正社員・月給20万円でも「最低賃金以下」に堕ちる日本

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2018年の最低賃金は全国加重平均で26円上昇しました。このままいくと、来年には首都圏の時給は1000円を超える見込みです。これをアルバイトだけの問題と捉えている方は要注意。今回は、正社員の月給に視点を向けて最低賃金を考えたいと思います。

正社員の最低賃金問題の解決策

あなたがもし人事であれば、あるいは人事以外の従業員であったとしても、最低賃金に抵触している・いまにも抵触しそうな場合は、その解決策に意識を向けるべきでしょう。最低賃金上昇にともなう正社員の最低賃金問題は、企業側もうっかりスルーしている可能性も否めません。以下に2つの解決策を提示しますので、ぜひ解決の道筋を探してみてください。

地域手当の創設

日本各地に拠点をもつ会社が、最低賃金にあわせて月給の見直しを検討する場合には、基本給を見直すより、地域手当を創設することをお勧めします。

なぜなら、最低賃金は地域別の生計費の差も考慮した金額設定となっているので、東京の水準にあわせて全社の基本給を見直してしまうと、会社が意図しない形で東京在勤者と地方在勤者で実質的な生活の余裕に差が生まれてしまうことがあるからです。

その点、勤務する地域によって別途手当を支給する形をとれば、この差を抑制することができ、転勤にも柔軟に対応することができます。

就業規則の規定例
第〇条 地域別の生計費の差を考慮し、以下の地域に勤務する社員に対し地域手当を支給する。
勤務地域
金額/月
東京・神奈川・愛知・大阪
30,000円
埼玉・千葉・静岡・京都・兵庫
20,000円
北海道・茨木・栃木・富山・長野・岐阜・三重・滋賀・広島
15,000円
群馬・石川・福井・新潟・山梨・奈良・和歌山・岡山・山口・福岡
10,000円

昇給時期の検討

毎年1回、春先に給与の昇給を行っているという会社は多いと思います。もし、ここ数年10月の最低賃金上昇にあわせて、10月にも臨時に賃金の見直しを余儀なくされているという会社は、最低賃金の上昇を予測し、前もって予測分を加味した給与の昇給を行うとよいでしょう。

せっかく春先に評価に基づく昇給を行っているのに、10月にも最低賃金にあわせて追加で昇給を行わざる得ないという状況が続くと、社員の士気に影響しますし、次の昇給検討時には評価と給与の全体バランスが悪くなってしまっています。

また、臨時に昇給を行うことは給与改定通知の交付や給与計算の面からも手間の増加につながります。

前述のとおり次年度も最低賃金は3%前後の上昇が予測されますので、例えば、春に3000円昇給し、再度10月に最低賃金をクリアするために2000円昇給するくらいであれば、春の段階で全体のバランスも加味しつつ、あらかじめ5000円の昇給を検討してはいかがでしょうか。

「初任給の見直し」と競争力強化の最新事情

最低賃金はクリアできているという会社でも、正社員の初任給はここ数年ほとんど見直していないという企業は未だ多いようです。

厚生労働省「賃金構造基本統計調査(初任給)」によると、男女計の初任給は、すべての学歴で4年連続増加とありますが、大卒初任給の上昇率は前年比1.3%と決して高くはありません。中小企業に限定すると1%にも達していません。

一方、最低賃金の上昇率は3%、月給に換算すると5000円程度上昇しているのです。初任給の見直しを怠っていては、いつの間にか最低賃金法違反企業に転じるリスクもあるので注意が必要です。

また、最低賃金の上昇とサービス業の深刻な人出不足により、アルバイトの時給相場は上昇が止まらない現状があります。ここには、新入社員の早期離脱リスクが潜んでいます。

一度は就職したものの、拘束される時間換算で計算してみて「もしかして学生時のアルバイトの方が稼げていた?」と気持ちが揺らいでしまう若者はあとを絶ちません。若者のワークライフバランスへの要望やキャリア観が大きく変化したいま、多大な採用コストをかけて"獲得"した人材の流出を防止するためにも、初任給の見直しは急務といえるのではないでしょうか。

究極の解決策は、「初任給」という概念を無くすこと。以前から、初任給という考え方がない外資系の企業はありましたが、実はいま、日本企業でもサイバーエージェントやメルカリなど、一律初任給を廃止したという会社は少しずつ増えています。

背景にあるのは、総合職採用の時代から職種別採用への移行です。例えばシステムエンジニアといった専門職では、新入社員のなかでも入社の段階で保有スキルに大きく差があるケースは多く、優秀人材の不満につながる要素です。また、内々定から入社まで1年近い期間があるため、その間インターンとして会社で経験を積む学生も増えています。

こういった環境下にも関わらず、正社員入社時にだけ適用される初任給という横並びの給与形態を維持する必要性は薄れつつあります。

また、最低賃金も人材不足も「外的要因」と割り切って、「都度対応」で乗り切っていくようでは、いずれ会社の成長は鈍化するでしょう。欧州では最低賃金が日本円換算で1000円を超える国もあり、日本の最低賃金もまだ上昇傾向は続くと予想されています。

企業は魅力的な人材の採用や定着のため、既存社員の昇給と初任給の見直しは定期的に行うべきです。そして働き手もまた、自身の市場価値を知り適正な対価を得られるよう交渉する強さを備えるべきなのではないでしょうか。

(参考資料)
2018年最新版 地域別最低賃金一覧
https://pc.saiteichingin.info/table/page_list_nationallist.php

2018年最新版 特定(産業別)最低賃金一覧
https://pc.saiteichingin.info/table/page_indlist_nationallist.html

(注)最低賃金には、地域別最低賃金の他に特定(産業別)最低賃金があり、どちらか高い方が適用になります。

賃金構造基本統計調査(初任給)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/17/dl/01.pdf