1000万戸を超える「空き家問題」はなぜ起きた?【現代経営技術研究所・講演取材】

10月17日、現代経営技術研究所の産業事情検討会が開催され「不動産市場予測が映し出す日本社会の未来地図」と題し、講演が行われた。少子高齢化などの影響で、空き家の売却や活用に悩む人は増加しており「空き家バンク」などのサービスも登場している。そもそも、空き家問題の原因は何なのか?専門家講演の取材内容を報告する。

1000万戸を超える「空き家問題」はなぜ起きた?【現代経営技術研究所・講演取材】

10月17日、現代経営研究所の第364回産業事情検討会が行われ「不動産市場予測が映し出す日本社会の未来地図」と題し、講演が行われた。講師はFPオフィスノーサイド代表 橋本秋人(はしもとあきと)氏である。

橋本氏は、32年間ハウスメーカーでアパート・マンション・土地活用などを行った経験を活かし、現在はセミナー講師・コンサルティング・執筆など幅広く活動している。橋本氏によれば、ここ最近空き家問題の相談や講演の依頼は、急激に増えているという。

個人からの相談はもちろん、空き家問題を相談される立場であるFP(ファイナンシャルプランナー)向けの講演依頼も多いという。

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1,000万軒を超える、空き家問題の現状とは

まず最初に、橋本氏は空き家問題の現状について解説した。

総務省「平成25年住宅・土地統計調査」によれば、全国の空き家は820万戸(住宅総数6,063万戸)であり、空き家率は13.5%。約7件に1件は空き家という計算だ。

総務省が出しているのは数年に一度の調査のため、現在はその数はさらに増えていると橋本氏は指摘する。2018年6月に出されている野村総研「2030年の住宅市場と課題」によれば、空き家数はすでに1,000万軒を超えているという。

この調査結果では、2033年には1,955万戸、空き家率は27.3%、4軒に1軒が空き家になると予測されている。

「4軒に1軒という数字は、両隣が空き家、まわりがほとんど空き家という可能性もある。具体的に想像してみると、恐ろしいと思いませんか。」橋本氏は語る。

そもそも「空き家」と一言でまとまっているものの、その種類は複数存在するという。

1.賃貸用住宅の空き家:429万戸
2.売却用の空き家:31万戸
3.二次的住宅の空き家:41万戸
4.その他の空き家:318万戸

2003年から2013年までの増加率でみると、賃貸用の空き家は1.16倍に対し、「その他の空き家」は1.50倍となっており、ここが近年の空き家問題の中でも大きなウェイトを占めているのだ。

「その他の空き家」とは、投資や売却の意思がない空家、活用法のない空き家ともいえるだろう。そもそもなぜ、こうした空き家は増え続けてしまうのだろうか。

空き家増加の理由は少子高齢化だけじゃない

空き家が増加する理由にはいくつもの複雑な要因が存在するという。

一般的には、高齢者が一人で住めなくなり子どもと同居する、施設に移るなどで空き家が発生するというケースが想像しやすい。

出典:国土交通省平成26年「空家実態調査」より

しかし橋本氏の指摘によれば、日本の新築志向の強さが「空き家問題」には大きく影響しているという。

「日本における新築住宅数は年間96万7,000戸。アメリカでは110万戸、イギリスでは26万戸です。日本は人口の割に、新築される住宅が多いのです。

また持ち家志向の調査(※1)では、新築が55.8%、中古住宅が13.9%。住宅流通量の全体の中でも、中古住宅はわずか14.7%(※2)しかない。

ちなみに、アメリカは中古住宅の流通量が83%、イギリスは87%となっています。この数字を見れば、いかに日本は新築志向が強いかがわかるでしょう。」(橋本氏)

※1:平成25年国土交通省「住生活総合調査」
※2:平成26年国土交通省「既存住宅シェアの国際比較」

さらに日本では、新築される住宅数よりも除去される住宅は圧倒的に少ないという。

解体費用がかかること、更地にすると固定資産税が高くなること、そもそも違法建築だった場合に再建築不可になるケースがあるなど、その理由はさまざまだ。

他にも空き家が生まれる理由には、周囲の目が気になるなど気持ちの問題、相続トラブル、残置物などによりそのまま放置されることになるケースもある。

少子高齢化に端を発する個々の家庭の事情と、日本全体にある「新築志向」がこの問題の根底にはある。

空き家のリスクは「経済的なコスト」だけではない

橋本氏によれば、「空き家問題」は所有者だけの問題ではなく、近隣や社会にさまざまなリスクをもたらすという。

もちろん所有者は、固定資産税や管理、修理などに経済的コストを抱える。

また、ごみの不法投棄、雑草や樹木が生い茂る、犯罪や災害に合う、近隣から苦情をうけるなどさまざまなトラブル発生の可能性がある。ここに時間や労力をかけなくてはならないことは、精神的な負担にもなるという。

