36協定とは | 時間外労働・割増賃金の設定・特別条項・届出方法

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記事の情報は2018-09-25時点のものです。

36(さぶろく)協定の届出がなかったり、曖昧な表現の協定書を提出したりすると、労働基準監督署の指導が入り、最悪の場合は労働基準法違反になることも。残業をするには事前に36協定を締結して届け出ている必要があります。長時間労働が問題視されている今確認しておきたい36協定とは何か?時間外労働時間の上限と届出方法も含めて解説します。
36協定とは | 時間外労働・割増賃金の設定・特別条項・届出方法

36協定とは

36協定とは、労働基準法第36条で定められた時間外および休日の労働についての労使協定のことです。

正式名称は「時間外・休日労働に関する協定届」と言い、労働基準法第36条をもとにした協定のため、通称「36(さぶろく)協定」と呼ばれています。

労働基準法第36条では、1日8時間・週合計40時間の法定労働時間を超える労働や、休日が週に1度もない場合にはあらかじめ事業主と労働者(もしくは労働者の代表)が書面による協定を結び、労働基準監督署に届けなければなりません。

届出をしないで法定労働時間以上の労働や、法定休日外の労働をさせると、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる労働基準法違反となります。(労働基準法第119条)

時間外労働の上限時間

36協定を結んだからといって、いくらでも残業や休日労働を課していいわけではありません。時間外労働には決められた上限があるので、どのくらいまで認められているのかを覚えておきましょう。

上限時間の原則

36協定で定められている時間外労働には、以下のとおり上限があります。

期間 1週間 2週間 4週間 1か月 2か月 3か月 1年間
上限時間 15時間 27時間 43時間 45時間 81時間 120時間 360時間

(例)1週間でやらせていい時間外労働時間は15時間までですが、2週間の合計は27時間を超えてはいけません。よって、最初の1週間で15時間の時間外労働をした場合には次の週は12時間までしか時間外労働をさせられないのです。

この上限時間は労働基準法で定められているわけではないため、法的拘束力はありません。しかし36協定を結び提出した場合は、労働基準監督署に厳しく管理・指導されます。

また例外として、下記の4つの業務には上限時間は適用されません。

  • 工作物の建設等の事業
  • 自動車の運転の業務
  • 新技術、新商品等の研究開発の業務
  • 厚生労働省労働基準局長が指定する事業または業務

上記4業務に加えて、2019年4月施行予定の改正労働基準法の中で「医師」も追加される予定です。ただし医師のみ、施行後5年以内に時間外労働の上限時間を適用できるように、環境を整える計画があります。

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上記の4つの業務は、「新技術、新商品等の研究開発の業務」を除き、「働き方改革実行計画」をふまえて今後上限時間が設けられる方向で検討されています。

変形労働時間制における上限時間

変形労働時間制とは、月・年単位で時間外労働時間の上限を定められる制度です。労働時間を1か月単位か1年単位のどちらかで設定でき、上限時間は以下のようになります。

期間 1週間 2週間 4週間 1か月 2か月 3か月 1年間
上限時間 14時間 25時間 40時間 42時間 75時間 110時間 320時間

仕事によっては、法定労働時間に定められた「1日8時間以内・週合計40時間以内・週1日以上の休み」の働き方では成り立たないことがあります。

たとえば月の上旬が忙しく、下旬は閑散期となる場合、上旬1週間で時間外労働の上限を超えてしまったとしましょう。その代わり下旬は時間外労働がないので、1か月単位で見ると時間外労働は上限内に収まります。

このように繁閑の差が激しい業務は、「変形労働時間制」として36協定を結びましょう。

危険有害業務の上限時間

36協定で1日の時間外労働の上限は、原則として設けられていません。しかし一部の化学物質リスクのある「健康上有害な業務」を危険有害業務として、時間外労働は1日2時間までを上限としています。

危険有害業務は労働基準法施行規則第18条で、以下のように指定されています。

  1. 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
  2. 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
  3. ラジウム放射線、エックス線その他の有害放射線にさらされる業務
  4. 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
  5. 異常気圧下における業務
  6. 削岩機、鋲びよう打機等の使用によって身体に著しい振動を与える業務
  7. 重量物の取扱い等重激なる業務
  8. ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
  9. 鉛、水銀、クロム、砒ひ素、黄りん、弗ふつ素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリン、その他これに準ずる有害物の粉じん、蒸気又はガスを発散する場所における業務
  10. 前各号のほか、厚生労働大臣の指定する業務

出典:電子政府の総合窓口e-Gov「労働基準法施行規則」第18条

36協定の特別条項

変形労働時間制を用いても、突発的に時間外労働の上限を超えてしまう可能性があります。そのような場合のために、36協定では特別条項を付帯できるため、特別条項についても押さえておきましょう。

