M字カーブは改善傾向、その背景・経済効果と今後の課題

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M字カーブとは女性の就労状況に関する用語です。年齢階級毎の女性の労働力率は20代、40代をピークに30代で大きく減少するM字の曲線を描いています。これは女性が出産・育児によって一時的に退職していることが理由ですが、日本ではこのカーブが極端であることからライフイベントによる女性の就労継続へのハードル上がることが社会的問題とされています。本記事ではM字カーブの現状や30代の女性の就業率向上のために企業や政府がどのような取り組みをしているのかについて説明します。
M字カーブは改善傾向、その背景・経済効果と今後の課題

M字カーブとは

女性の年齢別の労働力率を示す言葉としてM字カーブという用語があります。M字カーブとは女性の就業率が10代から20代で上がって30代になると減少し、40代で再び増加する、M字型の曲線を描くことを指します。これは女性が結婚、出産などのライフイベントをきっかけとして、一度労働から離れていることを指し、昔と比較してM字のカーブは緩やかになっているものの依然としてM字型自体は解消されていません。

具体的な数値は男女共同参画白書から読み取れます。平成25年版男女共同参画白書によると全体的に女性の労働力率は向上していますが、特に30~34歳の労働力率は昭和50年の43.9%から平成24年には68.6%と大きく改善されました。ただし、女性の労働力率は25~29歳で77.6&、45~49歳で75.7%なので依然としてM字カーブを描いています。

諸外国と比較した女性の労働力率

日本ではM字カーブとなりますが、このような現象は必ずしも諸外国で見られるわけではありません。たとえば、内閣府男女共同参画局が発表している調査によると、韓国では同様の傾向がみられるものの、ドイツやスウェーデン、米国ではM字カーブはほとんど確認できず、むしろ30代の方が女性の労働力率が上昇していることが確認でき、逆M字になっている国も存在が確認できます。

どうしてM字カーブになるのか

どうして日本など一部の国だけで女性の就業率がM字カーブを描くのか、この理由として考えられるのが社会的な慣例です。

近年まで女性は結婚をすると寿退社をして新婚生活や子育てに専念するのが一般的でした。男女雇用機会均等法が公布された後も、こうした慣例は社会通念として残ったまま。現在では、ワークライフバランスや子育てへの積極参加を望む男性も増えてきましたが、大半の女性が「仕事を育児の両立」に対して不安や困難を抱えています。

日本では多くの女性が、30代で迎えるライフイベントを境に仕事内容や働き方を見直し、労働から離れて、子育てがひと段落した40代前後から再び職につくため就業率が上昇します。このような日本の女性特有の働き方がM字カーブの要因となっているのです。

M字カーブが示す課題

では、女性の労働力率がM字カーブとなっていることは、どのような課題を示しているのでしょうか。

出産で退職する人が依然として多い

まず、M字カーブは改善傾向にあることは冒頭で紹介したとおりですが、それでも未だに4割の方が出産を機に退職しているようです。内閣府がまとめた「第1子出産前後の女性の継続就業率」の動向関連データという資料の「出産前有職者に係る第一子出産前後での就業状況」というデータによると改善傾向があるものの、出産前有職者における出産退職率は、46.9%も存在することが示されています。

出産を機に仕事を辞める背景

では、なぜ女性は出産を機に仕事を辞めるのでしょうか。独立行政法人の労働政策研究・研修機構が平成15年に行った「育児や介護と仕事の両立に関する調査」によると、妊娠・出産を機に仕事を辞めた方の約52.0%が家事や育児に専念するために自発的にやめたと示されています。

ただし、仕事を続けたかったけれども仕事と育児が両立できないので辞めた方が24.2%、解雇・退職推奨されて辞めた方が5.6%存在することも示されています。自発的にやめた方々の心理にも、「両立への大きな不安」が隠されていることが伺えます。

また、マタニティハラスメントの問題も見逃せません。非正規で働く場合よりも正規雇用として働く場合の方が、マタハラ被害に合う確率が高いという調査データもあります。

厳しい再就職の現状

もう1つの問題となるのが厳しい再就職の現状です。子供がある程度大きくならないと育児と仕事の両立は難しく、少し子育てになれた段階でいざ働きたいと思っても保育所に預けられない場合もあります。

