フードテック(foodtech)とは | 農業・流通・飲食、テクノロジーで食が変わる

最終更新日: 公開日:

記事の情報は2018-10-24時点のものです。

最新ICT技術を「食」の領域に適用させた「フードテック」。フードテックは、農業生産や流通、外食産業などだけでなく、次世代の食品開発などさまざまな分野で幅広く取り組まれています。人口増によりクローズアップされている世界の食糧問題。今後さらに深刻化するだろう食糧問題を解決する糸口になるのが、フードテック領域の取り組みだといわれています。フードテックとはどういった分野で貢献しているのか。具体的にどんな取り組みがなされているのか。テクノロジーで食の未来を変えるフードテックについて解説します。
フードテック(foodtech)とは | 農業・流通・飲食、テクノロジーで食が変わる

人類が直面する食料不足、そして食の流通に関する問題。これらを解決する可能性を秘めた「フードテック(foodtech)」は、世界を大きく変える技術として注目されています。フードテックとは、どういうもので、どんな可能性があるのでしょうか。

フードテックとは

フードテック(foodtech)とは、食品関連サービスとICT技術を融合した新しい分野を示す言葉です。フードテックはさまざまな領域にわたりますが、国内外を問わず多くの企業がへ取り組みを行っています。

国内では、ベースフードが販売を開始した「ベースパスタ」と呼ばれるものがあります。これは、厚生労働省が定める人間に必要な栄養素31種をパスタに練り込んだもので、忙しいビジネスパーソンなどをターゲットとしています。

フードテックは投資家を動かす

フードテックは多くの投資を呼び込んでいます。

インドやアメリカなどではフードテック関連のスタートアップ企業などへの積極的な投資が行われており、これらの国では、技術的観点だけでなく菜食主義者などの一定需要が見込めるという事情もあるとされています。

日本では、oisixの戦略投資部門「フードテックファンド」が2016年に設立されており、栄養学や味覚に関する研究・技術、食とヘルスケアに関する研究などフードテックに関連した分野への投資・提携を行っています。

フードテックの代表例「分子ガストロノミー」

フードテックの代表例として挙げられる領域が「分子ガストロノミー(分子調理法)」です。分子ガストロノミーは、食材を分子単位まで細分化して研究したうえで、粉砕し、泡にすることで、味や香りを損なわない調理をするといったことを可能にしたものです。

たとえば「液体窒素」を用いた食材の粉砕や、「大豆など植物性の材料を使った食肉性の食べ物の再現(いわゆる大豆で作られた肉/大豆ミート)」といったことが行われています。

フードテックの領域とジャンル

分子ガストロノミーにみられるように、フードテックはさまざまな領域に及んでいます。下記ではフードテックの領域をより詳細に解説します。

生産領域

「生産領域」とは、文字通り食料を生産する農業に関わる部分です。これは、「Ag tech(アグテック)」とも呼ばれる農業へのICT利活用領域に大きく関連するもので、農家や農業全体、さらには食料問題の解決など非常に幅広い領域に影響を与えるものです。

生産領域に関連するサービスとしては、日本では以下の2つが知られています。

  • みどりクラウド
    セラクが提供している農業を支援するサービス。ほ場環境をクラウドで一元的に監視し、異常発生時などに警告を発する

  • ロボットトラクター
    ヤンマーが提供しているもので乗車せずタブレットで操作できるトラクター。これまでより少ない人数で効率よく農作業ができる

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流通領域

「流通領域」は小売販売店などへの流通に関する領域です。鮮度維持や非効率な運搬といった課題を抱えていましたが、ICT活用により、需要にマッチしたサービスを提供できるよう取り組みがなされています。

具体的なサービス例としては、以下の2つがあります。

  • 八面六臂(はちめんろっぴ) 八面六臂が提供している飲食店向けECサービスで、既存の流通業者が苦手とする「少量」「生鮮」といった食品をITを活用して飲食店に効率よく販売している
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  • UberEats ライドシェアのUberが提供しているデリバリーサービス。登録飲食店のメニューを一般の配達員が届けてくれるもので、シェアリングエコノミー領域でも注目されている

中食・外食領域

長期的な不景気などによる不可分所得の減少などから、外食需要が減り、調理されたものを自宅などに持ち帰る「中食」が増えています。減少する外食産業の需要を中食ニーズに転換する方法の一つとして、下記のようなサービスが行われています。