特別条項を付帯する理由

予想外の受注や想定外のトラブル・クレームなどで、突発的に業務量が増えることがあるかもしれません。そのようなときに事業主は、労働者に時間外労働の上限を超えて働いてもらわなければならなくなります。

特別条項は特別な事情がある場合に限り、例外的に時間外労働の上限を超えても良いとできる条項です。非常時に備えて「特別条項付き36協定」を結ぶ企業もあります。

特別条項の設定条件

特別条項さえあれば、際限なく時間外労働をしていいわけではありません。上限時間を超えて労働が許されるのは、年間6回までです。またその期間は「1年の半分を超えてはいけない」とされています。

特別条項では、例外的な「特別な事情」を具体的に詳細に書かなければならず、「必要な場合」や「突発的に発生する業務」などといった曖昧な表現では認められません。

また2019年4月1日施行予定の改正労働基準法では、例外的に時間外労働の上限時間を超える場合にも、限度時間が設定される予定です。

届出の方法

従業員に時間外労働をさせる場合は、36協定を結び労働基準監督署に届けなければなりません。ここからは36協定に関する書類の届け方について説明します。

必要書類

36協定の書類は「時間外労働/休日労働に関する協定届様式第9号(第17条関係)」といい、会社単位ではなく、支店や工場などの事業所単位で提出します。

協定届は厚生労働省や各都道府県労働局、労働基準監督署のホームページから無料でダウンロードでき、PDF形式とWord形式が選べるので、手書きでも入力でも作成が可能です。

管轄する労働基準監督署の窓口に提出もしくは郵送しますが、電子申請システムを利用してオンラインでの提出も可能です。

書類は2部作成して提出すると受付印が押され、1部が控えとして返却されるので、3年間保管します。

項目

協定書にはどの業務で、どの職種・職位の従業員に、どれくらいの時間外労働をしてもらうかの記載が必要です。

記載が必要な主な項目は下記のようになりますが、各都道府県労働局のホームページに見本があるので、それを参照すれば作成できます。

  • 時間外労働が必要となる具体的事由
  • 時間外労働が必要となる業務の種類
  • 時間外労働が必要な労働者の数
  • 1日の時間外労働の時間
  • 1日を超える一定の期間の時間外労働の時間
  • 協定の有効期間
  • 所定休日と所定労働時間、始業・就業時刻

労働者代表

36協定を締結するにあたって、労働者の過半数の署名捺印が必要です。代表者は、立候補や投票などの方法で選ばなければなりません。

会社が指名したり、一部の人が「一番古株だから」、「新人だから」という理由で勝手に決めたりしてもいけません。協定届には選出方法を記入する欄があるので、適正な選出方法で決めましょう。

残業による割増賃金

36協定を締結しても残業は残業であることには変わりありません。残業した分、割増された賃金が発生します。

割増賃金は、平成22年4月施行の「時間外労働の限度に関する基準」の改正によって、割増率が引き上げられました。ここからは割増賃金の計算方法について説明します。

法定労働時間を超え60時間まで働いた場合

法定労働時間を超えて時間外労働が60時間以内になった場合は、割増率は通常賃金の1.25倍となり、午後10時~午前5時までの深夜労働は1.5倍となります。

また月45時間~60時間の時間外労働には1.25倍以上の割増率が義務付けられています。

時間外労働の時間×1時間あたりの賃金(円)×1.25

法定労働時間を超え60時間以上働いた場合

平成22年に労働基準法が改正され、1か月あたり60時間を超える時間外労働は1.5倍の割増賃金に、深夜労働の割増率は1.75倍に引き上げられました。

ただし中小企業に限り、平成31年3月まで割増率の引き上げは猶予中です。

時間外労働の時間×1時間あたりの賃金(円)×1.5

※深夜時間がある場合は、掛け率は1.75となります。

この改正の目的は、月の時間外労働が60時間以上にならないようにするためです。事業主側も労働者側も、残業時間が月60時間以下になるように努めなければなりません。

36協定を意識した職場づくりを

当たり前となることも多い残業ですが、労働基準法第32条では「1日に8時間を超えて労働させてはならない」、「1週間に40時間を超えて労働させてはならない」と定めています。

36協定を事業主と労働者の間で締結することは、残業に関して余計なトラブルを回避し、長時間労働を防ぐために重要です。しかし36協定を結んだからといって、上限なき残業が認められるわけではなく、事業主も労働者も労働時間が短縮されるように努めなければなりません。

政府は働き方改革の一環として2019年4月には改正労働基準法を施行します。今後、長時間労働について行政指導がより強化されることが予想されます。

まずは36協定を締結するまでに入念な準備と下調べをして、従業員たちにどのように働いてほしいのかを考えることが重要です。