「3年連続300%増」のヤプリ流、展示会グロースハック術 - 急成長SaaSベンチャーがリアルイベントに注力するワケ

急成長するSaaSベンチャー・ヤプリ。クラウド型アプリ運営プラットフォーム「Yappli(ヤプリ)」でウェブマーケティングを支援するヤプリはいま、展示会や自社イベントなどの“リアルイベント”に注力しているといいます。売上「3年連続300%増」と急成長中のSaaSベンチャーがリアルイベントに力を入れる理由とは。11月に開催されたSaaSカンファレンス東京2018での講演から、ヤプリ流の展示会グロースハック術を探ります。

「3年連続300%増」のヤプリ流、展示会グロースハック術 - 急成長SaaSベンチャーがリアルイベントに注力するワケ

11月、SaaS関連企業を集めた「SaaSカンファレンス東京2018」が開催されました。ことしで3回目となる同イベントには約500名が参加。主催のベンチャーキャピタリスト、前田ヒロ氏は、年々参加者は増えておりSaaSの注目度は着実に上昇していると話します。

SaaSカンファレンス東京主催の前田ヒロ氏

同イベントではSaaS関連企業の代表者が登壇しセミナーを開催しました。なかでも多くの関心を集めたのは、「3年連続300%成長」を遂げて注目されているベンチャー、ヤプリの庵原保文代表の講演でした。テーマは「3年連続300%増のSaaS企業のHard Things」。急成長するSaaSベンチャーはいま、展示会や自社イベントに注力しているといいます。

ヤプリ流、3つのリアルイベント設計

ヤプリは、クラウド型アプリ運営プラットフォーム「Yappli(ヤプリ)」を提供しています。プログラミング不要で直感的に操作しアプリを開発・制作できるのが特徴。2013年のリリース以降着実に売上も伸びており、2014〜2017年にかけては3年連続約3倍増で推移しています。導入数は250社以上。ソリューションの大半はオムニチャネル・O2Oーーすなわち実店舗を持つ企業のウェブマーケティングに活用する事例が多く見られます。

オンラインからオフラインへと顧客を導く手助けをするヤプリですが、自身は“3つのリアルイベント”を通してオフラインからオンラインへと顧客を取り込もうとしています。

前田:業界ではヤプリさんの展示会ノウハウがヤバイって言われていると聞いているんですけど……。

庵原:主に3つやってまして、だんだん階段を昇っていくような設計にしています。まず1番がんがんお金を使ってやっているのが、いわゆる展示会。とにかく広い出会い、アウトバウンドに近いような出会いを得る目的があります。最近でも幕張メッセや国際展示場でやっているような展示会にバンバン出して、広くリード名刺を集めています。

次にコアな出会い、カンファレンスです。たとえばCFOだけのカンファレンスとか、EC業界のトップが集まるカンファレンスとか、そういう招待系のイベントの場でプレゼンしています。

最終的にどこを目指しているかというと、自社イベントです。たくさん人を集めてお金を払ってもらっているんですけど、それだけで終わらせるんじゃなくて、展示会やカンファレンスで集めたリードをここに集約して僕らのファンになってもらうという取り組みをやっています。

左:前田ヒロ氏、右:ヤプリ庵原保文代表

庵原:自分たちのイベントに出てもらうゲストを、カンファレンスとかで見つけているんですよ。ここには企業のトップが招待されているので、セールスの話もしつつ僕らのイベントにも来てくださいとお願いしています。

展示会の「選び方」と「グロースハック術」

前田:展示会って戦略的に選んでいるんですか?たとえばヤプリさんがHRサミットとかに出ているイメージってないんですけど。

庵原:そうですね、基本的にヤプリの7割のお客さんがマーケティングなので販促支援のアプリを使っています。基本的にはそういったマーケターが来る展示会を選んでいますね。

けっこうグロースハックしているんで、最近いろいろな人にお話しているんですけど、2016年に初めて出展したとき、いま思えばすごいダサかったんです。社員もすごく頑張っていたんですけど、3日間やると声も枯れるし社員が疲れちゃうんですよね。やっぱりコンパニオンが必要だなっていう話になりました。リードジェネレーション役はコンパニオンに任せて、社員はブースの中で構えて体力を温存。インサイドセールス、コンパニオンが連れて来たリードに対して商談を取りに行くようにしています。

展示会のブースデザイン変遷(提供:ヤプリ)

庵原:セミナーもやるようになりました。当初はこれも社員がやっていたんです。で、やっぱりいかつかったり、声が通らなかったりしたのでセミナーもプロに任せた方がいいと気付いたのと、ブースの内側でやるとあまり人が来ないということに気付きまして。いまはできるだけ廊下側でやっています。主催者には怒られるんですけど、僕らの気付いたテッパンはセミナーを怒られないくらいギリギリ廊下側に寄せて、しっかりプロの人にやってもらって、盛り上がるようにしています。

出展回数を重ねるうちにグロースハックしていって、気付けばブースもオシャレになっていって、しまいには(看板から)「アプリ」というキーワードすらなくなって、より自分たちの世界観を出していく感じになりました。

もう一つのテクニックは名刺の分類です。ブースにある箱を開けるとずらーっとビニール袋が並んでいて、もらった名刺をみんなでバンバンバンバン入れていく。それをもとに翌日からインサイドセールスが架電していきます。

前田:コンパニオンにもスクリプト、「このリードはホットかホットでないか」といった共有はしているんですか?

