学生論文で描かれた2030年の未来予想図|スマートヘルスケアモビリティ、ペイフォワード、コーチング型教育

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2019年頭、個人の目標やビジネ戦略を立てている人も多いだろう。しかし経営者や企画者であれば、今年1年という近視眼的な視点ではなく、この先10年・20年にどんな未来を描くかが重要だ。発想のアップデートを続けるヒントとして、野村総研が行った「NRI学生小論文コンテスト2018」から、受賞した論文を紹介する。大学生の部で大賞を受賞した作品テーマは、生体データをモニタリングするIoTデバイスをハンドルに搭載した「スマートヘルスケアモビリティシステム」だ。

学生論文で描かれた2030年の未来予想図|スマートヘルスケアモビリティ、ペイフォワード、コーチング型教育

NRI学生小論文コンテスト2018とは

NRI学生小論文コンテスト2018は、野村総研の「次世代の社会を担う人づくり支援」の一環として開催しているアワードである。

13回目となる今回のテーマは、Share the Next Values!「2030年の未来社会を創るイノベーションとは ~世界に示す日本の底力!~」。

出典:NRIニュースリリース「2018年11月30日に行われた論文審査会の様子 」

特別審査委員にはジャーナリストの池上彰氏やノンフィクションライターの最相葉月氏も参加し、予備審査、一次審査、論文審査、プレゼン審査の4段階を経て、全1,444作品の中から受賞8作品が選出された。

受賞論文一覧

【大学生の部】

順位 論文タイトル 入賞者
大賞 スマートヘルスケアモビリティ ~オーダーメイドAIが導く、幸せを創出する車~ 須井 翼(すい つばさ)さん (早稲田大学 創造理工学部4年)
優秀賞 「コーチング型教育」への教育イノベーション ~AI時代に必要な人材を学校教育で~ 越智 達也(おち たつや)さん (北海道教育大学 札幌校 教育学部4年)
特別審査委員賞 子育て支援・家事代行の担い手としてシニア力を活用― 子育て終了世代の余力を子育て世代に『ペイフォワード』 岩間 優(いわま ゆう)さん (東京医科大学 医学部医学科6年)

※敢闘賞・奨励賞 ほか5作品

【高校生の部】

順位 論文タイトル 入賞者
大賞 「お金」に名前を書く ― 生きることと学ぶことをつなげる 佐藤 拓海(さとう たくみ)さん (明秀学園日立高等学校2年)
優秀賞 日本が誇る最強繊維 清田 彩加(きよた あやか)さん (中央大学高等学校3年)
優秀賞 「マナビ介護」による介護うつの減少は可能か。 松賀 翔佑(まつが しょうすけ)さん (立命館慶祥高等学校3年)
特別審査委員賞 根室とロシアの合同大学設立に向けて 岸本 万尋(きしもと まひろ)さん (立命館慶祥高等学校3年)
特別審査委員賞 「はじまりの村」が作る循環型社会 長谷川 その香(はせがわ そのか)さん (宮城県宮城野高等学校 2年)

敢闘賞・奨励賞 ほか15作品

※敢闘賞・奨励賞受賞者については、以下参照。
https://www.nri.com/jp/news/event/lst/2018/cc/sustainability/contest/result

【大学生・大賞】スマートヘルスケアモビリティ

大賞の論文「スマートヘルスケアモビリティ~オーダーメイドAIが導く、幸せを創出する車~」は、今話題のモビリティに、高齢化で必要性が論じられている「予防医療」という観点を掛け合わせ、実用化に向けた具体的な提案が行われた点が評価されたという。

心疾患や脳血管疾患などの発作性疾患を早期発見・治療するため、日常的・長期的に生体データをモニタリングするIoTデバイスをハンドルに搭載するのが「スマートヘルスケアモビリティ」だ。

2018年にはトヨタとソフトバンクが新会社設立でモビリティ事業へ本腰を入れるなど自動運転、コネクテッドカーの実用化はもう目の前に来ていると言われている。

審査委員のコメントでは以下のように評価している。

「自動車産業の成長と掛け合わせ、地方での自家用車利用を加味した独創性もあり、運転に従事する人への活用や、期待できる疾患の広がりなど、展開力の高さに期待感を抱かせた。」

【高校生・大賞】お金に名前を書く

高校生部門の大賞は「『お金』に名前を書く ― 生きることと学ぶことをつなげる」だ。

2030年には、お金に名前を書きそれがどう使われていくのかをトレースする技術は実現可能だと考えられ、ここに注目すると次の行動が見え、世間の味方は転換するはずだというのだ。

この論文では、生きることが学ぶことと乖離しているという問題提起から、お金に名前を書くというシンプルながら大胆な発想に転換させていることが高く評価された。

その他の受賞作品への審査員コメント

「コーチング型教育」への教育イノベーション ~AI時代に必要な人材を学校教育で~

日本の未来にとって真に必要な人材は既存の枠組みでは育たないのではないか、という問題意識のもと、個を引き出し育てる「コーチング型教育」への教育イノベーションの必要性が説得力がある。教科指導の個別最適化や、協働する場としての学校など、日本の義務教育への導入にはハードルが高い取り組みにあえて立ち向かい、問題提起している。

子育て支援・家事代行の担い手としてシニア力を活用― 子育て終了世代の余力を子育て世代に『ペイフォワード』

他人から受けた親切を別の人への新しい親切でつないでいく“ペイフォワード”。子育てを終了したシニア世代の力を子育て世代の子育て支援・家事代行にペイフォワードするマッチングシステムと、安心・安全な場所の確保という提案。子育てと仕事の両立に関する社会システムの転換は、日本の未来の必至の課題であるとともに、シニアの生きがいや、働く親と子供のケアにつながる提案であるとして、高く評価された。

●日本が誇る最強繊維

交通事故死をなくしたいという素朴な想いから出発して、最強の強度を持つ日本の新繊維に着目。車内ではなく車外に取り付けるエアバッグを開発するという、大人ではなかなか発想できないユニークなアイデアと、着眼点が評価。「クモの巣エアバッグ」の実現可能性の高さに加え、車以外にもバイク、電車、飛行機、子供の遊具など、汎用性は高い。

「マナビ介護」による介護うつの減少は可能か

介護うつの減少と、これからの高齢社会を生きる学生が介護を学ぶことを目的として、公立高校の生徒が授業の一環として在宅介護をしている家庭に赴き、介護を手伝うプロジェクト、「マナビ介護」を提案。高校生の視点から、2030年という近い将来へ向けて、喫緊の課題が提示されていることを、高く評価した。若者が在宅介護を手伝うことが、実は介護うつの緩和につながるのではないかという人間的な着眼点も優れている。

根室とロシアの合同大学設立に向けて

根室の地方創生と北方領土問題の改善のために、高等教育機関のない根室に日本初の日本・ロシアの合同大学を設立することを提案。北方領土問題の交渉が注目されるなか、具体的で実現可能性も高く、ロシアとの関係改善にも資する可能性がある。

「はじまりの村」が作る循環型社会

廃村放置が決まった土地を「はじまりの村」と名づけ、再生可能エネルギー特区として日本の技術で循環型社会を作り、有志の個人や企業が集まってゼロからまち作りを行うという提案。地方の過疎化を進めてきたテクノロジーの進化が、さらなる進化によって人々を地方へ呼び戻し、マイナーな田舎暮らしが最先端の暮らしへと変貌するという、マイナスをプラスに変えて前向きに進化させようとするエネルギッシュな情熱と、ユニークな発想のバランスが良い。