マタハラ(マタニティハラスメント)とは?原因・定義・事例・嫌がらせの対処法

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記事の情報は2018-08-28時点のものです。

マタハラ(マタニティハラスメント)とは、3大ハラスメントのひとつ。平成29年にはマタハラ防止措置が義務化され、非正規労働者を含めて妊娠・出産をきっかけとした嫌がらせや不当な扱いは禁じられていますが、被害に悩む女性はあとを絶ちません。本記事では、マタハラの定義、原因、実際に裁判になった事例、どんな嫌がらせや被害があるのか、マタハラを受けた場合の対処方法・相談窓口などをまとめました。
マタハラ(マタニティハラスメント)とは?原因・定義・事例・嫌がらせの対処法

マタハラ(マタニティハラスメント)とは

マタハラ(マタニティハラスメント)とは、妊娠や出産をした仕事を持つ女性が、職場で嫌がらせを受けたり、異動・降格・減給・自主退職の強要・雇止めなどの不当な扱いを受けたりすることを指します。マタハラは、セクハラ(セクシャルハラスメント)、パワハラ(パワーハラスメント)に続く3大ハラスメントのひとつと言われています。

マタハラ(マタニティハラスメント)の原因

マタハラ(マタニティハラスメント)の原因にはどのようなものがあるのでしょうか? 産休・育休制度の利用が浸透し、出産後も仕事を続ける女性が増えてきました。しかしいまだに長時間労働の文化が根強い日本では、妊娠による体調の変化や育児によって、毎日朝から晩まで均質的に働くことができない女性に対して、風当たりが強くなるということが少なくありません。

今まで出産後に働き続ける女性が少なかったという企業では、妊娠や出産に伴う女性の体調の変化に対する知識が少ないために、上司や同僚が接し方に戸惑うというケースも見受けられます。

また、女性は家庭を持ったら仕事よりも家庭・育児を優先すべきだという性役割意識が根底にある場合もあります。こうした性役割意識は無意識に抱いていることも多く、昨今「アンコンシャスバイアス」研修をマネジメント層へ義務化する企業も出てきました。

マタハラ(マタニティハラスメント)の現状

マタハラ(マタニティハラスメント)の現状は、厚生労働省が発表した「平成28年度都道府県労働局雇用環境・均等部(室)での法施行状況」によると、2016年の妊娠・出産時の不利益取扱いやハラスメントは7,344件あり、全相談件数の34.9%と高い割合を占めています。

連合非正規労働センター「第3回 マタニティハラスメント(マタハラ)に関する意識調査」によると、マタハラに対する認知度が30ポイント上がっている一方で、「状況の変化を感じない」 との回答は63.5%にものぼることから、マタハラ改善は道半ばという現状が浮かび上がります。

また、マタハラの被害にあうのは非正規よりも正規雇用の場合が多いという傾向もあります。同調査によると、マタハラ被害は正規34.9%、非正規24.4%と正規雇用の方が10ポイントも多いという結果が出ています。

マタハラの原因を問う質問に対しては、「男性社員の妊娠・出産への理解や協力が不足している」という回答が圧倒的に多く、次に、業務過多や人手不足が挙げられています。

マタハラ(マタニティハラスメント)の定義とよくあるパターン

マタハラ(マタニティハラスメント)の定義は、「原則、男女雇用機会均等法第9条、育児・介護休業法第10条に違反する扱い」と、「妊娠、出産をきっかけにした上司や同僚からの嫌がらせ」。よくあるパターンとしては、労働時間の低下を咎められたり、短時間勤務など制度の利用を協調性の欠如とみなされたりするようです。

男女雇用機会均等法第9条第3項

事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第65条第1項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第2項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

このように妊娠や出産、育児を機に、降格や減給、解雇は男女雇用機会均等法第9条に違反する行為です。

具体的には、以下の2つがマタハラの対象となることが多いようです。

  • 制度の利用
    妊娠・出産した女性が、国の制度や社内制度を利用することに対して、嫌がらせをすることをさします。

  • 体調や業務効率などの状態
    妊娠による体調不良や、容姿の変化、それらに伴う業務効率が低下したり長時間に及ぶ労働が難しくなることなどに対して、嫌がらせをすることをさします。

マタハラのよくあるパターン

労働力の低下とみなされる

妊娠した女性の体調の変化や、子育ての大変さをそもそも理解していない、あるいは一定の理解はあっても業務都合や経営上、理解を示すことができないパターンです。

体調や通院などの都合で労働力が低下することを許せないため、産休・育休制度を利用させなかったり、時短勤務や欠勤を認めなかったりします。長時間働けない女性は要らないとばかりに、妊娠した女性を配置転換したり退職を迫る場合もあるようです。

