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「折りたたみスマホ」いよいよ発売
以前から話題になっていた折りたたみ式スマートフォンだが、ついに現実のものとなった。中国ベンチャー企業の柔宇科技(ロウユー・テクノロジーズ)に加え、スマートフォン世界最大手のサムスン電子がプロトタイプを披露し、まもなく発売するという。
折りたたみ式といっても、携帯電話でよく見られた、画面とキーパッドがヒンジで接続されたクラムシェル型ではない。スマートフォン画面の一部を実際に曲げてたためてしまう。この構造で最大のメリットは、長方形をした普通のスマートフォンと同程度の可搬性を備えるコンパクトなデバイスが、広げればタブレット並みの大画面で利用できる、という点である。
興味深いギミックであるが、耐久性に問題はないのか。たたんだり広げたりを繰り返していたら、すぐに壊れてしまいそうだ。そもそも、実用性はあるのだろうか。これまで現れては消えていった数々の2in1デバイス同様、スマートフォンとタブレットの二兎を追うとかえって使いにくくなる気がする。アプリを使っている最中に画面を折りたたんだら、どのように動くのだろう。
少し考えただけで疑問がいくつも浮かぶものの、正確な答えは得られない。ロウユーとサムスンからの情報が限られているからだ。折りたたみ式が際物で終わるのか、モバイルデバイスの一形態として定着するのか、判断しかねる。
いずれにしろ、折りたたみ式スマートフォンは脚光を浴びる存在になった。スマートフォンの分野では、当面のキーワードは折りたたみ可能、つまり「フォルダブル(foldable)」で決まりだ。そこで、現時点で公開されている情報を整理しておく。
折りたたみ式スマートフォンの現状
世界初の栄冠はロウユーの「FlexPai」に
世界で初めて折りたたみ式スマートフォンを出すのは、サムスンか華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)、もしかしたらLGエレクトロニクスやアップル、などとうわさされていた。ところが世界初の栄冠は、10月31日に「FlexPai(RY1201D)」を発表したロウユーのものとなった。
FlexPaiの画面は、7.8インチ、1,920×1,440ピクセル表示のAMOLED(アクティブマトリクス型有機EL)ディスプレイ。ほぼ中央で画面が外側に向けて折れ曲がる。たたんだ状態だと、画面が表面(810×1,440ピクセル)、裏面(720×1,440ピクセル)、通知表示に使われるエッジ部分(390×1,440ピクセル)の3つに分かれる。一番心配な耐久性については、曲げ伸ばしを20万回以上も繰り返す試験にパスしたそうだ。
出典:ロウユー / FlexPai
出典:ロウユー / FlexPai
OSは、Android 9.0ベースの「Water OS」という独自OS。広げた状態のサイズは134×190.35×7.6mm、重さは320g。
開発者向けだが、すでに販売を始めている。価格は、ストレージ容量が128GBのモデルで1,588ドル(約18万円)、256GBのモデルで1,759ドル(約20万円)。出荷開始は12月末の予定。
サムスンもプロトタイプを披露
ロウユーから遅れること1週間、サムスンが開発者向けイベントの場で折りたたみ式スマートフォンを披露した。正確には、「Infinity Flex Display」という折り曲げられる新開発の有機ELディスプレイを搭載した実動コンセプトモデルであり、ロウユーと違って具体的な販売計画は明らかにされなかった。
サムスンのモデルは、ロウユーのFlexPaiと逆に画面を内側へ折るようになっていて、開閉する動作は本と同じイメージだ。つまり、折りたたんだ状態だと、Infinity Flex Displayは内側に隠れて見えない。そのためか、ボディの外側に縦長のディスプレイを1つ設け、たたんでも使えるようになっている。
出典:サムスン / 2018 Samsung Developer Conference
FlexPaiは折りたたみ可能なディスプレイをできるだけ活用しようとする思想で、サムスンはスマートフォンとタブレットを使い分けるコンセプトを選んだように感じる。
グーグルはAndroidの折りたたみ画面正式対応を発表
ロウユーのFlexPaiは販売が始まっているのに対し、サムスンの折りたたみ式スマートフォンはコンセプトモデルに過ぎない。それでもサムスンの方が注目された。それには、サムスンが実績ある大手メーカーという理由だけでなく、サムスンの発表と連動してグーグルがAndroid OSで折りたたみ画面に正式対応すると表明したからだ。
グーグルが公開しているGIFアニメーションを見ると、Androidは画面を外側に折りたたむロウユー式と、内側に折りたたむサムスン式の両方をサポートするらしい。そして、2019年にリリースするであろうサムスンを含め、複数のAndroidスマートフォン・メーカーが同様のデバイスを出す予定だという。
Androidで折りたたみ式画面の扱い方が統一されれば、スマートフォンとアプリの開発が楽になり、メーカーやアプリの相違による混乱を抑えられる。その結果、折りたたみ式スマートフォンが当たり前になり、それを活用する便利なアプリもたくさん登場するだろう。
エッセンシャル・プロダクツの「Essential Phone PH-1」やアップルの「iPhone X」で採用された画面上部のノッチ(切欠き)は、当初こそ目障りで美しくないといった批判が多かったのに、今やハイエンド・スマートフォンの証しといえるほどだ。折りたたみ式の画面も、ノッチのような存在になるかもしれない。
アップルはどうする?
Androidが折りたたみ式スマートフォンに正式対応するとなると、気になるのはアップルの動きだ。今のところ、うわさレベルでアップルも出すという情報があるだけで、定かでない。ディスプレイが柔軟なデバイスの特許「FLEXIBLE ELECTRONIC DEVICES」(特許番号「US 9,971,448 B2」)を取得するなどしているので、何らかの形で検討はしていそうだ。
出典:USPTO / FLEXIBLE ELECTRONIC DEVICES
最近リリースされたIDCの調査レポートによると、スマートフォンの世界出荷台数は前年同期を下回る状況が続いている。具体的には、2018年第3四半期が3億5520万台で、前年同期の3億7780万台から6.0%減ってしまった。これで4四半期連続の減少だという。
IDCは2019年以降に成長基調へ戻ると予測しているが、先進諸国でスマートフォンの普及率が頭打ちになってしまった以上、今のままだと大幅増加は望めない。
ここで折りたたみ式スマートフォンが投入されると、起爆剤になる可能性がある。しばらくワクワク感の不足していたスマートフォン市場なので、一気に活気づくとしたら楽しみだ。ロウユーやサムスン、グーグルからの続報、ほかのスマートフォン・メーカーからの発表に期待しよう。