アマゾン特許は労働者を救うか ARゴーグルやAmazon Roboticsが倉庫環境を変える

アマゾンの出願した「ARゴーグル」の特許が、「従業員をこき使う目的なのでは?」と物議を醸している。それほど労働環境について悪評も多いアマゾンだが、一方で、雇用を生み出す存在としての期待も大きい。ロボット技術などを使って働く人の負担軽減に取り組んでいることは確かだ。

アマゾン特許は労働者を救うか ARゴーグルやAmazon Roboticsが倉庫環境を変える

ユニークな特許が注目されるアマゾン

世界的なネット通販企業のアマゾンは、スマートスピーカー「Amazon Echo」やクラウド・コンピューティング・サービス「Amazon Web Services(AWS)」でも世界トップクラスのシェアを誇る最先端の技術系企業だ。傘下企業のアマゾン・テクノロジーズを通じ、さまざまな特許を取得している。特許の内容は、ドローンを使った配送や、倉庫業務の効率化に関する技術が多い。

ARゴーグルで従業員を支援?特許を申請

最近の特許では、公開されただけでまだ成立していないものの、倉庫内で探している商品の場所を拡張現実(AR)ゴーグルに表示する「AUGMENTED REALITY USER INTERFACE FACILITATING FULFILLMENT」(US 2018/0218218 A1)が興味深い。

アマゾンは、商品の保管から出荷までの作業を一体化させるため、巨大な配送拠点「フルフィルメントセンター(FC)」を各地で運営している。商品のピックアップ作業を完全に機械化できればよいのだが、種類が多く形状も多種多様な商品をすべて自動処理することは難しい。そのため、作業員が広い倉庫を歩き回って、商品を見つけ出して集める、という作業がどうしても発生してしまう。

この特許は、そうした問題の解決を目指し、商品の置かれている位置を作業員に伝えるAR技術で業務を効率化させる、というアイデアだ。

「従業員をこき使う」ための特許なのか?

米国特許商標庁(USPTO)の情報公開でこの特許出願が明らかになったところ、「アマゾンは従業員をさらに働かせようとしている」といった論調の報道が目立った。どうやら、ARゴーグル装着者の動きに応じて指示を出す、という内容が問題視されたらしい。

特許は技術的なアイデアを記述する法律文書であり、出願書類にその技術の用途を厳密に書く必要などない。したがって、この技術が「従業員を支援する」ためなのか、「従業員をこき使う」ためなのか、出願書類からは判断できない。しかし、アマゾンFCの労働環境は過酷という見方が広まっているため、このAR特許が疑われたのだ。

実は、この特許出願が公開される少し前、ドイツとスペイン、ポーランドでプライム会員限定特別セール「アマゾンプライムデー」にぶつける形で、ストライキが起こされたのだ。やはり、FCのスタッフは悪い環境に置かれているのだろうか。

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アマゾンの労働環境を巡る悪評

アマゾンの労働環境については、好ましくない情報を耳にすることもある。まず、具体的な事例をいくつか示しておこう。

職場としての人気は低い

オンライン求人サービスのグラスドアは、従業員から高く評価された企業CEO(最高経営責任者)を毎年選出している。2018年版ランキング「TOP CEOs 2018」の公表に合わせ、ビヨンドでは上位3人上位に入った2人の女性CEOをそれぞれ紹介した。

同ランキングには、誰でも知っているような有名企業から、日本でなじみのない企業まで、100社のCEOが掲載されている。驚いたことに、世界的な影響力の大きい「BIG5」企業のうち、アマゾンCEOのジェフ・ベゾス氏だけ名前が見当たらない。残る4人のCEOは、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ氏が16位、マイクロソフトのサティア・ナデラ氏が20位、グーグルのサンダー・ピチャイ氏が45位、アップルのティム・クック氏が96位に入った。

さらに、グラスドアの働きやすい職場ランキング「Best Places to Work」の2018年版でも、アマゾンは選ばれていない。ちなみに、フェイスブックはなんと1位で、グーグルは5位、マイクロソフトは39位、アップルは84位だった。

職場の安全性にも疑問が

アマゾンは、職場の安全性に関しても疑問を投げかけられている。

職場の安全向上に取り組む団体であるNational Council for Occupational Safety and Health(COSH)が、2018年版レポート「THE DIRTY DOZEN 2018」に、従業員やコミュニティにとって危険な職場の1つとしてアマゾンを掲載したのだ。

COSHは、アマゾンの倉庫では2013年以降に7人が死亡したと指摘。しかも、そのうちの5人は、わずか5週間のあいだに死亡していたという。そのうえ、負傷する人も存在し、スタッフに対する要求は厳しく、行動も細かく監視されている、と糾弾した。

外部工場の厳しい現状

スマートスピーカーのAmazon Echoや、電子書籍リーダー端末「Kindle」のようなデバイスを販売するアマゾンは、ハードウェア・メーカーとしての顔も持つ。もっとも、自社工場でこうしたデバイスを作るわけでなく、外部の受託製造会社を利用している。

これに対し、労働環境の監視団体China Labor Watchが、アマゾン製品を製造している工場の厳しい現状を報告した。

ただしCNETの報道によると、アマゾンは問題を確認して是正措置を講じており、状況は改善に向かっていきそうだ。

大量雇用創出への期待も大きい

アマゾンの労働環境については厳しい目が向けられている一方、巨大FCなどによる雇用創出という点では期待も大きい。事実、アマゾンがFCを1つ開設すると、その地域では千人規模の新規雇用が生ずる。

さらに、数万人規模の新規雇用も予想される。アマゾンが新設する計画の北米第2本社だ。この計画を受け、米国、カナダ、メキシコの合計238地域が誘致に乗り出した。アマゾンは、候補地を20都市に絞り込み、現在検討を進めている。

本社ができれば大きな雇用が新たに発生するため、各地の自治体は当然アマゾンを歓迎している。自治体が積極的に取り組む以上、労働環境の改善に向けた指導へも力を入れるはずだ。

また、アマゾン自体もFCスタッフの負担軽減に努力している。たとえば、2018年9月に運用開始するアマゾン茨木FCは、可動式の商品棚とロボットによる棚入れ・棚出しシステム「Amazon Robotics(アマゾン・ロボティクス)」を導入し、スタッフの作業を支援する。日本におけるAmazon Robotics導入は川崎FCに続いて2例目で、実績がある。確実に環境を改善しつつ、全体の業務効率を高めるだろう。

ロボットやAR、人工知能(AI)といった先端技術が労働環境を改善し、働く人の幸せにつながるという事例を、アマゾンにはどんどん示していってもらいたい。

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