チャデモ(CHAdeMO)ら世界シェア9割へ 充電規格統一でEVシフト加速か

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記事の情報は2018-09-11時点のものです。

日本発のEV充電規格「チャデモ」と、チャデモ由来の中国系規格「GB/T」が、連携する方向へ動き出した。現在のEVは、時間のかかる充電、走れる距離の短さなど、バッテリーに起因する短所が目立つ。充電規格の整理や新たなバッテリー技術は、EVシフトを加速するだろうか。
チャデモ(CHAdeMO)ら世界シェア9割へ 充電規格統一でEVシフト加速か

世界シェア9割を握る日中のEV充電規格

先日、ニュースで電気自動車(EV)の充電規格に関する話題が大きく取り上げられた。日本の業界団体が推進している充電規格「CHAdeMO(チャデモ)」と、中国の業界団体による規格「GB/T 27930」をベースに、新たな急速充電規格の開発で両団体が合意したのだ。

日本ではチャデモ方式の充電スタンドがほとんどで、走行しているEVもチャデモ対応である。対して世界的には、急速なEVシフトが進む中国市場を背景にGB/T率が高い。なお、GB/Tはチャデモをベースに開発された技術であり、両規格の相性はよい。新規開発する急速充電規格は、チャデモとGB/Tの双方に対して上位互換性を確保する予定らしい。

ほかの主要充電規格としては、欧州系自動車メーカーの定めた「COMBO(CCS:Combined Charging System、コンボ)」という技術がある。しかし、チャデモおよびGB/Tに比べると普及率は低い。

チャデモとGB/Tのシェアを合わせると、世界全体の9割を上回るそうだ。両者がタッグを組めば、充電規格の主権争いに終止符が打たれるかもしれない。全世界で充電規格が1種類に集約されれば、充電スタンドもEV本体も開発コストや製造コストが下がるうえ、充電規格の違いを意識する必要がなくなり、EVの利便性が飛躍的に高まる。

チャデモとGB/Tの連携をきっかけにして、EVへと進みつつある自動車市場が一気にEV優勢になる可能性もある。

EVの長所と短所は?

長所はやはりクリーンなイメージ

EVにはどんな長所があるだろう。もっとも分かりやすい最大のメリットは、走行中に何も排出しないことだ。窒素酸化物(NOx)などを含むガスを出さないため、大気汚染の原因とならない。石油由来のガソリンやディーゼル油を燃やさないので、二酸化炭素(CO2)に代表される温室効果ガスも排出しない。

エンジンに比べ電動モーターは動作音が小さく、走行音は静かだ。低速走行するEVに後ろから近づかれたら、まず気付かないだろう。また、エンジンと違ってアイドリングが不要な点もありがたい。エネルギーを無駄にすることなく、静かに停車していられる。

そして、自動車のエンジンは極めて複雑な機械だ。数多くのさまざまな部品を精密に組み立てる必要があり、開発にも製造にもコストがかかる。これに比べると、EVの構造は単純だ。部品点数が少なく組み立ても容易なので、バッテリーの技術革新で低コスト化が進み、並行して販売台数が増えれば、大幅な低価格化が期待できる。

さらに、自動車としてのメリットではないが、EVに搭載されている大容量バッテリーは、非常時の電力源として魅力的だ。自動車から住宅やオフィスビルなどに電力を供給することから「Vehicle to Home(V2H)」と呼ばれており、実際の活用が始まっている。たとえば、災害などで停電に見舞われても、EVのバッテリーから住宅へ電力を送れば、照明や冷蔵庫、空調などを使うことが可能になる。

ちなみに、チャデモ規格はV2Hもカバーしている。

バッテリーが最大の弱点

確かに走行中のEVはクリーンだが、環境負荷が低いとは言いがたい。走行に使う電力を火力や水力、原子力などの発電所で作るため、全体的なエネルギー収支を考えると、エンジン車よりも圧倒的に優れているわけでない。EVとエンジン車を比べるには、製造されてから走行に使われ、最終的に廃棄されるまでに排出される温室効果ガスの総量をカウントする、「カーボンフットプリント」の考え方を適用しなければならない。

実用面でも、EVは走行距離が物足りない。しかも、充電スタンドの数はガソリンスタンドほど多くないため、長距離移動の際にはあらかじめ充電ポイントを確認しておかないと心配だ。

さらに、EV用バッテリーは充電に時間がかかる。エンジン車の燃料補給など小型車であれば10分もかからないが、乗用車サイズだとそうはいかない。チャデモ規格の名称には「充電完了まで茶でも飲んで待とう」という意味も込められているらしいが、まだそのレベルには達していない。

また、バッテリーそのものもEVの弱点だ。現在主流のリチウムイオン・バッテリーは、事故などで破壊されると発火する可能性がある。もちろん、ガソリンなどを積んでいるエンジン車もその点では同様に危険だが、充電されたバッテリーがエネルギーの塊であることを忘れてはいけない。