また、後の章で詳しく説明しますが、再就職できても非正規の雇用になって、労働条件が悪くなることが多々あります。このような理由からM字カーブは改善しつつあると言ってもその状況には依然として問題があると考えられます。

改善されつつあるM字カーブ

いろいろな問題はありますが、確実にM字カーブ問題は解消されつつあります。国や企業がM字カーブの改善に向けてどのような取り組みをしているのかについて説明します。

国の改善への取り組み

国はM字カーブを改善するために、女性の社会進出を促進しつつ、仕事と育児を両立しやすい環境を法律によって整えようとしてきました。女性活躍推進法や育児介護休業法を制定して女性が結婚、出産後も仕事を辞めなくても良い環境を作り、女性活躍加速化助成金という助成金を用意しています。

また、女性活躍推進企業を表彰する「なでしこ銘柄」を平成24年に開設。選定にあたり、女性活躍のための「行動計画を策定していること」と、「女性管理職比率を開示していること」をスクリーニングの要件とし、また女性活躍推進に関するスコアリング基準による評価や財務指標も加味したうえで、毎年3月に選定を行なっています。

企業の改善への取り組み

企業もM字カーブの改善に取り組んでいます。女性活躍のために女性管理職や役員を意識的に増加させ、育児と仕事を両立できるように時短勤務や在宅ワークのような変則的な勤務制度を認める会社も増加しています。

今後も労働力不足も予想されることから、ますます女性に戦力になってもらうために女性活用を強めることが予想されます。

M字カーブの解消による経済的なメリット

M字カーブを解消することには経済的なメリットも存在します。優秀な女性が離職をしないことによって企業の生産性は高まり、GDP、税収の増加も期待できます。

たとえば、平成24年に全国知事会がまとめた「女性の活躍の場の拡大による経済活性化のための提言」によると、就業希望者が仕事と家庭を両立して働けるようにするだけで、約567万人の女性が追加で就労でき、その年収の合計は約15兆5千億円にのぼると試算されています。

M字カーブを解消するために必要なこと

M字カーブ問題を解消するためにどのような対策は必要なのかについて説明します。

正規雇用と非正規雇用の賃金格差の是正

まず、M字カーブを改善するために必要なのが正規雇用と非正規雇用の賃金格差の是正です。30代以降の女性の就業率は改善傾向にあるものの、非正規雇用の7割が女性だと言われています。

せっかく、働き続けたいと思う女性がいても非正規雇用に変わることで労働条件が著しく低下してしまえば、働き続けようというモチベーションも減りますし、子育てと仕事を天秤にかけて再就職に二の足を踏んでしまうのも当然の心理と言えるでしょう。

正規雇用と非正規雇用の待遇格差是正は、大企業では2020年4月から、中小企業も2021年から義務化されますので、女性活躍推進に寄与することが期待されます。

男性の育児参加

女性が働き続けるために、男性の育児参加は必要です。特に、都市部などで加速している核家族世帯では、両親からの家事育児サポートを受けられない女性も少なくありません。家事代行サービスやシッターに対する心理的また価格的ハードルも低くはないため、男性の育児参加は不可欠といえます。

男性が育児に参加できれば、育児における女性の負担を削減して、仕事を継続しやすくなると考えられていますが、男性の育児休暇取得率は5.14%とまだまだ低いままです。

この状況を改善するためには、イクメンに関する啓蒙活動はもちろんのこと、政府と企業が協力して男性も育休を取得して、積極的に育児に関われるように制度を構築することが必要です。

柔軟な働き方の拡充

柔軟な働き方を拡充する必要があります。1日8時間、週5日オフィスで勤務するという均質的な労働を求められると、多くの場合、育児や家事と両立は難しくなります。

たとえば、オフィス勤務だけではなく、一定の条件を満たせば在宅ワークを認めたり終業時間を保育園の送り迎えに合わせて勤務時間を繰り上げたりなどと、突発的に対応が迫られることも多い育児に合わせた、柔軟な働き方ができるように制度をつくる必要があります。

仕事と育児の両立のために

男性の育児参加の促進や、正規雇用と非正規雇用の待遇格差是正など、まだまだ課題は残るものの、M字カーブの数値自体は着実に改善されつつあります。

今後は女性の社会進出、産休、育休制度を整えるだけではなく、女性自身が自らのキャリア・働き方を自発的に考えられるようサポートを厚くするフェーズに至りつつあるのではないでしょうか。