靴もロケットエンジンも3Dプリンターで 「少量多品種」が旧車ポルシェの命もつなぐ

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3Dプリンターはホビー用途にとどまらず、産業分野でも導入が進んでいる。製造現場のデジタル化を推進するインダストリー4.0において、重要な構成要素だ。ランニング・シューズのような身近な物から、自動車の部品、さらにロケット・エンジンの製造にも使われ始めた。最近では、3Dを超える4Dプリンティングという技術も登場している。

靴もロケットエンジンも3Dプリンターで 「少量多品種」が旧車ポルシェの命もつなぐ

「インダストリー4.0」に欠かせない3Dプリンター

ワープロで書いたドキュメントを紙に印刷するプリンターのように、3Dデザイン・ツールで作った物体を出力する3Dプリンター。個人でも手が届くような値段になり、アクセサリやフィギュア、コスプレなどのホビー用途で活用する人は珍しくなくなった。

3Dプリンターは産業分野でも注目の的で、製造現場のデジタル化を推進する概念「インダストリー4.0」の重要な構成要素と考えられている。3Dプリンターに対する大きな期待は、さまざまなデータからも読み取れる。

3Dプリンター市場は2桁成長が続く

調査会社IDCは、3Dプリンター本体に加え、3Dプリント用消耗品、関連ソフトウェアとサービスをまとめた対3Dプリンティング支出額の推移を予測した。

それによると、2019年の支出額は世界全体で140億ドル(約1兆5,592億円)を超え、2018年に比べると23.2%も増えるという。さらに、2022年まで年平均18.4%のペースで増加し、市場規模が230億ドル(約2兆5,615億円)にまで拡大するとした。

2022年における支出の内訳は、3Dプリンターと消耗品の合計が全体の約3分の2を占めるが、対サービス支出も48億ドル(約5,346億円)と少なくない。IDCは、製造現場などにおける部品のオンデマンド生産サービスやシステム・インテグレーション・サービスの需要が高いとみている。つまり、産業分野で3Dプリンターの利用が定着するのだろう。

もはや新興技術ではない

別の調査会社のガートナーも、3Dプリンターが実用段階に入ったとみている。というのも、同社が注目の新興技術を紹介する「ハイプサイクル(Hype Cycle)」から、3Dプリンターが消えたからだ。

ハイプサイクルとは、さまざまな新興技術に対する関心の高さや普及度合いなどをグラフで表したもの。何らかの技術が注目されてから普及していくまでの過程を「黎明期(Innovation Trigger)」「過度な期待のピーク期(Peak of Inflated Expectations)」「幻滅期(Trough of Disillusionment)」「啓蒙活動期(Slope of Enlightenment)」「生産性の安定期(Plateau of Productivity)」という5段階に分け、各技術がどの段階にあるのかを示している。

3Dプリンターについては、2015年版の新興技術ハイプサイクルで「消費者向け3Dプリンティング」が幻滅期の初期、「企業向け3Dプリンティング」が啓蒙活動期の中期とされた。

出典:Gartner / Gartner's 2015 Hype Cycle for Emerging Technologies Identifies the Computing Innovations That Organizations Should Monitor

ところが、翌年の2016年版に3Dプリンティング技術は見当たらない。ハイプサイクルに掲載されなくなったということは、その技術の将来性が失われたか、普及して当たり前の技術になったかのどちらかになる。当然3Dプリンターは後者で、ガートナーは実用段階に入ったと見なしたのだ。

出典:Gartner / Gartner's 2016 Hype Cycle for Emerging Technologies Identifies Three Key Trends That Organizations Must Track to Gain Competitive Advantage

靴からロケット部品まで、3Dプリンターで作られるモノたち

事実、3Dプリンターは工業分野での本格的な利用が始まっている。特に、積層造形タイプの3Dプリンティング技術は付加製造(Additive Manufacturing)と呼ばれ、実用段階にある。

3Dプリンターによる成形は時間がかかるので大量生産は不得意だが、成形物のデザインを柔軟に変えられるうえ、加工工程を少なくできたり金型が不要だったりするため、少量多品種の生産に最適だ。プロトタイプの一点物製作、大量には必要でないが不可欠な特殊部品のオンデマンド製造など、3Dプリンターが活躍する場面は多い。

以下では、産業分野で3Dプリンターが実際に活用されている例を紹介する。

足の形に合わせたオーダー・シューズ

最初に取り上げるのは、ランナーの足に合う形状のランニング・シューズ「Futurecraft 4D」を3Dプリンターで作るアディダスのサービス。3Dプリンターで作るといっても、シューズ全体をプリントするわけではない。シューズ本体と靴底に挟まれるミッドソールを3Dプリントする。

