スマートメーター時代が来る 導入メリットと不安を整理

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記事の情報は2018-10-05時点のものです。

電気、ガス、水道の使用量を計測するスマートメーターが普及してきた。通信機能と各種制御機能を備えるスマートメーターは、コスト削減や安全向上、省エネといったメリットが期待され、将来のスマートシティへつながる重要な技術である。一方でセキュリティなどへの不安もぬぐえない。スマートメーター時代が訪れたときにすぐ活用できるよう、今のうちに準備しておきたい。
スマートメーター時代が来る 導入メリットと不安を整理

もう実用段階に入ったスマートメーター

東京都の小池百合子知事が、都内で先日開催された国際水協会(IWA)世界会議の基調講演に登壇し、一般家庭向けスマート水道メーターの大規模な実証実験を行うと発表した。産経新聞の報道によると、2025年をめどに「都心や郊外など複数の地域にスマートメーター約10万個を設置」し、検針を自動化するとともに、「水圧や水流、使用量などの状態をリアルタイムで確認できる」ようにして、効果を検証する。

スマートメーターとは、水道のほか電気やガスといったインフラの使用量を計測する機器に通信機能を付加し、遠隔地からの検針や制御を可能にしたデバイス。未来の話に思えるが、電力会社やガス会社は従来型メーターからスマートメーターへの交換を着々と進めている。

たとえば、東京電力は2020年度までにサービスエリアの全契約者を対象としてスマートメーター約2,900万台の設置を計画している。現在はすでに「開発フェーズから運用フェーズに移行」しており、「スマートメーターシステムの安定運用等」に取り組んでいる、という状態だ。2020年に開催されるオリンピックとパラリンピックの選手村では、閉幕後に共同住宅へ転用される施設で、電気とガス、水道用のスマートメーター設置が予定されているそうだ。

出典:東京電力 / スマートメータープロジェクト

試しに筆者の自宅を確認したところ、電力とガスのメーターはすでにスマート化されていた。

筆者宅の電気とガスのメーターはスマート化済み

スマートメーターには多くのメリットが

従来の計測機器からスマートメーターへの変更には、かなり多くの手間とコストがかかる。それでも電力会社やガス会社、水道事業を担っている自治体がスマートメーターに積極的なのは、大きな長所があるからだ。もちろん、利用者側にもさまざまなメリットがもたらされる。

人海戦術の検針作業が不要

スマートメーターを導入する一番のメリットは、メーターの設置場所へ出向かず検針できることだろう。電力会社やガス会社の検針スタッフが契約者宅を1軒1軒回り、目視で数値を調べずに済む。これによるコスト削減効果は非常に大きく、電気料金などの低下につながる可能性もある。

遠隔地で使用量を調べられるうえ、検針から料金算出、請求までの処理をすべて自動化できる。人間によるメーター読み取りとデータ入力の作業が不要になるため、料金誤請求の根絶にもつながる。これは、インフラ提供者と契約者の双方にとってありがたい。

計測器が部外者の入れない場所に設置されているような場合、これまでだと契約者が検針への立ち会いを求められた。スマートメーターになれば、このような不便も解消される。

安全向上、高齢者の見守り、障害からの迅速な復旧

スマートメーターは、電気やガスの使用量を計測するだけでなく、使用停止、再開などの制御も遠隔操作で可能だ。電力用スマートメーターなら、一般的に回路の接続と切断、契約容量(契約アンペア)の変更といった機能を備えている。ある程度の容量変更は、電話やネットで申し込めば技術的にはその場で変更でき、従来のメーターと違って手間いらずだ。寒さの厳しい冬のあいだ電気ストーブを使いたいので一時的に容量を増やす、という柔軟な電力サービスが実現されるかもしれない。

こうした制御機能は、漏電や容量超過、ガス漏れ、漏水のような事態に素早く対応することで、事故防止に役立てられる。使用データの変動を継続的に解析し、設備の老朽化具合を調べたり、一人暮らしの高齢者を見守ったりすることにも活用できる。

さらに、地震や洪水、台風などで発生した停電や断水の後も、より細やかな復旧が可能になる。契約施設ごとに安全を確認しながら順次復旧させていけば、通電火災や二次的なガス漏れ、漏水を防ぎつつ、速やかに被災地のインフラを復旧させられる。

省エネ、V2G、スマートシティにも期待

従来のメーターで電気やガス、水の消費量を細かく計測することは難しかった。これに対しスマートメーターは、リアルタイムにデータを取得できる。このデータから消費パターンを分析すると、特定の曜日や時間帯に消費が集中しているかなどを把握して、エネルギー利用の効率化につなげられる。

住宅内のエネルギー管理システム「Home Energy Management System(HEMS)」やウェブサービス連携技術「If This Then That(IFTTT)」と組み合わせ、太陽光発電と連携させたより高度なエネルギー消費管理なども可能になっていくだろう。

停電時などに電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)の電力を電力会社へ提供する「Vehicle to Grid(V2G)」なども、スマートメーターとの連携が鍵だ。そして、スマートシティまで視野に入れて都市全体のエネルギー利用を考えると、スマートメーターは欠くことのできない存在である。

2022年には世界で1兆円超の市場規模に

調査会社GlobalDataによると、スマートメーター市場は順調に拡大を続けており、2022年の市場規模は世界全体で104億ドル(約1兆1,800億円)に達するという。スマートメーターに対する期待の高さがよく分かる。

不安材料もくすぶる

ただし、高い期待の一方、スマートメーターにも不安材料が当然ある。

1つ目は、プライバシーの問題だ。電気やガスの利用状況を細かく分析すれば、在宅しているか外出しているかどころか、家族構成などもある程度は推測できる。生活パターンなど、丸裸にされてしまう。もちろん事業者はこの種のデータを厳重に管理するだろうが、サイバー攻撃で盗まれることはあり得る。データが外部へ流出したとしても、契約者の特定を防ぐ方策が必要だ。

2つ目は、セキュリティの問題だ。スマートメーターは通信機能を備えており、一種の「モノのインターネット(Internet of Things:IoT)」デバイスとみなせる。外部からの通信を受け付ける以上、いつ攻撃されてもおかしくない。その結果、命綱である電気やガスが使用不可能な状態に陥れられる可能性も考えられる。

IoTデバイスのセキュリティに対する弱さは、以前から指摘されている。プライバシー問題への対応も、事業者側の対策だけでなく、スマートメーターのセキュリティ確保が重要だ。スマートメーター普及時に利用されるであろう次世代モバイル通信方式「5G」や低消費電力の広域無線ネットワーク「Low Power Wide Area(LPWA)」も、新しい技術なので導入前に慎重な検証が必要だろう。

スマートメーターは地味な技術だが、IoTや5G、LPWA、スマートシティなどとともに我々の生活を大きく変え、持続可能な社会の実現に貢献してくれるはずだ。設置率は高くなって来ているので、一気にスマートメーター時代が訪れるかもしれない。そのときにすぐ活用できるよう、今のうちに準備しておきたい。

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