コンパクトシティとは | メリット、事例、日本での成功例

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記事の情報は2018-09-28時点のものです。

人口減少や少子高齢化を背景に「コンパクトシティ」が注目を集めています。コンパクトシティとは、これまで拡大してきた居住エリアを特定のエリアに集中させることによって都市機能を維持しようという考え方です。コンパクトシティ化するメリットや、富山市、青森市の事例を紹介するとともに、課題や懸念点にも言及。コンパクトシティはこれからの日本で普及するのでしょうか。
コンパクトシティとは | メリット、事例、日本での成功例

コンパクトシティとは

コンパクトシティとは、都市の中心部に住宅や商業、行政機能などを集約させた都市形態のことを指します。

コンパクトシティは1990年代からヨーロッパで提言されていた都市のありかたです。日本でも都市部が無秩序に開発されるスプロール現象や少子高齢化などによって従来の生活圏を地域で維持することが困難になったことにより、昨今注目されています。

実際にコンパクトシティ化した都市の事例もあり、コンパクトシティを目指している自治体も見られます。

コンパクトシティをめぐる現状

なぜ日本でコンパクトシティが注目されているのか、その背景や目的、行政の活動などを詳しく見てみましょう。

普及の背景にある危機感

コンパクトシティが注目されている背景には、これまでの都市を維持できるのかという危機感があります。

人口増加とともに日本各地で都市部を中心に都市開発が進みました。今後日本では少子高齢化の局面を迎えることで、地域の税収は減少しインフラを維持するのも困難になっていくと予想されます。

このようななかで人々の生活を維持できるのかという危機感から、コンパクトシティに注目が集まっています。

目的は「都市機能の維持」

コンパクトシティの目的は都市機能の維持です。

人口増加局面で開発した都市インフラを維持するには膨大なコストがかかります。住民が点在していると、道路や上下水道の整備、公共交通サービスなど生活環境を整えるためのさまざまなコストが広範囲にわたって発生します。

今後、人口が減少することを念頭に置いて、人口に合わせた行政サービスやインフラを低コストで維持できるように都市の機能を集約し、都市機能を維持するのがコンパクトシティの目的です。

行政もコンパクトシティ形成を後押し

行政も地方の生活インフラを維持するためにコンパクトシティの形成を支援しています。

たとえば、国土交通省がまとめているコンパクトシティ化のための支援内容によると、コンパクトシティ化にあたって、地域公共交通や子育て支援、都市農業や住宅政策、学校教育など複数の項目に対して国から地方に対する支援が用意されています。

さらに、2019年度からはコンパクトシティ推進のために、スポーツ施設の移転も支援対象とすることが発表されました。今後さらに積極的な助成を行っていくことも考えられます。

コンパクトシティのメリット

上述したように社会的な理由からコンパクトシティが注目され、政府もコンパクトシティの形成を後押ししています。コンパクトシティにはどのようなメリットがあるのでしょうか。

移動時間の短縮

街の規模を小さくすることによって移動時間が短縮できます。

移動時間が短縮できるということは、住民の生活が効率化されるだけではありません。自動車による二酸化炭素の排出量の削減や道路の整備コストの削減といった面からも波及的な効果が得られます。

行政サービスの充実

市域がコンパクトになることで、行政サービスも充実させやすくなります。

住民の居住エリアが集中すると、学校や公民館などの公共施設は少数で済み、役所の出張所なども設ける必要がありません。さらに移動が難しい人のための乗り合いバスなども限られたエリアだからこそ運行しやすくなります。

仮に同じコストを投下するのと比べても、狭いエリアに行政サービスを集中させた方がその質は高くなると考えられるのです。

コミュニティの活性化

人口密度をあげることによってコミュニティの活発化も図れるとされています。

居住地がバラけていると特に高齢者などは移動が困難となり、対面でコミュニケーションをとることが難しく、結果的にコミュニティが形成されづらくなります。生活圏を集約するからこそ、自然と対面でのコミュニケーションが取りやすくなると考えられているのです。

