グーグルも参画「Data Transfer Project」 SNSデータはユーザーのものになるか?

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グーグル、フェイスブック、ツイッター、マイクロソフトという「BIG5(アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフト、グーグル)」の一角が、オープンソース・プロジェクト「Data Transfer Project(DTP)」を立ち上げた。SNSなど各種オンライン・サービス間でユーザーによる容易なデータ移行を実行可能にしようと、具体的な技術開発をする注目の取り組みだ。DTPの仕組みを調べ、DTPがインターネットにもたらす影響を考えてみた。
グーグルも参画「Data Transfer Project」 SNSデータはユーザーのものになるか?

グーグル、フェイスブック、ツイッター、マイクロソフトが取り組む「DTP」とは?

個人情報であふれるサイバー空間

インターネットが広まり、企業だけでなく一般の消費者も毎日活用している。その結果、自分のカレンダーやスケジュール帳、日記など、さまざまな情報をネットワークのどこかに保存するようになった。スマートフォンの普及もあり、写真やビデオ、位置情報、通話履歴、メールなど大量のデータが日々追加され、サイバー空間はありとあらゆる個人的な情報であふれている。FacebookやTwitterといった各種オンライン・サービスも、情報蓄積を加速させる一因だろう。

仮に、ネット上に存在するSNSが1つだけで、やり取りしたい友人や知人が全員それを使っていれば、何かと便利だ。そのSNSに登録しているデータを書き換えたり、連絡事項をそこでシェアしたりすれば、1回の操作で情報をすべて更新できる。

ただし、そのような世界はディストピア的だ。自分の一挙手一投足がほかの人へ伝わってしまい、とても息苦しい。SNSや連絡手段は、目的ややり取りするコミュニティに応じて使い分けたい。それに、多種多様なサービスがあるからこそ、新たなアイデアが生まれ、画期的な機能が生まれる。多様性を失ったら、インターネットに未来はない。

SNS間のデータ移行を省力化する救世主

とはいえ、異なるSNSを並行して使うのには手間がかかる。どれも同じような情報を登録しているのに横の連携がないため、たとえば名前やメールアドレスを変えるには、一つひとつ修正しなければならない。あるSNSに保存した大量の写真を別のSNSで改めて利用しようとすると、面倒な手作業が必要になる。つまり、現在のSNSは、それぞれが鎖国状態にあるわけだ。

そこに、このような問題を一気に解決できるかもしれない取り組みが登場した。簡単かつ確実なオンライン・サービス間データ移行の実現を目指すオープンソース・プロジェクト「Data Transfer Project(データ・トランスファー・プロジェクト:DTP)」である。

このプロジェクトは非常に注目されていて、期待も高い。なぜなら、グーグル、フェイスブック、ツイッター、マイクロソフトが立ち上げ、コントリビューターとして活動しているからだ。

出典:DTP / Data Transfer Project Overview and Fundamentals

DTPが目指す世界

自分のデータは自分で制御すべき

ユーザーがウェブ上で扱うデータについて、DTPは「自分のデータは自分でコントロールできることがあるべき状態」と考える。そして、「コントロール」という操作には「自分のデータを移動できること」も含むとした。

今でも、多くのサービスがユーザーに対してデータ・ダウンロード機能を提供している。この機能を使えば、確かに自分のデータは自分の手元に置いておける。しかし、そのデータをほかのサービスへ持って行くことは難しい。

ブログ用のMovable Type(MT)やRSSリーダー用のOutline Processor Markup Language(OPML)など、一般的なデータ移行用フォーマットが存在するサービスもある。ただし、同種サービス間の移行に過ぎず、極めて限定的だ。

SNS鎖国を打破するDTP

DTPは、SNS鎖国を打破するため、オンライン・サービス間でデータ移動させる技術をユーザーに提供しようとしている。実際にこの技術が使えるようになれば、たとえばFacebookに登録したり投稿したりした情報を、マイクロソフトのビジネス用途向けSNS「LinkedIn(リンクトイン)」へ簡単に移せる。

しかも、DTPの技術はデータをオンラインのまま移行できる。データを一度ダウンロードするなりしてローカル環境やクラウド・ストレージに一時保管し、そこから別のサービスへアップロードし直す、という手順が必要ない。