協調性の欠如とみなされる

妊婦や育児中の女性に協力することに反対で、産休・育休制度や短時間勤務制度を利用したりすることが許せず、いじめという形で嫌がらせが起きるパターンです。

妊娠や出産を経験している女性が自分のときと比較したり、子どもを持たない同じチームの女性へタスクが集中する・シフトでの不公平感が募ってしまうなど、背景はさまざまですが、妊娠や出産による勤務状況の変化が協調性の欠如のようにみなされ、チームや組織内でいじめの対象となり職場で不利益な取り扱いを受けるというケースがあります。

固定概念を押し付けられる

男女雇用機会均等法が施行される前はもとよりそれ以降も、男性が一家の大黒柱として稼ぎ、女性は専業主婦となり家庭を守るという家庭はかつて一般的でした。

こうした働き方をしてきた世代では、「男が働き、女が家を守る」という価値観を善として若い世代にも無意識のうちに押し付けている場合があります。

「妊娠したら仕事をやめるべき」という前提で、妊娠する前から数年間は子どもを作らないでほしいと言ったり、時短勤務や通院のための休暇など法的に認められている制度の利用を禁じるような発言もマタハラに該当する可能性が高いです。

マタハラ(マタニティハラスメント)の事例

次は今まで、具体的にどのようなマタハラの事例があったのかを紹介します。妊娠を理由に降格されたり、マタハラ被害に悩んだことがきっかけでうつ病を発症してしまったというケースもあります。

妊娠で降格

広島市の病院に勤務する理学療法士の女性は、2008年に第2子を妊娠したことをきっかけに軽い業務への配置転換を希望しました。その時に副主任の職位を降格となり、職場復帰後も副主任に戻ることはありませんでした。

この「妊娠をきっかけにした降格が違法である」として争われた最高裁裁判では、原告の女性が逆転勝訴。妊娠・出産に伴う異動を契機にした降格は「原則違法」との見解が示され、社会現象化するマタハラについての一つの指針となったことが話題を呼びました。

マタハラでうつ病

岐阜市の歯科医院に勤めていた歯科技工士の女性が、第2子妊娠を上司に報告すると「また産休をとるの」、「自分の都合ばかりで、こっちの不利益は考えないの」などと言われ、うつ病を発症しました。

半年間休業したところで就業規則に沿って退職通告があり、女性側が「マタハラによるうつ病で退職は無効」として争っています。

2018年1月26日に岐阜地裁は「うつ病の発症は業務に起因するもので、療養中になされた退職扱いは違法で無効」として歯科医院側に500万円の賠償を命じましたが、病院としては嫌がらせをした認識はないとしており、今後の動きが注目を集めています。

マタハラ(マタニティハラスメント)の対処法

マタハラ(マタニティハラスメント)を受けた場合は、日時・相手・場所・内容を記録して、できるだけ証拠を集めましょう。マタハラの対処法として、相談窓口を紹介していきます。

会社の窓口で相談

多くの会社で、社内に相談窓口が設置されています。もしなければ人事部に、マタハラ被害の内容を報告しましょう。

万が一会社がマタハラ被害の報告を受けながら、何も対応しない場合は違法となる可能性があるので、その場合は別の対処方法が必要になります。

社外の相談窓口を活用

社内に相談窓口がない場合や、会社に頼れない場合は、社外の相談窓口を利用しましょう。
マタハラ被害の相談窓口をいくつか紹介します。

  • マタハラnet
    マタハラ被害を受けたことのある女性が立ち上げた団体です。マタハラ対処に関する情報の提供や、被害体験を共有して悩みを軽減できる場の開催などを行なっています。

  • 日本労働弁護団ホットライン
    女性のためのホットラインでは、無料で女性の弁護士への電話相談ができます。

また厚生労働省でも、労働トラブルに関する相談窓口を設けています。法律に違反するような妊娠や出産をきっかけにした不当な降格や解雇があった場合は、直接厚生労働省に報告することも有効です。

都道府県別労働基準監督署 連絡先一覧

専門家に相談

平成29年1月1日にはマタハラ防止措置、ならびに育児休業等に関するハラスメントの防止措置が義務化され、以下の4つが事業主に求められました。

  • マタハラについての方針の明確化と周知・啓発
  • 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  • ハラスメントに対する迅速かつ適切な対応
  • ハラスメントの原因・背景となる要因を解消するための措置

悪質なマタハラは法律違反なので、法的措置を取ることができます。社外の相談窓口でハラスメントに強い弁護士を紹介してもらい、相談することをおすすめします。

マタハラは一人で悩まず相談を

マタハラには、女性は出産したら家庭を守るべきという価値観や、出産した女性は労働力が落ち、労働力が低下した社員は不要といった偏った固定概念、また妊娠や育児への理解不足が根本にあります。

加害者は無意識的に悪気なくマタハラをすることもあるため、直接話し合っても状況が改善されないということも考えられます。不当な扱いや嫌がらせを受けたら、我慢したり一人で悩んだりせずに、専門の窓口に相談することが大切です。

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