庵原:していますね。「アプリに興味ありますか?」みたいな簡単なスクリプトだけ用意して、仕分けてもらいます。あとコンパニオンはセクシーな人ではなく、社員かコンパニオンかよくわからないくらいの雰囲気の人に来てもらっています。

展示会の費用対効果をどう考える?

前田:展示会の費用対効果やROI(投資利益率)ってどういうふうに考えていますか?最近のブースを見るとものすごく投資されている印象なんですけど、どのくらい投資していいかとか、そのあたりはどうですか。

庵原:たとえば自社イベントだと800万くらいかかるんですけど、基本的には何件受注したかも見ているし、費用対効果とかROIも見ています。ただ経営者の僕としてはあまり細かく見ていません。去年失敗したとしても出しています。

理由は、最終的にCAC(顧客獲得単価)で見てるから。展示会一個一個で見るのもマーケ担当としては当然大事なんですけど、会社全体で見ると、マーケティングのアクティビティ全体がCACに合っているのか。あるいはLTV(顧客生涯価値)に対して3倍以上になっているかを見て判断しています。いまは投資を受けて「攻めろモード」のときなので。失敗もあれば成功もある。よっぽどひどくない限りはCACで見て、だめでも次の会をやるようにしています。

リアルイベントで「ファン」を増やす

前田:オフラインからオンラインへの効果的なつなげ方ってありますか?

庵原:一般論でよく聞くのは「1日ずれると10%到達率が落ちる」というもの。当然なるはやで荷電するようにしているので、(展示会で)よくわからない人からもらった名刺はナシにしているんですよね。競合なのかクライアントなのか代理店なのかホットリードなのかアポ確定なのか、基本的にはアポ確定を目指しているんですけど、ホットリード以上を目指してインサイドセールスがアプローチしていく。

ただ面白いのは、あ、面白いって言っちゃだめだな(笑)。あまり早く電話しすぎると怒られちゃうんですよ。「急すぎるわ、まだイベント参加してるわ」みたいな。やっぱり丁寧さはすごく重要だと思います。

カンファレンスでは、おいしいピザを食べながら僕がプレゼンする、みたいなことをやっています。

力を入れているのは自主イベントです。MMUはヤプリの名前を出さずに新規リードを目的にしています。ヤプリサミットはヤプリの名前を出しているので、ヤプリのお客さんが中心です。ことしからさらに「ヤプリナイト」っていうのを始めて、お客さんや僕らが近づきたいお客さんを呼んでいます。

2018年に開催した自社イベント(提供:ヤプリ)

庵原:ヤプリサミットは最初100人だったんですよ。当時は「30人くらいの会社が偉そうになんやねん」とかいいつつ空気読まずにやって。去年は500人、ことしは700人くらい集まるようになりました。リアルでの接触がものをいうので、ヤプリサミットでは必ず懇親会をセットにしています。エンタープライズにいくにつれ、リアルにお客さんと接点を持つ。接点を持つにしてもこういうオシャレなところを選んで大企業の方々をもてなす。

前田:サミットのほうはカスタマーサクセスの一環として考えていますか?

庵原:そうですね。ヤプリサミットの方は既存のお客さんが半分くらいですし、一方でそれを見ていただきたい新規のお客さんもたくさんいるので。

満足度はめちゃくちゃ高くて。(ヤプリサミットでは)毎年ロードマップを発表するんですよ。10個の新機能を発表するんですけど、期待感も持ってもらえますし、製品・将来性を理解してもらえるので、ヤプリのファンになってもらえるんです。ヤプリのファンのことを「ヤプラー」って呼んでいるんですけど、Tシャツやパーカーを着て写真を撮ったらヤプラーだみたいな(笑)。うちのカスタマーサクセスは仲良くなったお客さんにTシャツを配ったりしています。

リアルが顧客の心を掴む

通信技術の発展などによりSaaS市場は拡大を続けている。多くは月額などで定額課金するサブスクリプションモデルを採用。顧客にとっては初期費用を抑えられるため導入障壁が下がるメリットがある。

企業にとっては安定した売上が見込める一方で、顧客に使い続けてもらう努力が欠かせない。つまり、新規の顧客獲得に加えて、解約率を下げることこそがカギとなる。

新規顧客につながるリードを大型展示会で獲得しつつ、自社イベントで既存顧客の心をつかみサービスを使い続けてもらう。オンラインのコミュニケーションに頼りがちななかで、顔が見えるリアルな接点こそが関係性構築に生きるーーヤプリの展示会・イベント戦略からは、そんな一つのビジネスのヒントが見えてくる。