スマートビルディングでコスト削減
近年低炭素社会の実現に向けてスマートシティやスマートグリッドへの取り組みが進められる中、オフィスビルの電力最適化にも注目が集まっている。センシング技術の向上やIoT技術がオフィスビルにも導入されたスマートビルディングが登場している。
スマートビルディングについては明確な定義はされていないが、主に電力の最適化やセキュリティシステムなどが統合的に管理されたビルを指すとされている。まだ少数ではあるが、実際に導入されているケースや実証実験を行う企業なども国内に増えている。
業務部門のCO2排出割合
省エネと聞くと家庭内や商用ビルの節電に関するイメージも強いが、実際には日本における全CO2排出量のうち半数以上を産業・業務部門が占めている。東京都環境局の調べによれば、都内のCO2排出量のうち約38%が業務部門からの排出となっており各事業所のエネルギーの最適化が大きな課題となっている。
スマートビルディングとは
ビルエネルギー管理システム「BEMS」
スマートビルディングの管理を行うシステムとして、「BEMS(Building Energy Management System:ベムス)」が活用されている。EMSとはエネルギー管理システムを指し、BEMSのほかにもHEMS(家庭内)・FEMS(工場内)・CEMS(地域内)など管理対象ごとにシステムが異なる。BEMSでは主に空調・照明・配電設備や電子機器などの電力使用量の制御と見える化を行われる。
また、BEMSに求められる主な機能としてデマンドピークの抑制があげられる。商用ビルやオフィスビルにおいては、年間の電気の基本料金がピーク電力値をもとに設定されるため、ピークの抑制がコスト削減に大きく影響する。このような要因から経済面でのコスト削減にも大きく影響する。
大規模な空調システムや照明を導入しているビルでは、人感センサーや温度センサーによる最適な温度設定や照度設定が行われ効率的な節電が実現する。これによりビル全体のエネルギー消費の削減にも貢献できる。
スマートビルディングの仕組み
スマートビルディング実証実験の例
ここ数年で新たなスマートビルディングの開発のためにIT企業やビル産業が共同で実証実験を進めている。
NTT都市開発の実証例
NTT都市開発は、NTTグループ企業であるディメンションデータジャパンと共同でIoTとM2M(Machine to Machine)のプラットフォームを用いたスマートビルディングの実証実験を行なっている。こちらの実験ではオフィスビルにおいて特に混雑する喫煙室を対象とし、人数や位置データを人感センサーで測定。これに加え温度・湿度・CO2などのデータを環境センサーで取得し、相関関係を求める。
喫煙室内のセンサー情報がネットワークを通じて蓄積され、分析結果からビルの制御システムに指令が送られ、さらにPC上でも可視化が可能となる。人間を介さない機械同士のネットワークが構築されることにより、コスト削減とビルの快適さ・環境負荷軽減の両立を目指すとした。
ソフトバンクと日建設計の実証例
ソフトバンクと日建設計は業務提携をして、次世代スマートビルディングの設計開発など進めている。ビルやオフィスに新たな付加価値を提供できるソリューションを開発することを目的とし以下のような実験がなされている。
ビルの「ナカ」と「ソト」の人流解析とIoTセンシングによる新しいワークプレイスデザイン
環境センサーや人感センサーなどの各種IoTセンサーを使用し、両社が持つ人流・群流データを解析して、働き方改革を実現する新しいワークプレイスをデザインします。IoTとロボットの導入を考慮した次世代スマートビルディングの共同検討
各種IoTセンサーとロボットを融合した新たなビルソリューションを共同で検討し、ビルの設計段階から取り入れる取り組みを行い、さらにビルの周辺環境を含めたスマートシティーづくりに貢献します。各種IoTセンサーを活用したビルのライフサイクルマネジメント最適化検証
各種IoTセンサーが収集するさまざまなデータを分析し、消費電力量の削減だけでなく、設備管理、清掃、警備などのライフサイクルコストを総合的に最適化するソリューションを検討・開発します。
こちらの実証実験は、電力やエネルギーの削減や効率的利用だけでなく、清掃・警備などの人的リソースが必要な部分においてもマネジメントし運用コスト削減する特徴がある。
世界のスマートビルディングの動向
世界のスマートビルディング市場は2017年の74億2000万ドルから2022年には317億4000万ドルと5年で4倍以上に伸びると予測されている。海外ではCISCO・IBM・シーメンスなどあらゆる企業によってすでにビル制御システムの開発が進められており、スマートシティ同様に欧米が先行しているようだ。公官庁・ビジネス・研究組織の順に取り組みが活発化しており、各国政府とも積極的であることがうかがえる。
今後も加速するあらゆるモノのスマート化
スマートグリッドやスマートシティ、スマートモビリティなどと同様に今後あらゆるモノのスマート化が進んでいく。それらによってより良い社会の実現を目指す反面、サイバー攻撃の対象となる懸念もある。特に各国とも官公庁などがあらゆるモノのスマート化を推し進める中、セキュリティ面に関する安全性も考慮する必要がある。