プロジェクトが炎上する、たった一つの原因と解決策

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記事の情報は2018-08-03時点のものです。

プロジェクトの炎上と聞いて情報システム系プロジェクトをイメージする人は多いだろう。実際、情報システムに関するプロジェクトは艱難辛苦というに値する難しさがある。どのようにマネジメントすべきかを解くテキストは世にあふれているが、「なぜ困難なのか」という回答に出会うことは少ない。プロジェクトの成否とは、実は、最終的な責任者である「プロジェクトオーナー」の資質にかかっているのである。
プロジェクトが炎上する、たった一つの原因と解決策

プロジェクト炎上、たった一つの原因「オーナーが現場を見ない」

なぜIT系のプロジェクトが困難なのか。筆者自身、さまざまなお客さまとプロジェクトを経験するなかで、トラブルや計画変更に見舞われることは茶飯事だ。

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その見舞われ方が、「仕方ないな…」と思えるものもあれば、これはさすがにひどいというものもある。後者の現場について考えるうちに、それらの現場において、類似する傾向があると思うようになった。

それは何か。ずばり一言でいうと、プロジェクトオーナーが現場を見ないということだ。

事業運営に深く関わる情報システムであれば、かならずその導入には関連する部門の事業責任者や役員、時には経営者自身がプロジェクトチームに在籍し、プロジェクトオーナーとして関わることになる。

プロジェクトオーナーとは一般的には指針を示す人であり、最終的な承認者であり、説明を受ける人、と理解されている。プロジェクトに対して積極的に関与して課題解決をするようなイメージは少ない。

しかし、そのプロジェクトオーナーの立ち居振る舞いこそがその明暗をわけるのだ、というのが筆者の発見であり、本稿の主題である。

一般的に、プロジェクトオーナーは次のような役割を担っている場合が多い。

  • プロジェクトメンバーから申請された企画内容や予算、スケジュールなどを承認する
  • 承認した内容を経営ボード、あるいはステアリングコミッティ内で共有し、合意形成をはかる
  • 何か問題があれば報告を受け、対処する方針を示唆する
  • 意見の衝突や利害調整が困難なことがあった場合に、裁定を下す

こうした役割の難易度は、案件によって全然変わってくる。プロジェクトが順調に進んでいたら、ただ会議に同席して、報告を受け、笑顔をみせて、ゴーサインを出せばいい。

そうでなかった場合でも、代替策やリカバリ策を適宜段取りしてくれる優秀なプロジェクトマネージャーをおさえていれば、彼または彼女に十分に感謝の意を表現していればよい。

もちろん、そういうことは少ないということは、ご案内のとおりである。

炎上プロジェクト=「果報を待てど寝耳に水」状態のこと

たとえば、次のような経験をしたプロジェクトオーナーも多いのではないだろうか。

プロジェクトがキックオフして最初の数か月は「特に問題なし」の報告を聞くばかりだった。現場的寄りの細かい話も多く、まだ自分の出る幕ではない。順調なのであれば、それでいいではないか。という日々。

それが検収の間際になって、急に遅れや課題が表出する。出てくる説明は、一体、自己弁護のための言い訳なのか、不可避の事故だったのか、判然としない。リカバリプランは説明させるものの、本当にそれでうまくいくのか、それともその場しのぎの出まかせなのかもわからない。

たしかな情報が少ない中、唯一つ明確なことがある。納期またはスケジュールが当初の計画とはずれる。いわゆる炎上しているということだ。

いままで一体何をやってたんだ、と責める言葉も虚しく、目の前には絶望的な納期、あるいは捻出できない予算。どうにも変えられない現実だけが横たわるのであった。

「果報は寝て待て」が転じて「寝耳に水」と化す。プロジェクトが終盤戦になって急速に問題が拡大し、炎上する。

この現象に「果報を待てど寝耳に水」と名付けよう。これが起きる理由を、プロジェクトマネージャーや推進チーム、プロジェクトメンバーが無能だからと言って片付けるのは、あまり合理的な発想ではない。

なぜなら、そもそも進行中のプロジェクトに対してそれが「順調である」とする判断の基準は、プロジェクトに関わる人によって意外とズレが大きく、問題を事前に検知することが難しい。

プロジェクトオーナーにとっての「これはマズイ」とプロジェクトマネージャーにとってのそれは違うし、プロジェクトメンバーそれぞれにとっても全然違う。プロジェクトオーナーにとっての「これはまずい」は、実は彼または彼女自身以外の誰も肩代わりしてくれないものなのである。

不都合な現実は、受け身で「順調報告」を受けているうちに、その予兆や種は必ず芽を出す。それを小さいことととらえたり、気づかなかったりすることで、あとになって矛盾が表出する。危険予知こそがプロジェクトにおける中枢の人々の唯一の義務とも言える。それを怠っていて「寝耳に水」とは、実はちゃんちゃら可笑しい話なのである。

それは裏を返せば、プロジェクトの「まさか」を予防するために、実はもっとも強い影響力を発揮できるのはプロジェクトオーナーその人なのだ、ということも意味している。