二重派遣が横行?請負の多いIT業界は要注意――リスクや罰則、違反事例とは

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記事の情報は2018-09-07時点のものです。

働き方の多様化によって労働者の雇用形態も多様化しています。パートタイマーやアルバイト、派遣などいわゆる「非正規雇用」の待遇に関して社会問題化していますが、派遣労働においては「二重派遣」が大きな一つの問題となっています。二重派遣は労働者の権利を侵害するだけでなく、企業にも法律に基づいて罰則が課されます。本記事ではなぜ二重派遣が違反とされているのか、また事例や罰則などについて説明します。労働者も雇用者も適切な対応を図れるよう、内容を正しく理解するよう努めましょう。
二重派遣が横行?請負の多いIT業界は要注意――リスクや罰則、違反事例とは

二重派遣とは

二重派遣とは、派遣会社からの派遣社員を受け入れた企業が、その人材をまた別の企業に派遣することを指します。

二重派遣は法律によって禁止されています。しかし、慢性的な人手不足、企業間のパワーバランスによって企業同士が互いに人材を出向させて労働力をコントロールしたり、働き方が多様化することにより業務委託のような契約形態が増えたりしたため、結果的に二重派遣(多重派遣)状態が横行してしまっているのです。

違法となる二重派遣のケース

まずは違法な二重派遣のケースについて、具体例から見てみましょう。二重派遣状態になるかどうかは大きく、契約の種類と派遣労働者に対する指揮命令の系統によります。

派遣の派遣

たとえば、派遣元企業のA社と派遣先企業のB社があったとします。この場合、A社の労働者が派遣契約によってB社で働いているのであってB社の労働者ではありません。その人材の雇用主はあくまでも労働契約を結んでいるA社です。

A社に所属する派遣労働者をB社がさらに別の企業(C社)に派遣し、C社の指揮系統のもとに働かせる――すなわち「派遣の派遣」状態になると、違法な二重派遣となります。この場合は一般的に、B社とC社が処罰対象となります。

二重派遣の抜け穴?「偽装請負」も違法

二重派遣の抜け穴として横行しているといわれるのが、請負と見せかけて労働者を派遣する「偽装請負」です。

請負とは、いわゆる業務委託(請負)契約のことを指し、仮に「派遣の派遣」状態になったとしても契約で定めた請負業務を遂行する限りは、二重派遣にはあたらないと考えられています。

ただし、上記の例でいうC社が業務の指揮命令を行う場合は「偽装請負」にあたる可能性があります。契約形態とともに、実際の指揮命令をどこが担っているのかをしっかりと確認するようにしましょう。

「違法」を見極める3つのポイント

ではどのようにして、二重派遣かどうかを見極めれば良いのでしょうか。代表的なポイントとして3点挙げられます。

(1)雇用関係がある会社はどこか

「派遣労働者は、あくまで派遣元企業の社員である!」

まず、労働者の所属を曖昧にしてはいけません。労働者保護のために、法律によって派遣業に対する規制が行われているので、労働者がどことも労働契約を結んでいない、また給与を支払うのが派遣先企業であるというのは違法です。派遣労働者はあくまでも派遣元企業に所属する社員として、派遣元から給料をもらわなければなりません。

企業と派遣労働者の関係がしっかりと守られているかどうか確認しましょう。

(2)どういった契約を結んでいるか

「偽装請負に注意!」

契約の内容にも注意する必要があります。書面では請負(委託)契約になっていても、実態として派遣労働者のように働いている場合を「偽装請負」と呼びます。

請負契約となっているのに、具体的な業務内容が定まっておらず適宜派遣先企業の社員の指示に従っている場合は、偽装請負の可能性が高いと考えられます。

(3)指揮命令は誰が出しているのか

「業務の指揮は派遣先企業からが原則!」

どのパターンでも重要な基準が、指揮命令系統です。「偽装請負」で説明したように、書面は請負契約になっていても指揮命令が派遣先から行われるのであればそれは派遣契約なので違法となる可能性があります。

