「2兆ドル」スマートシティ市場をつくる12の領域とは?全体像を俯瞰する

「スマートシティ」は都市生活の改善につながると期待され、注目の技術分野だ。しかし、影響する範囲が広く複雑なシステムであり、全体像がつかみにくい。社会生活のどのような領域に影響を与えるのだろうか。また、市場規模はどの程度なのだろうか。スマートシティに関わる12の領域から全体像を俯瞰する。

「2兆ドル」スマートシティ市場をつくる12の領域とは?全体像を俯瞰する

企業や政府もスマートシティに期待

最近「スマートシティ」という言葉を耳にする機会が増えた。都市生活の改善を目的とする新技術であり、民間企業だけでなく各国の政府や地方自治体も注目している。世界の各地で試験が行われており、日本でもスマートシティを売りにする都市が現れ始めた。CNETの報道によると、マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツ氏と関係のある財団がスマートシティ建設用の土地をアリゾナ州で確保した、という情報も流れたりしている。

ガートナーは、人口が数百万人規模の大都市だと、2019年には住民の5割が自分の個人的なデータをスマートシティ・システムへ提供し、何らかの形で恩恵を受ける、と予測している。また、2020年には、地方自治体の2割が住民や各種センサなどから集めた情報を販売して利益を得る、と見込んだ。

生活が便利になり、自治体の収益につながるのなら、明日にでも自分の暮らしている街をスマート化してもらいたい。

SFのようなスマートシティとは?

しかし、都市のスマート化とは具体的に何を意味するのだろう。スマートフォンやスマートウォッチ、スマートスピーカー、スマート家電、スマートホームなど頭に「スマート」の付いたほかのテクノロジーからの連想で、「ICTで多機能、高機能になる都市のことだろう」と理解したつもりになっていないだろうか。

スマートシティとは、都市を構成するさまざまな存在をICTで連携させて、住民の生活を安全でスムーズにするアイデアだ。空調や照明、交通を適切に管理することで、省エネ効果も期待されている。

明確な定義が存在するわけではないが、電気や上下水道、ガス、通信といったインフラをスマートシティのネットワークに組み込み、IoT(モノのインターネット)技術で家庭や企業にある各種デバイスから集めたデータを参考にして、全体を効率的に動くようにする、というものだ。交通網もスマートシティの管理対象にすれば、移動する人の多い地区で鉄道や道路をスムーズに動かすよう信号制御する、といった応用も考えられる。さらに未来の都市では、自動運転タクシーが人の多い地域へ優先的に配車される、というサービスが実現されるかもしれない。

スマートシティでの暮らしぶりはSF世界のようで、想像する分には楽しい。しかし、自分の生活に影響しそうだし、仕事でかかわる可能性もある。そうなると、コストやセキュリティなど不安な面もみえてくる。

ここでは、スマートシティの全体像を整理したうえで、指摘されているセキュリティ上の問題をいくつか取り上げよう。そして、最後にそれでも有望視されるスマートシティ市場に関する調査データを示す。

スマートシティの全体像を俯瞰する

スマートシティ関連事業を推進する企業から発信される情報は、その企業の得意とする分野の話に限定されるなど、スマートシティを俯瞰するには物足りない。

そこで、IDCが運営しているスマートシティ関連の賞「SMART CITY ASIA PACIFIC AWARDS」を参考に、スマートシティ関連領域を整理する。

影響下に入る12の領域

SMART CITY ASIA PACIFIC AWARDSは、スマートシティ関連の取り組みを分析し、優れたものを表彰する活動。各種スマートシティ・プロジェクトを以下の12カテゴリに分け、カテゴリごとに分析して優秀なプロジェクトを選考している。