コンパクトシティの懸念点

もちろんコンパクトシティ化によってもたらされるのはメリットだけではありません。どのようなデメリットがあるのでしょうか。

居住地域の制限・郊外の過疎化

一定の地域に住民を集めようとすると、居住地域の制限をしなければならない可能性があります。居住地域の制限を行うと住民の居住の自由は制限されてしまいます。もちろん、居住制限の対象となったエリアに住んでいる人には受け入れがたいことでしょう。

また、居住制限を設けなかったとしても、住民を特定の地域に集めるとその他の地域からは住民が流出し、人口の二極化が進行すると考えられます。残った住民をどうフォローするかも課題に挙がっています。

地価の二極化

人口の二極化に関連して、地価も二極化する可能性があります。居住エリアとなるコンパクトシティ内は需要が多くなるので地価が高騰する一方で、コンパクトシティ外の土地は地価が下落することが考えられます。これによりコンパクトシティ外の土地の所有者からは強い反発が予想されます。

居住環境の悪化

居住環境の悪化も懸念されています。狭い地域に住民が密集することによって、生活騒音やプライバシーの問題といった“ご近所トラブル”が発生しやすくなると考えられます。

密集具合にある程度余裕があったときには気にならなかったことが問題となり始め、トラブルも含めて居住環境が悪化する可能性があります。

自治体にとってコンパクトシティ化は、現状の課題を解決でき得る手段でありながらも懸念点が多く、導入に踏み切れない面もあるのです。

コンパクトシティの実施事例

とはいえ、コンパクトシティを実施している自治体もあります。上述したメリット、デメリットを踏まえて、どのように実現したのでしょうか。富山市と青森市の事例を紹介します。

富山市

コンパクトシティの事例としてまず挙げられるのが富山市です。富山市では2000年代からコンパクトシティ化に取り組んでおり、官邸の選ぶ地域活性化モデルケースに選定されたり、OECDのコンパクトシティ報告書の中で先進的な事例として取り上げられたりと、高い評判を得ています。

富山市では高齢化社会を見据えて、公共交通を軸にしたコンパクトシティ化を図りました。鉄道駅や路線バス停留所の徒歩圏内となるエリアを「お団子」とし、この「お団子」を「串」にあたる公共交通でつなごうというのが、富山市が実施したコンパクトシティのコンセプトです。

「串」として、利用者の落ち込むJR富山港線を「富山ライトレール(愛称ポートラム)」と呼ばれるLRT(次世代路面電車)へと再生、「お団子」の周辺へと居住を促す施策を行いました。結果、「お団子」周辺は転入超過に転じたといいます。

青森市

青森市も日本におけるコンパクトシティ化の事例として紹介されることが多い自治体です。青森市では市内を「インナー」「ミッド」「アウター」の3種類に分類して、それぞれに都市整備の方針を変えています。

具体的には、インナーが重点的に開発を進める密集地街などの地域、アウターは都市化を抑制して自然や営農環境を保全する地域、ミッドが両者の中間で住宅地供給のストックエリアとなります。

2001年、青森駅前に複合型商業施設「アウガ」をオープン。開業当初は多くの人が詰めかけました。ただしその後、経営不振から運営する第三セクターが経営破綻し、当時の市長が引責辞任しています。決して成功とはいえない事例ともいわれています。

行政だけでは実現できない

成功例とされる富山市、失敗例ともいわれる青森市。明暗をわけたようにも思われますが、共通した課題もあります。それは、コンパクトシティは行政単体では実現し難いという点です。

例えば買い物面をみると、アウガだけでなく、富山市の中心街でも苦戦しているといいます。その要因の一つが郊外に次々と出店する民間の大型ショッピングセンター。行政の権限にも限界があるといわれています。

コンパクトシティは浸透するか

生活機能を集中させる「コンパクトシティ」が少子高齢化や過疎化などから注目されています。富山市や青森市のように導入した自治体もあり、政府も積極的に推進。今後もコンパクトシティ化を進める地方自治体は現れるでしょう。

居住を特定エリアに集中させることで、インフラ整備などのコストを削減でき、また住民サービスの向上につながるとされる一方で、中心地と周辺エリアの二極化が進み住民の反発が予想されるなど、課題もあります。

コンパクトシティ化への思いはありながらも、実現への「正解」を見いだせていないのが現状ではないでしょうか。浸透にはまだ課題が山積していると考えられます。