飲食店向け食材ECベンチャー八面六臂、松田雅也代表は「資金調達後の危機」をどう乗り切ったか

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記事の情報は2018-09-03時点のものです。

柳谷智宣のホットベンチャー・ケーススタディ。今回は、飲食店向けの総合食品EC事業を手がける八面六臂(はちめんろっぴ)代表取締役松田雅也氏にインタビューを実施。同社の歴史を振り返りながら、創業の経緯から急成長期、資金調達後に起こった組織の危機、第二創業期を迎えた現在と今後の展開について話を聞きました。

iPhone 4やiPadが登場し、IT化の遅れた業界に参入できた

ーー創業した理由と当時のお話を教えてください。

松田氏:2007年に起業して電力会社の代理店のようなことをしていたのですが、ある物流会社で仕事をするために一度休眠させました。その会社でいろいろなプロジェクトを手がけましたが、その中で、食材流通の人たちとお話をする機会があり、いろいろと調べました。

そうしたら、飲食業界や食品流通業界はすごくIT化が遅れていることがわかりました。本当に、ファックスのまま止まっているんですよ。しかし当時、2009年のころはスマホが普及する前の時代で、なかなか採算がとれるハードやソフトが見つからず、そのプロジェクトは閉じました。

それが、2010年になってiPadやiPhone 4が出てきて、今までできなかったプロジェクトができそうだと感じました。そこで、事業責任者だったその会社を辞めて、2010年10月に休眠していた会社を復活させました。
そして、2009年に閉じたプロジェクトもこのタイミングであれば実現可能性も高いし面白いなと思い、まず水産とか食品流通会社向けに販売促進をするアプリケーションをiPadで作りました。

2011年2月に完成して、使ってもらったところ、好感触が得られたので、よし課金を始めようと思ったタイミングで東北地方太平洋沖地震が起きたんです。そうなると、物流会社も水産会社も一斉に投資を止めるわけです。

我々は引くに引けなかったので、試しに自分が作ったアプリケーションを自分たちで使い、自分たち自身が商品を仕入れて飲食店に売るということをしてみました。そうしたら、素人ながら月に100万円くらい売れてしまったんです。当時はサンマもイワシもよくわからなかったんですけどね(笑)。

やっぱり水産の人たちってITを使いこなせていなかったんです。そこで、2011年4月にピボットして、ASP提供業者から食品販売事業者に舵を切った感じですね。

ーー水産から、取り扱う商品の幅を広げたのはなぜですか?

松田氏:最初から全部やるとは決めていました。ただ、どこから始めるのかは大事だと思っていました。当時の経営資料にも書いてあるように、全商品を手がけるというのは既定路線でした。

その中で、あえて難しい水産物からスタートしました。野菜からスタートすると、運賃の負荷が大きくてうまくいかないんです。水産物でできた道のりに野菜を載せるというのがうまく行くと考えました。肉から始めなかったのは、偶然ご縁があったのが水産だったからですね。

ーーピボットしたあとはどんな状況でしたか?

松田氏:最初は、自宅で一人でやっていたのですが、お客さまが5店舗、10店舗、30店舗になると、回らなくなってきます。それで、昔の知り合いに連絡して、引きずり込んでやっていました。そんな感じで、2年後には100店舗くらいのお客さまの規模になりました。

当時、我々はあらゆる点において弱かったんですが、既存の流通業者の人が売り手都合の商売をしていたので、お客さまのご要望に寄り添って買い手都合の商売を積み上げていくことでなんとか小さい会社でも参入できました。また、営業先の飲食店は交通の便が良いところだと競合も多いので、当社は郊外のお客さまを中心に攻めました。