。時差Biz期間内に社内に臨時カフェを開設、7時30分から数量限定で無料コーヒーを提供し、時差出勤を促進しました。
その取り組みや約1,530名が参加し、柔軟な働き方の裾野が広がったといいます。こうした功績から、東京都より「時差Biz推進賞」を受賞しました。
三井物産
三井物産では競争力強化のために、社員が効率的に働ける時間帯を自分で選べるよう、時差出勤制度を導入しています。
1日あたりの所定労働時間を維持したまま、通常の勤務時間帯を起点として前後90分の範囲で就業時間を個人ごとにずらすことができる仕組みです。2016年6~8月、約1400名の社員を対象に試験導入したところ肯定的な感想が多かったことから、本格導入に踏み切ったそうです。
コアタイムはあるものの、時短勤務との併用も可能。各人がプライベートにおけるロール(役割)を責任を持って果たしつつ、仕事においても最大限の力を発揮できるよう両立支援策の拡充を図っているのです。
時差出勤は新しい働き方を提供するか
時差出勤は、満員電車の緩和が主な目的ですが、効果はそれだけではありません。生活スタイルに合わせて出勤時間を決められるので、育児や介護で時短勤務しかできなかった社員がフルタイムで働けるようになります。
働き方の可能性が広がるので、うまく定着・運用されれば新しい働き方が広がっていくでしょう。