パタハラの原因・事例・対処法と会社に義務付けられた防止策を解説

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記事の情報は2018-09-12時点のものです。

日本の男性の育休取得率は6%台と低く(2019年)、その要員としてこうしたパタハラ(パタニティー・ハラスメント)の存在があるのでは、と指摘が上がっています。本記事では、パタハラの原因と対処策に加えて、実際にあった事例や政府の方針を含めて解説します。
パタハラの原因・事例・対処法と会社に義務付けられた防止策を解説

パタハラとは

パタハラ(パタニティー・ハラスメント)とは、父性を発揮する機会や育児参加の機会を侵害する言動や待遇を指します。

具体的には、男性社員の育児休業や短時間勤務の希望を拒否したり、育児休業取得を理由に降格や希望しない異動命令があったり、男性社員が不当な扱いを受けることです。

また、「男が育休を取るのか」、「次は昇進しないぞ」、「出世の道は絶たれたな」、「復職できると思うな」といった発言もパタハラに含まれます。育児休業や時短勤務申請の取り下げを強要されることも、同じくパタハラに該当します。

育児取得者の20.8%がパタハラ被害に

2014年の日本労働組合総連合会の「パタハラに関する調査」によると、男性会社員の11.6%がパタハラされた経験があり、約10人に1人がパタハラ被害に遭っていました。

2019年に行われた日本労働組合総連合会による調査では、育児取得者の20.8%がパタハラ被害に遭ったことが明らかになりました。政府は「2020年までに男性の育休取得率を13%に」と目標に掲げていますが、実現できるか不安が残ります。

また、パタハラを受けた男性のほとんどが家族や友人に相談するにとどまり、会社や社外への専門窓口育には相談していないことも明らかになっています。多くの男性が育児休業を諦めているのです。

パタハラの原因

育児への積極的参加を希望する男性に、暴言・嫌がらせ・降格などのパタハラ言動を引き起こす原因について説明します。

パタハラの原因とは

パタハラの原因の一つとして、無意識的な性役割意識が挙げられます。「男性は仕事、女性は家事育児」という固定観念を無意識に抱いていることがハラスメントにつながっていると指摘されているのです。

こうした固定観念は、子育て経験がなく滅私奉公で奮闘してきた世代に、特に強く残っているともいわれています。無意識のバイアスが「育児は女性がするもの」という偏見を生み、育児に参加したい男性を理解できないため、パタハラの原因になっているというのです。

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また、企業側の制度設備が不十分な点も原因の一つです。父親になる世代の男性は、会社で働き盛りであるため、企業はどうしても育児参加のために労働力が低下することに抵抗感をぬぐい切れません。加えて、父親世代の男性社員は、育児休暇を取ることで収入が減るのではないかという不安を抱えています。

取れない男性の育休

2019年の男性育児休業取得率は6.16%で6年連続で上昇しているものの、いまだに低い数値でとどまっています。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの「平成28年度仕事と家庭の両立に関する実態把握のための調査研究事業」では、男性社員が育児休業を取得しなかった理由が調査されています。「男性で育児休業を取得している人がおらず、言い出しにくい(37.5%)」「昇給や昇格など、今後のキャリア形成に悪影響がありそう(26.2%)」などが主な理由として挙げられています。

また育児休業を取得できたとしても、出産時の数日間を育児休業扱いにして、企業の育休取得率を上げる「なんちゃって育休」の場合もあるようです。

この低い取得率の一方で若い世代の多くの男性が、子どもが産まれたら育児休業を取得したいと願っています。ユーキャンラボの「男性の育児休暇の取得に関する意識調査結果!」によると、育児休業を取得したことがない20~40代の男性のうち75%が、育児休業取得を好意的に捉えています。

男性の育児に対して理解を示しづらい世代と、育児に積極的に参加したい若者世代の間の考え方のギャップが、パタハラという問題の根底に横たわっているのではないでしょうか。

パタハラの事例

具体的に過去にあったパタハラ事例を紹介します。

育休復帰後に休職命令

2017年12月、証券会社に勤めていたカナダ人男性が、パタハラを受けた損害賠償や未払い給与として約4,000万円の支払いを求める訴えを起こしました。

男性はセールスチームに所属していた2015年に育児休業を申請しましたが受理されず、子どもが生後2か月の頃にようやく取得許可が下りました。

復職後は業務上必要な情報が伝達されず、事務作業を任され、給料は半減しました。その後うつ病と診断され休職し、復職後は会社から休職命令が出されました。

男性は育休復帰後の嫌がらせや、異動・降格・減給が違法であるとして、現在も争っています。会社側は休職命令が「安全配慮義務」であったこと、配置転換は育児中の男性に負担をかけないように配慮したためであると回答し、両者の主張は平行線をたどっています。

3か月の育休で昇級阻止

京都市の病院に勤務していた男性看護師は、3か月間の育児休業を取得後、会社側がの昇給試験を受ける機会を与えられませんでした。これは育児・介護休業法10条の「不利益取り扱いの禁止」に反するとして、昇給分の差額給料と損害賠償を求めて提訴しました。

昇給試験は、ほぼ全員が受けていました。しかし病院側は、3か月間休んだのだから、昇給に値する能力は向上していないと判断し、昇給を拒否しました。

裁判では、法的に認められている育児休業で休んだ場合も、能力は向上しないと見なすのは不利益取り扱いに該当すると判断されました。

昇給分の差額は月2,800円であり、慰謝料として15万円が支払われました。男性へのパタハラが認められた判例です。

パタハラは会社が防ぐべき

平成29年1月に、男女雇用機会均等法と育児介護休業法が改正され、改正内容の中にパタハラやマタハラに関する防止措置の義務付けが組み込まれました。

事業主は義務付けられているのは、主に以下の点です。

  • 事業主のマタハラについての方針の明確化と周知・啓発
  • 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  • ハラスメントに対する迅速かつ適切な対応
  • ハラスメントの原因・背景となる要因を解消するための措置
  • 就業規則等においてマタハラ・パタハラについて懲戒の対象となることを明確にし、これを従業員に周知・啓発すること

これに伴い、パタハラ防止策として従業員への研修や相談窓口の設置などに取り組む企業も出てきているようです。

パタハラの最適な対処法は「まずは第三者に相談」

さらに平成29年10月には育児介護休業法が改正され、育児休業の期間が2歳まで延長されました。法律の改正内容より、今後男性が積極的に育児へ参加することを支援する動きが伺えます。

しかし日本社会全体が「男性は仕事、女性は育児」という価値観を変え、上司や同僚の理解・協力を得られるようになるには、まだ時間がかかるでしょう。

育児に関して嫌がらせや不当な扱いを受けた場合は、育児休業を取得したことがある男性の同僚や友人など信頼できる人や、会社や公的機関の窓口に相談することが大切です。

育児休業経験者が立ち上げたパタハラ対策プロジェクト・パタプロや、男性の育休を推進するNPO法人ファザーリングジャパンなどのパタハラ防止のNPOも活躍しています。このような社外のコミュニティを頼るのも有効です。

もしパタハラ被害かもしれないと感じる出来事が起きたときは、まずは正しい情報を得ることが大切です。一人で抱え込まずに、誰かに相談してみましょう。法律を含めた正しい情報と、ともに解決を目指してくれるサポーターを得ることで、心身の負担は随分軽減されるはず。会社との話し合いや、子どもと過ごす時間を穏やかな気持ちで過ごせるよう、まずは第三者に相談をしましょう。

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