この12種類のカテゴリを眺めれば、スマートシティの影響下に入る広い領域が浮かび上がる。

(1)管理:スマートシティ用プラットフォームや、議会運営用の統合基幹業務(ERP)システムなどを含むデジタル管理

(2)市民との交流:オープンなデータ提供、自治体のポータルサイト、市民向け電話-サービスなどを含む、市民の参加を促し、都市運営の透明化を促進する取り組み

(3)デジタル技術へのアクセシビリティ:障がい者の社会参加や、公衆無線LAN(Wi-Fi)サービスの提供など、アクセシビリティを担保する取り組み

(4)教育:オンライン学習、学習管理システム、スマート教室など

(5)公衆衛生と社会サービス:社会保障に携わるスタッフ向けのモバイルを含めたITソリューションや、助けを必要としている層に適切な支援をする分析ツールなど

(6)公衆安全:危険を早期に警告する非常時用サービスのほか、警官が身に着けるビデオカメラやビデオ監視装置など警察向け保安システム

(7)スマート・ビルディング:オフィスビルなどの空調やエネルギー利用の状況を計測して制御し、効率向上を図るシステム

(8)スマートな水道管理:水道事業に関する無駄や非効率な部分をなくし、同時に資産管理と顧客サービスの改善を目指す取り組み

(9)持続可能なインフラ:環境データ監視、エネルギー保全、スマートな照明、スマートなゴミ回収箱、スマートな電気メーター、スマート・グリッド(スマートな電力網)など

(10)ツーリズム、アート、ライブラリー(図書館など)、カルチャー、オープン・スペース:スマート売店、インタラクティブ性のあるイベントや体験施設、ネットワークと連動する美術館や博物館、電子図書館、イベント管理システムなど

(11)交通:自動運転車、(ネットワークと接続して各種機能を提供する)コネクテッド・カー、スマートな公共交通や駐車場、各種インフラ、交通管理、ライド・シェアなど

(12)都市計画と土地利用:開発などの認可、調査、計画といった作業に使うITツール

スマートシティ“先進国”は中国

ちなみに、SMART CITY ASIA PACIFIC AWARDSは、7月に2018年の選考結果が発表され、合計19プロジェクトが表彰された。ただし、対象地域が日本を除くアジア太平洋地域(APeJ)なので、残念ながら日本の取り組みはそもそも選ばれない。

表彰されたプロジェクトは、中国のものが5個でもっとも多く、これに4個の台湾、3個のシンガポールが続く。ほかには、オーストラリア、韓国、香港、タイ、フィリピン、ニュージーランドのプロジェクトが選ばれた。

出典:IDC / IDC Names the Top 19 Smart City Projects in Asia/Pacific for 2018

急がれるセキュリティ対策

このように、スマートシティは多種多様なシステムが絡み合って機能する。システムが複雑になればなるほど、サイバー攻撃の標的にされる弱点も多くなる。

たとえば、IBMのセキュリティ部門であるX-Force Redは、あるスマートシティ向けシステムを調査し、17件のゼロデイぜい弱性を発見した。ゼロデイということは、現時点でセキュリティ修正用アップデートが提供されておらず、対策することが難しいため、いきなり攻撃される危険性が高い、ということだ。

セキュリティ企業のカスペルスキーも、以前からスマートシティ技術の弱さを指摘している。さらに、交通信号機がすべて機能停止したり、大規模停電したりする危険性も警告した。

しかも、スマートシティには、数え切れないほど多数のIoTデバイスが接続される。こうしたデバイスはPCやスマートフォンと比べて処理能力が低く、セキュリティ対策が不十分とみられ、攻撃対象にされやすい。

スマートシティは複雑なシステムで、どうしてもセキュリティ対策が後回しにされる。スマートシティの誤動作は人命を危険にさらすほど深刻で、社会全体を立ち往生させかねない。文字通り都市の生命線だ。

快適な未来をもたらすと期待されるスマートシティだが、常にセキュリティを意識して対応していく必要がある。

2025年の関連市場は2兆ドル以上の規模に

セキュリティのような課題はあるものの、スマートシティへの期待は間違いなく高い。IDCの予想だと、世界全体でスマートシティ関連技術への投資は2018年に810億ドルを超え、2022年に1580億ドルまで拡大するという。2018年の地域別投資額は、中国と日本を含むアジア太平洋地域が全体の42%弱を占め、もっとも多い。2位は南北アメリカの33%、欧州・中東・アフリカ(EMEA)の25%。国別では、米国が230億ドル以上で最多。2位は中国の見通し。

さらに、関連市場を含めるとスマートシティの経済的影響は巨大になる。フロスト&サリバンによると、世界スマートシティ関連市場は2025年に2兆ドルを超えるそうだ。

都市全体をカバーしてこそ真価を発揮するスマートシティなので、巨額の資金がつぎ込まれるだろう。関係する領域も広く、多くの人が仕事や家庭でかかわる。今から最新情報を追いかけ、勉強していく必要のある分野だといえる。

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