また派遣元と派遣先の2社間での派遣は合法ですが、中間の会社をかませて二重派遣を行うと「違法行為」として処罰の対象となります。

二重派遣の罰則

労働者を守るために禁止されている、二重派遣。二重派遣はどの法律に抵触し、どのようなペナルティがあるのでしょうか。罰則などについて説明します。

禁止されている「労働者供給事業」にあたる

労働者供給事業は、職業安定法第44条で禁止されている「労働者供給」を事業として行う行為です。例外的に、労働組合などが労働大臣の許可を受けて無料で行う場合は認められますが、労働者供給事業を行ったり、それによって供給される労働者を働かせたりしてはならないと規定されています。

「供給」と「派遣」で異なるのは、管理・統制の方法です。労働者派遣の場合は労働契約を結んだ社員を派遣しているので合法ですが、労働者供給の場合は労働者と派遣元の間に雇用関係は無く、支配関係しか存在しないため、労働者保護の観点から違法とされているのです。

どの法律に違反するのか

「派遣の派遣」にあたる二重派遣は、上述したとおり労働者供給事業を禁止している職業安定法44条に違反します。そして、労働基準法6条に定められている中間搾取の排除にも違反するとされています。

さらに労働者派遣法2条1項では、労働者派遣は自己の雇用者を派遣しなければならないと定められているので、これにも違反します。

罰則を受ける企業はどこか

では、二重派遣を行った場合、それに関わったどの会社が罰則を受けるのでしょうか。派遣元の企業をA、派遣先の企業をB、さらにBからの派遣先企業をCとします。

このうち罰則を受けるのはB社とC社です。A社とB社の間の派遣契約は有効ですが、B社とC社の間の派遣契約は雇用関係のない人材を派遣しているので違法になるからです。

もちろん、A社が二重派遣を行うことを知っていた場合はA社も何らかのペナルティを受ける可能性があります。

実例:沖縄労働局、派遣元へ業務改善命令

実際に二重派遣が生じ、労働局が派遣元事業者に業務改善命令を出した事例が存在します。

たとえば、2017年8月に厚生省沖縄労働局はシー・アール・シーという企業に対して二重派遣を行った疑いがあるとして業務改善命令を出しています。同社は業務委託契約で受け入れた人材を、ほかの会社に派遣労働者として派遣、派遣先の指示のもとで働かせていました。

労働者派遣法および職業安定法に則して事業の総点検を行い、再発防止策を講ずるよう指示されています。

二重派遣が違法なワケ:二重派遣から生じるリスク

これまで、いわゆる「二重派遣」が禁止されていることや、何が二重派遣にあたるのか、どのようなペナルティが発生するのかについて説明してきましたが、本章では労働者側の視点から見た、二重派遣による労働環境の悪化リスクについて説明します。

責任の所在が曖昧化

まず一番のリスクが責任の所在が曖昧になることです。たとえば、労災が発生した場合は雇用関係を結んでいる会社がその労災保険を使って、労働者の生活を補償する必要があります。

しかし、間に何社もの会社が入っていると責任の所在が曖昧になってしまい、労働者が正しい補償を受けられないかもしれません。

特にIT業界では業務委託やクライアントへの常駐のような雇用形態が増加しているので、二重派遣につながるポイントが看過されやすい状況が生まれているとされています。

賃金の低下

労働基準法によって中間搾取の排除が定められていますが、二重派遣はその形態から、中間搾取が生じやすくなります。二重派遣状態の場合、中間に入っている会社も手数料を取っていることがあり、その分だけ労働者に入るはずであった賃金が少なくなってしまうのです。

賃金低下は労働者の生活環境を悪化させる可能性があることから、二重派遣は違法とされています。

二重派遣リスクを理解し適切な労働契約を

労働者の基本の権利を守るため、二重派遣(多重派遣)は法律で禁止されています。

二重派遣とされる事例には、派遣先企業がさらに別の企業へ派遣する「派遣の派遣」や、請負と見せかけて労働者を別の企業へ派遣する「偽装請負」などが挙げられます。見極めるポイントは、契約形態と指揮命令系統。どのような契約を結んだ人が、どの企業から業務の指示を受けているかを確認しましょう。

企業が二重派遣を行ってしまうと、労働者派遣法や職業安定法などによって罰則が課されます。また実態を公表されれば、会社の信用が落ち、優秀な人材が入ってこなくなるかもしれません。

二重派遣を回避するためには適宜実態を確認することと、契約条件の確認を厳しく行うことが必要です。働き方の多様化によってフリーランスも増えているなかで、企業も労働者も、状況をきちんと把握する必要があるでしょう。