講師:コミュニケーション・ディレクター 佐藤尚之(さとなお)氏
【プロフィール】電通で、コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て独立。コミュニケーション・デザイナーとして、キャンペーン全体を構築する仕事に従事している。(株)ツナグ代表、(株)4th代表、復興庁復興推進参与、一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事、大阪芸術大学客員教授、やってみなはれ佐治敬三賞審査員、花火師などの肩書を持つ。著書は「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)、最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。
大手企業も注目する「ファンベース」
1月11日、野村ホールディングス、アライドアーキテクツ、佐藤尚之氏の三者による「ファンベース」を基盤にしたマーケティング支援事業のための合弁会社設立が発表されました。
プレスリリースによれば、人口減少や高齢化による購買力の低下、SNSなどで膨大な情報があふれる現代。企業は生活者との新たな関係構築を求められており、経営に直結する戦略として「ファンベース」が必要なのだといいます。
また、取材した「現代経営技術研究所セミナー」では、化粧品メーカー、サッカーJリーグチーム、鉄道会社など大手企業の参加が見られました。
今、ファンベースに対する、企業の関心は高まっています。ファンベースとはなにか、今なぜファンベースが必要なのでしょうか。
ファンベースとはなにか
ファンベースとは
佐藤氏はファンベースを次のように定義しています。
企業やブランドのファンを大切にし、ファンをベースにして、中長期的に売上や価値を向上させていく考え方。
講演の冒頭、佐藤氏が前提として語ったのは、ファンベースは単なるテクニックではないということです。
佐藤氏 ファンベースとは、実はこれまでの事例をなぞっていけばなんとかなる、というものではないです。たとえば、家庭が100あれば100通りの夫婦関係があるように、企業とファンの関係もそれぞれ違います。
だから、事例どおりにやれば成功する、というものではありません。人の感情を相手にするので、再現性がないとも言えます。とにかく、まずファンの方をよく見ましょう、よく傾聴しましょう、という発想が出発点です。
広告からファンベースへの変遷
広告業界で30年以上活躍してきた佐藤氏は、これまで4つの本を執筆してきた。『明日の広告』、『明日のコミュニケーション』、『明日のプランニング』そして『ファンベース』だ。佐藤氏は、この4つはひとくくりにはできないと話す。
佐藤氏 「広告」は企業に都合の良いことを押し付けている、いわゆる妨害型。そして、相手の気持ちを考えましょうというのが「コミュニケーション」。ただ、この2つはあくまでも企業目線で、企業の言葉で伝えていく方法です。
今、企業の言葉は簡単には生活者に受け止めてもらえなくなっています。そこで、SNSなども含めて、全体的なプランニングが必要になってくる方向へ時代は変化してきました。
そして、これからはファンベース。時代の流れからしても、必然的にファンベースへ向かわざるを得なくなってきていると思います。
広告→コミュニケーション→プランニング→ファンベース
しかし佐藤氏は、広告を否定しているわけではない。ただ、消費者がよりシビアになる時代に、企業の一方的な発信だけでは届かないのだという。
佐藤氏 新規の顧客を獲得するよりも、今愛してくださっているファンを大事にしていく。ファンをベースにするほうが、先決であり本筋であるということなんです。その考え方のフレームワークがファンベースです。
企業にとってどんな人が「ファン」なのか?
では、ファンベースでいう「ファン」とは、一体どんな人を指すのだろうか。
佐藤氏 単に買ってくれている人は、ファンとは言えません。ファンとは、「企業やブランド、商品が大切にしている価値を支持してくれる人」と僕は定義しています。
たとえば、いつも買う水があったとします。自分はどちらかというとその水が好きだし、よく飲む。でも、もしこれと同じような商品が出て、もう少し安いものが出たらきっとそっちを買ってしまう。その程度の好きは、ファンとは呼びません。
ファンは、商品の裏側にある開発ストーリーや、価値観、企業の取り組みなども含めて、支持をしてくれる人です。
ファンとは、〇〇〇〇(企業やブランドなど)が大切にしている志や提供価値、方向性やクオリティを支持してくれる人
今、なぜファンベースが必要なのか?
佐藤氏 これまでは新規顧客を増やさないと売上が上がらないと、考えられてきました。また貴重な予算をすでに買ってくれている人に投下するのは抵抗がある、という人も多いです。
ましてや経営者は、予算を既存顧客に使うことで、本当に対前年比に好影響が出るのかと疑います。新規顧客を狙えば業績が伸びるという時代は長かったし、その成功体験から抜け出せずにいるのです。
では、既存顧客へのアプローチであるファンベースが、なぜ必要なのか。4つの視点から説明していきます。
1.ファンは売上の大半を支え、伸ばしてくれるから
2.時代的・社会的にファンの重要度が増していくから
3.ファンが新規顧客を増やしてくれるから
4.効きにくくなったキャンペーンの効果をアップさせるから