ソーシャルインクルージョンとは?意味や類義語・対義語、日本企業の事例も紹介

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「ソーシャルインクルージョン」とは、ノーマライゼーションが発展した考え方と言われています。 もともとはヨーロッパで提唱された理念で、「ソーシャルエクスクルージョン(社会的排除)」の反対語として使われることもあります。本記事では、ソーシャルインクルージョンの意味、類義語や対義語、広まった背景、日本企業の事例、海外との違いなどを説明します。
 ソーシャルインクルージョンとは?意味や類義語・対義語、日本企業の事例も紹介

ソーシャルインクルージョンとは

ソーシャルインクルージョンとは、何らかの理由で社会から排除された人を社会が包み込むという意味です。障害者や貧困層、子ども、高齢者や女性、移民など、社会的弱者を含むすべての人の健康で文化的な生活の実現を目的としてします。

ソーシャルインクルージョンの意味とは

厚生労働省の定義によるとソーシャルインクルージョンとは、「すべての人々を孤独や孤立、排除や摩擦から援護し、健康で文化的な生活の実現につなげるよう、社会の構成員として包み支え合う」こと。

またソーシャルインクルージョンは「社会的包容力」、「社会的包摂」と訳され、「社会的排除」の対義語としても使われています。

ソーシャルインクルージョンが提唱された背景

もともとはヨーロッパで提唱された政策のひとつです。移民の増加や失業率の上昇により、福祉の充実を図っても社会的格差・経済的格差が拡大。多くの人がソーシャルエクスクルージョン(社会的排除)の状態から抜け出せないことは社会問題となっていました。

その対応政策としてどんな人も社会の一員としてともに助け合うソーシャルインクルージョンが提唱され始めたのです。

ソーシャルインクルージョンは国連の「障害者の権利に関する条約」の基本理念となり、日本でも2000年に「社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会」報告書において、社会的必要性が認識されました。

近年では日本でも、社会福祉や教育の場などで排除されることなく、コミュニティのつながりを大切に「すべての人を社会の一員として包み支え合う」共生社会を目指すことが一般的な考え方と捉えられています。

ソーシャルインクルージョンの類義語「ノーマライゼーション」とは

ソーシャルインクルージョンは「ノーマライゼーション」の発展形として考えられています。

主に障害者を対象にしているノーマライゼーションは、障害者と健常者との差をなくし、当たり前の「普通」を障害者も得る権利があるという考えで、ヨーロッパで生まれました。

このノーマライゼーションを根底にして、身体や人種など不利な個性を持つ人々の多様性を受け入れ、どんな人でも社会で包み支え合おうという「ソーシャルインクルージョン」が生まれました。今では「インクルージョン」とほぼ同義で使われています。

ソーシャルインクルージョンとダイバーシティとの違いとは

また日本の企業が推進している「ダイバーシティ」は、LGBTだけでなく年齢や国籍、価値観などの多様性を積極的に受け入れ、平等に就業機会を与えるという意味で、ソーシャルインクルージョン とよく比較されます。ダイバーシティは多様性を認める考え方に対し、ソーシャルインクルージョンは一人ひとりの考えや価値観を尊重する考え方という意味で違うと言われています。

ソーシャルインクルージョンの対義概念「ソーシャルエクスクルージョン(社会的排除)」とは

ソーシャルインクルージョンの対義概念に「ソーシャルエクスクルージョン(社会的排除)」があります。

教育や労働、福祉など社会のさまざまな領域で、その資格や地位が与えられず、セーフティーネットからも守られず孤立する人々がいる社会の状態を指します。

日本では、うつ病などの精神疾患者、ひきこもりやニート、ワーキングプアなどが社会とのつながりも低く、社会的排除率が高いとされています。

日本におけるソーシャルインクルージョンの広まり・企業の事例

ソーシャルインクルージョンが使われる代表的な場は、「教育」です。

教育の形態は今まで3段階に発展してきたといわれています。障害児と健常者を分離した「分離型の特殊教育」、障害児と健常児を同じ学校で教育する「統合教育」を経て、誰もが自分に合った配慮を受けながら、同じ場で学ぶ「インクルーシブ教育」へと変化しました。

日本ではインクルーシブ教育に変わるタイミングで「ソーシャルインクルージョン」をもとに議論され、インクルーシブ教育推進に向けての取り組みが始まりました。

またソーシャルインクルージョンが日本で認知され広まったのは、政府が提唱した1億総活躍社会会議の民間委員である菊池桃子氏がきっかけです。2015年に「1億総活躍社会」のネーミングがわかりづらいと、代わりに「ソーシャルインクルージョン」を提案したのです。

企業の対応事例〈清水建設〉

清水建設では、障害者や障害者スポーツのボランティア養成に寄与することを目的に、ボランティア養成講座「シミズ ボランティア アカデミー」を開催しています。

また、商品開発でもIBM東京基礎研究所の協力を得て、「バリアフリー社会の実現」のために、視覚障害者向け・車いす利用者向け・外国人向け(英語対応)の屋内外ナビゲーションアプリ開発を手がけています。
 
視覚障害者向けには、点字ブロックまでの距離や自動ドアの有無などを音声案内し、車いす利用者向けには、階段や段差がある道を回避した最短経路を探索してくれます。エレベーターを利用するときは、エレベーター前に到着するとスマートフォン画面に「エレベーター呼び出しボタン」が表示され、ボタンを押すとエレベーターが呼び出されます。

そのほかにも、ソーシャルインクルージョンの広義である「インクルージョン」として、ジョンソン・エンド・ジョンソンやANAグループがインクルージョンの実現に取り組んでいます。

博物館や美術館の事例

博物館や美術館においてもソーシャルインクルージョン活動が広まっています。

物理面でのバリアフリーやユニバーサルデザインはもちろんのこと、視覚障害者の美術鑑賞を支援するため、ハンズ・オン展示(触察展示)ができる博物館もあります。また東京都美術館では、休館日にボランティアスタッフによる障害者特別鑑賞会が開かれています。

日本とは違う?海外の対応

ソーシャルインクルージョンについては、日本と他国では対応がやや異なります。ヨーロッパとアメリカの対応について紹介します。

ヨーロッパ諸国の対応

ソーシャルインクルージョンの概念が生まれた地はヨーロッパです。そのためソーシャルインクルージョン活動も活発で、ソーシャルエクスクルージョン(社会的排除)への対策として、社会政策のキー概念として政策課題の中心となっています。

近年ではヨーロッパ全体レベルでの共通した重要政策でソーシャルインクルージョンが取り上げられています。

アメリカの対応

日本に先立ちアメリカでは、1960年代後半からIL運動(自立生活運動)が始まった過去があります。

アメリカのソーシャルインクルージョンはヨーロッパと違い、障害者や生活困窮者をどうやって労働市場に結びつけるかが基本となっており、「ワークフェア型」の考え方があります。

労働力不足の背景もあり、自立支援型のソーシャルインクルージョンに積極的で、ノーマライゼーションに関する法整備も進んでいます。

さらなる推進なるか?ソーシャルインクルージョン

このようにソーシャルインクルージョンの考え方は、世界中の社会改革の基本となっています。

日本ではソーシャルインクルージョンの実現のためには、ソーシャルエクスクルージョンを予防し、社会制度を見直す必要があります。社会制度をいくら整えても、そこから孤立してしまう人々が出てくるでしょう。当事者が自ら声を上げにくい現状もあります。

支援者側からも働きかけができるような仕組みを作るなど、ソーシャルインクルージョンのさらなる推進が望まれます。