  • Eatsa
    米国サンフランシスコにある「無人レストラン」。タブレットで注文すると料理が自動で作られ、持ち帰れるかたちで提供される。注文時に好みの味などを回答することで顧客にあわせてカスタマイズできる

  • LES COMMIS
    仏パリにある料理キット専門店。一流シェフの料理が調味料なども込みでキットとして売られており、宅配もしてくれる

次世代食品領域

食品そのものをテクノロジーで変えていく「次世代食品領域」でも、フードテックの取り組みは始まっています。たとえば、以下のようなサービスがあります。

  • ビヨンドミート
    ビヨンドミートでは、大豆やエンドウ豆を活用して本物の肉そっくりの商品を提供している。ベジタリアンや健康を気にする人向けに主に定評がある

  • Hargol FoodTech
    イスラエルのスタートアップ企業Hargol FoodTechが開発。代用食とも呼ばれるもので、バッタを使ったプロテインパウダーを販売している

健康食品領域

食から健康を維持するための健康食品領域でもフードテックが活用されています。代表的なサービスとしては、以下のようなものがあります。

  • ベースパスタ
    ベースフードが開発したベースパスタ。厚生労働省が推奨する身体に必要な栄養素31種を練り込み、不足する栄養素を手軽に1食で補える

  • ベースパスタクイック
    ベースパスタには、お湯を入れるだけ3分で食べられる即席カップパスタタイプもある。忙しいビジネスパーソンをはじめ、災害時にもより手軽に栄養を補給できると注目されつつある

調理技術領域

調理器具などの食品の調理に関わる道具についての領域です。調理技術領域でのフードテックの取り組みは、以下のようなものがあります。

  • ロボティックキッチン
    米国のベンチャー・MOLEY ROBOTICS。備え付けのロボットアームが調理や盛り付け、後片付けなどの調理工程を全自動で行う

  • Dr.fly(ドクターフライ)
    Dr.fly(ドクターフライ)は解凍時に食品の水分子の結合を修復し、本来のおいしさを取り戻すよう開発された。味を損なわずに冷凍できると期待されている

注目のフードテック企業5選

ICT技術を活用して食の未来を変えるフードテック(foodtech)。生産や流通から中食や外食などの消費者に関わる領域、そして次世代技術の開発など、フードテックの取り組みは非常に多岐にわたっています。

そんななかでもとくに注目されている取り組みを行うフードテック企業を5つ紹介します。

ベースフード

ベースフードは、健康食の分野で「簡単」「おいしい」「からだに良い」ものを提供し、バランスの良い食事に戻すことで食のトレードオフをなくすことを目指しています。同社のベースパスタはすでに10万食を売り上げるなど順調に業績を伸ばしています。

ルートレック・ネットワークス

土壌環境をモニタリングしAIが自動で液肥供給を判断する「ゼロアグリ」を提供。農業就労者の高齢化や新規就労者の減少が進むなかで、作物の収量拡大や品質向上、省力化の実現を目指しています。

シャープ

調理技術や中食・外食などに関わる部分で、「ヘルシオデリ」というサービスを提供しています。これは、同社のオーブンレンジ「ヘルシオ」向けのプロが作った料理キットを宅配するというもので、温めるだけでプロの味が家庭でも楽しめるようになっています。

ビヨンド・ミート

ビヨンド・ミートは、大豆などの植物性原料で代用肉を作っています。日本進出に際して三井物産が出資するなど、大きな期待が寄せられています。

Uber

Uberが提供するUberEatsは一般の登録者が飲食店の料理を配達するサービスで、日本でも2016年から提供されています。海外でもさまざまな国や地域で使えるようになっており、そのエリアも拡大しています。

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テクノロジーで「食」が抱えるあらゆる課題を解決しようとする、フードテック(foodtech)。ICT技術の発展や、世界の人口増を受けて深刻化する食糧問題を背景に、生産から流通までさまざまな領域で取り組みがなされています。

農業の「見える化」を進めるサービス、注文や調理の自動化で飲食店の人手不足を軽減するサービス、冷凍や配送に関わる新技術で流通を効率化するサービスなど、おもにスタートアップが中心となって新たなサービスや製品が生み出されています。

フードテックが活性化すれば食の未来が大きく変わっていくでしょう。