バッテリー問題を解決する4つの新技術

このように、EVの短所はバッテリーに関係するものばかりだ。そこで、こうした短所を解消できそうな技術をいくつか紹介しよう。

水素で走る燃料電池車

水素で発電する燃料電池(FC:Fuel Cell)を搭載するEV、燃料電池車(FCV、FCEV)はどうだろう。FCからの電力をバッテリーに蓄え、そのエネルギーでモーターを動かして走る自動車だ。

エンジンで作った電力や、制動時にモーターから得た回生電力を利用するハイブリッド車(HV)と似ているが、FCは発電時に水しか排出しない。その点で、FCVはEVと同じくらいクリーンといえる。

ただし、水素がくせ者だ。常温では極めて軽い気体なので、貯蔵しにくく、燃料としてFCVへの大量搭載は簡単でない。空気中の酸素と混ざると爆発的に燃焼することもあり、取り扱いも難しい。そのうえ、水の電気分解で水素を製造すると、大量の電力を消費する。決してエコな燃料ではない。

水素を効率よく吸着する金属といった打開策も研究されているものの、現在の技術では課題が多い。

実用化が待たれる全固体電池

リチウムイオン・バッテリーの代わりに全固体電池を採用しようとするアプローチもある。

全固体電池とは、リチウムイオン・バッテリーの一種だが電解液を使わず、すべて固体の電解質材料で作られている。液漏れが発生しないため安全性が高く、発火などのトラブルが起きない。エネルギー密度も高く、フル充電時の航続距離を従来のバッテリーより伸ばせる可能性がある。低温や高温に比較的強い点もメリットだ。

自動車メーカーなどは、全固体電池に注目している。たとえば、フォルクスワーゲン(VW)は全固体電池を開発する米国企業のクワンタムスケープに1億ドル(約111億円)出資し、EV向け電池の実用化に本腰を入れた。

ここで取り上げた技術のなかで、実用化にもっとも近いとみられている。

夢のようなスーパーキャパシタ

スーパーキャパシタは、電子回路で使われるコンデンサーを巨大にしたようなデバイス。電荷を保持する性質があるので、バッテリーとして使える。高速に充放電できるため、リチウムイオン・バッテリーと比較にならないほど素早く電力を放出したり、あっという間に充電したりできる。その一方、エネルギーの長時間保持が不得手で、充電容量も少ない。今はまだ実験段階にあり、実用化には時間がかかりそうだ。短所が解決されれば、理想的な夢の技術といえる。

超高級スポーツカーで有名なイタリアのランボルギーニは、マサチューセッツ工科大学(MIT)の協力を得て、その夢の実現に取り組み始めた。カーボン・ファイバー(炭素繊維)ボディをスーパーキャパシタとして使ってしまうスーパーカー「Terzo Millennio(テルツォ・ミッレニオ)」を、共同開発すると発表したのだ。

出典:Automobili Lamborghini / Lamborghini Terzo Millennio: A Future Vision and Dream Based on the Collaboration with MIT

とても興味深いプロジェクトで、期待は大きい。ただ、完成したところで我々の手に届くような値段では販売されないだろう。

未来の道路はワイヤレス給電式?

さらに夢のような取り組みもある。スマートフォン用LSIメーカーとして知られるクアルコムが開発中の、EV向けワイヤレス充電システム「Qualcomm Halo」だ。

スマートフォンで使われている非接触充電技術の「Qi(チー)」と同じ原理で、電磁誘導を利用して電力をEVへ無線伝送する。Qualcomm Haloの充電パッドを道路へ埋め込んでおけば、走っているEVへ道路から電力を供給できてしまう。つまり、未来の道路を走るEVは、充電のために停車する必要がなくなる。

出典:Qualcomm / Qualcomm Halo

さすがに、すべての道路が給電機能を備える世界の到来は考えにくい。しかし、Qualcomm Halo付き駐車場なら現実的だろう。自宅やショッピングモール、街の駐車スペースに充電パッドが埋め込まれてあれば、そこに停めるだけで手間なく充電できる。現行バッテリーの短所を直接解消するわけでないが、EVの利便性向上には役立つ。

出典:Qualcomm / Qualcomm Halo

EVが急速に普及した理由もバッテリー

国際エネルギー機関(IEA)の調査によると、バッテリーだけ搭載するEV(BEV)とプラグイン・ハイブリッド車(PHV)を合わせた販売台数は、2017年に全世界で100万台以上となり、過去最高を記録した。登録されて実際に走行していると考えられるEVは300万台以上で、2016年の台数より54%増えたという。

出典:IEA / Global EV Outlook 2018

EV利用台数が増えた理由について、IEAは各国政府のEV普及政策、バッテリーの性能向上、バッテリーの価格低下を挙げている。2030年の登録台数は、現状のままでも1億2,500万台に増え、各国のEV普及政策が強化されれば2億2,000万台までになると予測した。

出典:IEA / Global EV Outlook 2018

ただし、EVの鍵を握るバッテリーの弱点が新たな技術で解消されれば、IEAが出したこの予測はよい意味で外れるだろう。予想もしない速度で世界のEVシフトが進行するかもしれない。