完成した暁には、これまでにないポータビリティがSNSや各種オンライン・サービスのデータに付与される。

DTPの仕組みを実現させる3つの技術

データ交換フォーマット「データ・モデル」

データにポータビリティを持たせるため、DTPはデータ交換用フォーマット「データ・モデル」を規定する。各オンライン・サービスにこのフォーマットのデータをエクスポート、インポートする仕組みが設けられれば、ユーザーは手軽にサービス間でデータを直接動かせる。

出典:DTP / Data Transfer Project Overview and Fundamentals

データ入出力用の「アダプター」

交換用データの出力と読み込みは、それぞれのサービスに用意されるAPIを使う。そして、データの入出力にAPIを利用するモジュールを、DTPは「アダプター」と呼ぶ。各オンライン・サービスのプロバイダーは、出力用と入力用のアダプターを開発することで、DTP対応とするわけだ。

なお、アダプターには、データ読み書き用と、ユーザー認証用の2種類が定義されており、前者を「データ・アダプター」、後者を「認証アダプター」とする。

出典:DTP / Data Transfer Project Overview and Fundamentals

全体の動きをつかさどる「タスク管理ライブラリ」

3番目の技術要素は「タスク管理ライブラリ」。データ交換元と交換先のオンライン・サービスを連携させるため、アダプターを動かすタイミング、データの安全な一時保管、エラー発生時の再処理といった動きの調整をつかさどる。

DTPに対応すると……

多くのオンライン・サービスがDTPに対応すると、新たなサービスを使い始める際の初期登録が簡単になるだろう。たとえば、メールアドレス、使いたいユーザー名、自己紹介文、プロフィール写真などをあるサービスから別のサービスへ移す、という作業がワンタッチで行える。大量に投稿した写真やビデオを新たなサービスへ送ったり、書きためた日記を転送したり、という使い方も可能だ。

新たなサービスを試しに使ってみる、新たなサービスへ引っ越す、などの負担が相当軽減されるだろう。移行作業が面倒で不満を抱えたまま特定サービスを使い続けていた、という時代は終わろうとしている。

もちろん、貴重な自分のデータをバックアップすることにも使える。

消費者には大きなメリット

ユーザーの囲い込みが不可能に

DTPにより、オンライン・サービス間の移動が現在と比べものにならないほど容易になる。サービスを使う側の消費者にとって、これは文句なしにありがたい話だ。

一方、サービス提供者からみると、ユーザーの囲い込みが難しくなる。これまでは、データをダウンロードさせなかったり、ダウンロードさせても特殊なフォーマットのデータで提供したりという方法で、ユーザーの浮気を妨げてきた。しかし、DTP対応が当たり前になれば、そのような戦略は通用しない。DTP非対応という道はあるが、それはサービスの短所ととらえられるだろう。

以前記事で取り上げたカリフォルニア州の「プライバシー保護法」は、必ずしも消費者有利といえない内容で、企業活動の円滑化という目的が色濃く反映されていた。これに対しDTPは、消費者にもたらすメリットが大きい。

ユーザーのデータはユーザーの所有物

DTPのような技術が出てきた背景には、ユーザーのデータはユーザーの所有物、という考えの広がりがあると思われる。ユーザーの持ち物である以上、ユーザーが自由に移動させられなければならない、という発想だ。

さらに、欧州の「GDPR(EU一般データ保護規則)」も、この発想を後押しした。事実、グーグルは2018年5月、GDPR対応などを説明するブログのなかで、「何年も前からデータ・ダウンロード機能を提供してきたが、GDPRはサービス間の直接的なデータ移行を実現させるよう呼びかけている」とし、対応策としてDTPを立ち上げた、と書いている。GDPRは欧州市民を保護する目的の規則だが、グーグルなど世界的大企業をユーザー・ファーストへ1歩踏み出させてくれた。

これからの参加サービスに注目

DTPはオープンソース・プロジェクトであり、参加者を広く募っている。そのため、グーグル、フェイスブック、ツイッター、マイクロソフトの運営している各種サービスに加え、多種多様なサービスがDTPに対応する可能性がある。

DTPの利用価値は、対応サービスが多ければ多いほど高い。どのような企業やサービスがDTPへの参加を表明するか、注目していこう。