ただ、それが自分が所有する家ならば「悩みの種だが仕方のないこと」と割り切ることもできるだろう。しかし近隣の住民にとって「空き家」は何のメリットも生まない。

近隣住民は、空き家の倒壊や火災の危険、衛生上の問題、樹木や工作物などの越境、犯罪の危険などにさらされている。しかしさらに影響が大きいのは、周辺の資産価値の低下だと橋本氏は指摘する。

「空き家の中でも、きれいに管理されていればまだいいのですが、老朽化が進みボロボロという状態だと、周囲の美観や景観が害され周辺の資産価値が下がる可能性もあります。

また空き家を売却する場合でも、あまりに安値で売ってしまうと、周辺の売却相場が下がるといった悪影響が出る場合もあります。」(橋本氏)

空き家を所有している人は、「我が家だけの問題」とは言い切れない事実を、認識しておくべきだろう。

国の空き家対策は「アメ」と「ムチ」

空き家が増え続ける社会のリスクは、まるでスポンジのように地域の密度が低下する「都市のスポンジ化」が進むことだと、橋本氏は指摘している。

インフラ整備や維持が難しくなる、地域の美観や景観維持が難しくなるなどさまざまな弊害を生むこの問題。国としても問題を放置しているわけではない。

橋本氏は、これまでの法施策を「アメとムチ」と表現している。

まずムチは、2014年2月に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」。いわゆるゴミ屋敷などの、地域への悪影響が大きい「特定空家等」について最終的に行政代執行が行えるようになった。

また「特定空家等」に指定されると、土地固定資産税などの特例対象から除外され、固定資産税は最大4.2倍になるという厳しいものである。

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一方、2016年4月に施行された「空家に係る譲渡所得の特別控除」はアメの施策だという。

これは2019年12月31日までの譲渡に適用されるもので、他にも諸適用要件をクリアすれば、譲渡所得のうち3,000万円までが控除されるというものである。

しかしこれらの施策の成果をはかる間もないほどに、空き家は増え続けている。対策が追いついていない状況だといえるだろう。

専門家育成に向けた取り組み

また、空き家を排除するだけではなく、空き家の活用や中古住宅流通促進などの施策もあるという。

2015年~2017年にかけて国土交通省が行った「住み替え等円滑化推進事業」では、高齢者の持ち家活用促進や、良質な住宅ストックの供給促進のため、相談体制の整備や専門家の育成に力を注いだという。

また、2018年4月からの「安心R住宅制度」では、中古住宅流通の促進を目的とし、「安心住宅」の認定・標章を行うこととなった。

国土交通省「安心R住宅制度」のページでは、わかりやすく制度を紹介するマンガも公開されている。

新耐震基準やインスペクションを実施するほか、構造上不具合がない、既存住宅売買瑕疵保険に加入できるなど、中古住宅購入を検討している人にとっては後押しとなるものである。

また、2018年国土交通省により「空家対策の担い手強化・連携モデル事業」が進められている。

これは各地域における空き家対策加速のため、全国で人材育成や相談体制の構築、共通課題の解決を図るために、モデル的な取り組みについて支援を行うものである。

2018年5月から1か月間募集を行い、応募は132件。うち58件が選定された。

橋本氏はファイナンシャルプランナーなどへの講演なども多く行っている。顧客から相談を受けても「空き家問題」に対する正しい知識がない人がまだまだ多いのだという。

アメとムチの施策があってもそれを正しく理解できていない、売却したくてもまず何からはじめていいのかわからない、信頼できる専門家がわからない。だからそのままにしてしまう。

それが空き家問題に負の連鎖を招く要因なのかもしれない。

講師:FPオフィス ノーサイド代表 橋本秋人氏。CFP®、1級FP技能士、不動産コンサルティングマスター、終活アドバイザー、定借マスター、福祉住環境コーディネーターなどの資格をもつ、相談・実行支援・講師・執筆活動などを行っている