ミッドソールは、履き心地を大きく左右する重要な部品だ。クッション性や耐久性などが要求される。アディダスは、紫外線に反応して硬化する液体樹脂(感光性樹脂)を使う光造形3Dプリンターでこれを作ることにした。

出典:adidas / adidas Unveils Industry’s First Application Of Digital Light Synthesis with Futurecraft 4D

ランナーによって好みの異なるミッドソールを1つ1つ試作などせず作れるので、自分専用のシューズをオーダーする、ということが当たり前になるかもしれない。

旧車ポルシェの部品を3Dプリントで供給

高級スポーツカーで知られる自動車メーカーのポルシェは、オーナーに長く乗り続けてもらいたいと考え、旧型モデルの専門部門Porsche Classicを通じてメンテナンス・サービスなどを提供している。古い車を走らせるには、適切な修理や部品交換が欠かせない。

しかし、特殊な部品の場合、たった1つ入手できないだけでも走行不可能になってしまう。

そこで、ポルシェは旧型車向け部品を3Dプリンターで製造して供給するサービスを開始した。金属部品は選択的レーザー溶融法(SLM)、プラスチック部品は選択的レーザー焼結法(SLS)という3Dプリンティング技術で製造する。もちろん、3Dプリンターで作る部品も、精度や耐久性はオリジナル品と同等だそうだ。

出典:Porsche / Porsche Classic supplies classic parts from a 3D printer

自動車のボディも「印刷」

小さな部品だけでなく、ボディなど多くの構成要素を3Dプリンターで成形する電気自動車(EV)「LSEV」という取り組みもある。イタリアのEVメーカーと中国の3Dプリント用素材メーカーが共同で開発し、2019年に量産を予定している。

3Dプリンターで作る部品は、シャシー、シート、ガラスを除くインテリアおよびエクステリアなど。複雑な形状の部品でも容易に成形できるので、必要な部品点数が減り、軽量化にもつながったという。さらに、開発期間の短縮効果も得られたそうだ。

出典:Polymaker / POLYMAKER & XEV LAUNCH 3D PRINTED ELECTRIC CAR – LSEV

宇宙ロケットのエンジンを3Dプリンターで

3Dプリンターによる部品製造は、高い信頼性が求められる航空機の分野でも使われ始めている。さらに、米航空宇宙局(NASA)は、宇宙へ飛ばすロケット・エンジンまで3Dプリンターで作ろうとしている

NASAは、ロケット・エンジンへの燃料供給を担うターボ・ポンプを3Dプリンターで試作。ポンプ内ではタービンが毎分9万回以上の速度で回転し、マイナス240℃という極低温の液体水素が流れる。約3,300℃以上で燃焼する部分の近くに設置されるため、高温にも耐えなければならない。

NASAによると、溶接する従来の製造方法に比べ、部品点数が45%と少なく、製造工程の簡素化につながるという。さらに、ロケット・エンジンのほとんどの部品を3Dプリンターで作る構想もある。

出典:NASA / Successful NASA Rocket Fuel Pump Tests Pave Way for 3-D Printed Demonstrator Engine

3次元にとどまらない3Dプリンター

3Dプリンターの応用範囲は、チョコレートやキャンディ、グミの出力といった食品分野、義手や義足の製造、試験的な段階だが移植用の骨を作るような医療分野など、とても広い。マサチューセッツ工科大学(MIT)では、建物を作る3Dプリンター「Digital Construction Platform(DCP)」を研究している。

出典:MIT / 3-D printing offers new approach to making buildings

時代は4Dプリンティングへ

このように3Dプリンターは着実に使える技術となってきたが、前出の新興技術ハイプサイクル(2016年版)には「4Dプリンティング」という3Dプリンティングの発展形技術が登場した。

4Dプリンティングとは、温度変化などに反応して変形する性質を持つ物体を3Dプリンターで作る技術。縦横奥行きの3Dに時間軸を追加することから、4Dプリンティングと呼ばれる。

たとえば、MITとシンガポール工科デザイン大学(SUTD)は、熱で形が変わる形状記憶性を備える部品を3Dプリンターで作る4Dプリンティングを成功させた。光に反応して硬化する樹脂と形状記憶ポリマーを組み合わせ、光造形3Dプリンターで作ったそうだ。

出典:MIT / 3-D printed structures “remember” their shapes

新興技術ハイプサイクルでは、4Dプリンティングが2017年版にも、先日発表されたばかりの2018年版にも掲載された。

4Dプリンティングは、まだ黎明期とされるヨチヨチ歩きの技術だ。ただし、ハイプサイクルの曲線を徐々に右方向へ進んでいるので、これからの動きに注目したい。

出典:Gartner / Gartner Identifies Three Megatrends That Will Drive Digital Business Into the Next Decade

出典:Gartner / 5 Trends Emerge in the Gartner Hype Cycle for Emerging Technologies, 2018

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