AI特許出願トップ5に東芝、NEC - 教育機関は中国独り勝ち

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記事の情報は2019-02-12時点のものです。

世界知的所有権機関(WIPO)が初めてAI関連の特許出願数などを調査した。日本企業は出願件数が多く、世界トップ5に東芝とNECが、トップ30をみると計12組織が入っている。大学など教育機関の多さは中国が「独り勝ち」状態だった。また分野別にみると、ライドシェア向けのマシンラーニング技術、音声認識にも利用されるディープラーニング技術の増加率が高いという。
AI特許出願トップ5に東芝、NEC - 教育機関は中国独り勝ち

スマートスピーカーなどで身近になったAI

人工知能(AI)という言葉は1950年代に初めて登場したが、概念自体はそれ以前から存在しており、AI研究の歴史はそれなりに長い。ただ、その成果は実験的なものが多く、消費者が日常でAIを体験する場面はほとんどなかった。

それが2010年代に入り、状況は一変した。テレビのニュースや新聞の記事でAIが取り上げられない日はないほどだ。日々の生活も、普及期に入ったスマートスピーカー、AI音声アシスタント対応スマート家電、高度なアプリの動くスマートフォンなど、アマゾンやグーグル、アップルなどのAIエコシステムに囲い込まれつつある。

こうした状況を受け、世界知的所有権機関(WIPO)がAI研究開発トレンドを調査し、報告書「WIPO Technology Trends - Artificial Intelligence」を公表した。それによると、AIに関する特許出願は近年急増したそうだ。

AIのなかでどの分野が注目され、どの国や企業、産業分野がAI研究に積極的なのか、WIPOの報告書をみていこう。

AI特許出願は2013年から急増

他技術より目立つAI特許の増加

WIPOによると、1950年代にAIという概念が言語化されて以降、2016年までに発表されたAI関連の学術論文は160万部以上、発明特許出願は34万件に及ぶ。そして、AI関連特許の半数以上が、2013年以降に登録された発明だという。

AIに分類される技術のうち、特許では機械学習(マシンラーニング)が多い。なかでも、機械翻訳などに応用されるニューラルネットワークは、全体の3分の1以上で使われていた。また、ライドシェアリングで使われるタイプの機械学習に関する特許出願は、2013年の9,567件から、2016年の2万195件へ増えた。

音声認識などに利用される機械学習技術の深層学習(ディープラーニング)は、特許出願が最速ペースで増えている。具体的には、2013年が118件、2016年が2,399件と、3年間で20倍近くも増加した。

ちなみに、特許出願は全体的に増加しているが、2013年から2016年にかけての増加率は33%にとどまっており、AI関連特許の急増ぶりがよく分かる。

自動運転やロボットへAI応用進む

出願されたAI関連特許の応用分野については、自動運転車に不可欠な画像認識などのコンピュータービジョンが最多で、49%で言及されていた。ロボット分野へのAI応用も活発で、ロボット工学のAI特許出願は2013年が622件、2016年が2,272件、ロボットアーム制御などのコントロール手法に関する出願は2013年が193件、2016年が698件といった状況だった。

産業分野別にみると、AI関連特許の出願増加ペースがもっとも速いのは、自動運転車を含む運輸分野。出願件数は2013年が3,738件、2016年が8,764件で、2倍以上の伸びだ。それ以外では、以下の分野が目立つ。

電気通信

  • 2013年:3,625件
  • 2016年:6,684件

生命・医療科学

  • 2013年:2,942件
  • 2016年:4,112件

個人向けデバイス、コンピューター処理、マン・マシン・インターフェイス

  • 2013年:2,915件
  • 2016年:3,977件

活躍する日本、躍進する中国

出願件数トップ30のうち、12が日本企業

AI関連特許の出願件数を出願人別に集計すると、2016年末時点で8,290件のIBMが他を大きく引き離して1位。以下、2位はマイクロソフトの5,930件、3位が東芝の5,223件、4位がサムスンの5,102件、5位がNECの4,406件。

出願件数では日本企業が活躍しており、上位30組織に東芝とNECのほか、富士通、日立製作所、パナソニック、キヤノン、ソニー、トヨタ自動車、NTT、三菱、リコー、シャープが入っている。

出典:WIPO / WIPO Technology Trends 2019 - Artificial Intelligence

教育機関トップ20のうち、17が中国機関

出願件数上位30組織のうち、26組織が企業で、4組織が大学または研究機関だった。

注目すべき点は4組織のうち3組織が中国関係で、17位が中国科学院(CAS)、29位が西安電子科技大学、30位が浙江大学。教育機関に限るとCASが1位で、上位20組織のうち17組織を中国の機関が占めていた。中国は、Edtech領域でユニコーン企業を5社輩出するなど、教育分野での成長が目覚ましい。

日本の組織では、研究機関だと産業技術総合研究所(AIST)が244件でトップ。これに情報通信研究機構(NICT)が続く。

出典:WIPO / WIPO Technology Trends 2019 - Artificial Intelligence

AI関連論文でも中国の組織は成果を上げており、学術論文の上位20組織の半数が中国組織だった。日本の組織は、東京大学が1位。ただし、論文の件数はCASの3分の1程度にとどまった。

出典:WIPO / WIPO Technology Trends 2019 - Artificial Intelligence

AI以外の特許も圧倒的に中国が強い

中国の躍進は、AI分野だけの話でない。WIPOの調査によると、2017年の特許出願件数ランキングで中国は1位になっている。しかも、出願件数は138万1,594件で、2位米国の60万6,956件、3位日本の31万8,479件よりはるかに多い。さらに、前年比は中国が14.2%増、米国が0.2%増、日本が0.03%増で、中国の独り勝ちだ。

出典:WIPO / World Intellectual Property Indicators 2018

特許や論文は実用化に直接結びついていないものの、特許出願などが多いことは、多くの企業や研究機関が取り組んでいる事実を示す。

AIに対する期待が高い状態は当面続き、中国の企業と研究機関は今後も対AI投資を惜しまないだろう。特許を押さえられると、どのように優れたアイデアであっても事業化が困難になる。AI分野の研究開発は、一刻の猶予も許されない段階に入った。

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